24_7

Episode Final

「今年の第二幕は凄いぞォォ~!?」

ふんどし一丁の近藤さんが隊士達を煽る。私はその例外でもなさそうな土方さんに溜め息を吐いた。

まったく…これだから酔っ払いは。
第二幕で何するか知らないけど、土方さんのこの様子じゃ約束なんて以ての外。10分後には私と話した内容すら覚えてないんだろうな…。

「では第二幕を発表する!第二幕はァァ~ッ、カリモノ競走だァァァ!」

か…

「借り物競争…?」
「おい大事なとこだぞ、紅涙。黙って聞け。」

なんでこの人、こんな真剣なの…。
というか、酔っ払いしかいないこの状況で借り物競争をするなんて本気?元気にも程がありますよ…真選組。

「カリモノ競争の賞品はなんと!豪華大江戸ホテル、ペア宿泊券だァァァ!!」
「!!!?」
「「「うォォォ~ッッ!!ホテルゥゥゥ!!」」」

ホっ…ホテっ…ホテル宿泊券だとォォ!?

「どうだお前ら!これさえあれば25日のクリスマスナイトは盛り上がること間違いなしだぞ!」
「「局長最高ォォォ!!」」
「「男前ェェェ!!」」
「おいおいやめろ~、言われなくても知ってるっつーの☆」

ふんどし姿の近藤さんがウィンクする。言い得ぬ感情が湧き上がった…が、今は私も近藤さんを称えたい!ありがとう近藤さん!こんな素敵な賞品を用意してくれて、本当にありがとう!!

「どうだ?なかなかの商品だろ。」

隣から土方さんが話しかけてくる。私はテンションそのまま「はい!」と頷いた。

「センス良いです!」
「フッ…知ってる。」

…ん?

「なァ紅涙。あの券、取れたら二人で行くか。」
「…え!?ふたっ、二人で!?」
「ペア券だからな。どうだ?」
「行く!行きたいです!!」

なんて素敵な展開!まさか土方さんが私との夜を考えてくれてるなんて!しかも、そのために借り物競争なんかに参加しようとしてくれるなんて…!

「頑張ってくださ――」
「頑張って来いよ。」
―――ポンッ…
「…え。」

肩に手が乗った。私はその手を見て、土方さんの顔を見る。

「…え?」
「行きたいなら、死ぬ気で1番取ってこい。」

死んだら行けないけどね!…って、そうじゃなくて!

「土方さんが借り物競争に出るんじゃないんですか!?」
「俺が出ると何かと公平性がなくなる。」

それはまぁ…そうでしょうけど。

「いいぞ?べつに行きたくねェんなら俺は…」
「行きたいです!絶対取ってきます!!」
「頑張れよ。」

土方さんが薄く笑う。その妖艶な笑みに胸を震わせていると、

「早雨にだけは絶対ェやらねー!」

周りから声が聞こえてきた。

「アイツは俺にプレゼントくれなかったからな!」
「期待させやがって!!」

そ、そんな…サンタ様の件を私に言われても。雇われだし、私は権限も何も……いや、宿泊券のためだ!

「すみません…。」

顔をひきつらせながら謝った。すると、

「…おいテメェら。」

ムクッと土方さんが立ち上がる。

「誰に何をやらねェだって?あァ!?」
「「ヒィィッ!!」」
「カリモノ競争には正々堂々戦うと誓うヤツだけが参加しろ。じゃねーと俺が問答無用で失格にする。」
「「すみませんでしたァァァッ!」」

隊士達が土下座する。その速さは目に見張るものがあった。この人達…謝り馴れてる。

「ではカリモノ競争の出場者を決めるぞォォ~!」
「「「イエェェェイ!!」」」
「出場できるのは7人だ!希望者は前へ!」

な、7人!?7人だけ!?

「やってやるぜ!」
「俺に借りられない物なんてない!」

たった7人の枠をかけ、凄い数の隊士達が前へ出た。もちろん私も希望者の1人…だけど、これってとんでもない倍率じゃない!?

「ちょ、ちょっと自信ない…。」

腰が引ける。あの数の中で残れきれる気がしない。

「紅涙も早く行けよ。」

土方さんがお酒片手に私を見る。

「欲しいんだろ?宿泊券。」
「欲しいですけど、あの倍率を見ると…」
「なに弱気になってんだ。負けて死ぬわけでもあるめェ。やるだけやって来い。」

…うん、そうだよ。残ればラッキーなだけ!土方さんと豪華大江戸ホテルに宿泊できるだけ!…宿泊したいっ!!

「行ってきます!」
「おう。やってやれ。」

私は血眼で待つ隊士達の元へ向かった。

7人の選出は平等にジャンケンで決めるとのこと。出場者を希望する隊士達は7つのグループに分けられ、ジャンケンする。

「勝つ!絶対俺が勝つ!」
「いや俺だ!あの券でキャバの姉ちゃんを落とすんだ!」
「僕は親孝行に使いたいんで、皆さん譲ってくれま…」
「「嫌だね!」」

…ジャンケンの時点でこの舌戦。勝てるのかなぁ、私。あまり強い方じゃないし、

「じゃあやるぞ!ジャーンケーン…ッ」

こういう時は大体、上手い具合に私だけ負けたりするんだよね…。

「ポンッ!!」
「「「……、」」」
「あ。」
「…早雨、お前…」

か…

「勝ったァァァ!!」

うそ、一撃!?マジで!?すごくない!?
出したチョキを掲げる。

「勝ちました!土方さん!勝ちましたよ!!」

土方さんの方を見て報告する。土方さんはフンッと笑ってコップに口をつけた。

「よし、じゃあ決定したな!この7人で始めるぞ~!!」

出だし好調!このまま宿泊券もゲットできそうな予感がする!!

「まずはお前らでジャンケンしてくれ!」
「「「また!?」」」
「箱の中から指令を引く順番のためだ。」

近藤さんがダンボール箱を揺らす。中からカサカサと軽い音が聞こえた。どうやらあそこに運命を決める『借り物』が書いてあるらしい。当たり前だが、簡単な物を引けば1番になれる可能性は高まる。これも気が抜けないっ!!

「ジャン~ケ~ン…ホイッ!」

…ここでの結果は3番目だった。ま、まぁ先に引いたからといって、楽な物を引けるとは限らないし!

「引くのは1人1枚だ。見ていいと言うまで紙は開かないように!」
「うっス!」

1番目の人から順に紙を引いていく。何度か折りたたまれた白い紙は、透かしても中の文字が見えないようになっていた。

「次にルールを説明する!お前らが手にした紙の中には『カリモノ』が書いてある。それを――」
「借りてくりゃいいだけっスよね?」
「かもしれないな。」

…かも?
話を聞いていた7人の頭にハテナマークが浮かんだ。

「そこに書いてある物は誰かから借りる物かもしれないし、誰かから狩る物かもしれない。」
「え、」

『狩る物』!?狩る物って何!?

「はたまた仮の物であって、真の物を見つけ出さなければいけないかもしれない。」

面倒くさっ!なんで名探偵な色まで付けちゃうかな!?

「つまりだ。これは『カリモノ競争』であって、単なる借り物競争ではない!」

ああ面倒くせェェっ!心底面倒くせェよ、真選組!!

「書いてある物を誰よりも早く持ってきた者だけが、この宿泊券を手にすることが出来る!ただしチャンスは一度!カリモノが不正解なら即終了だ!」
「「「えェェ~!?」」」
「皆の者、精一杯がんばってくれよ!」
「局長~、2番目以降も何かあるんすか?」
「ない!甘えるな!」

シビアだ…。しかも目指すは1番のみ。つまり全員が問答無用で1番を狙うしかない。

「よーし!じゃ始めるぞ!」
「え!?」

ちょ、待っ――

「よーい…っ、開始!!」
「「「うォォォ~ッッ!」」」

皆は近藤さんの掛け声と同時に、破れそうな勢いで紙を開いた。早い…!

「はァァ!?ちょ、俺『他人の100万』って書いてんだけど!?」
「俺は『ナナ・テスカトリの肉』だ!なんだコレ!鶏か!?ブランド鶏の名前なのか!?」
「僕、『霊(仮)』なんですけど!仮も何も、どうやって連れてくればいいんすか!!」

誰も彼もが頭を抱える。…けれど、

「っくそう!誰か金貸してくれ!絶対返すから!」
「何か分からんが俺は肉屋に行くしかねェんだよな!?」
「霊媒師ってどこにいるんです!?」

分からないなりに動くしかない。私も自分のカリモノを早く探し出さなければ…!

「えっと、私のカリモノは……、…、……え?」

なんだこれ。

『俺のハート』

「誰のだよ!」
「どうした、紅涙。」
「あっ土方さん…!」

土方さんがフラフラした足取りでやって来てくれた。

「何て書いてたんだ?」
「それが…とんでもない物を引いちゃったみたいです。」
「『とんでもない物』?なんたよそれ。」
「これなんですけど…。」

紙を手渡した。

「『俺のハート』…なんですよ。」
「…誰だよ、『俺』って。」
「ですよね。でも考えられるとしたら…、うーん……近藤さん?」

書いたのは近藤さんだろうから、普通に考えると近藤さんのハートを射抜け的な解釈…だと思う。でも普通じゃない『カリモノ競争』なら、他の意味があるのかも…。
『カリモノ』、『借り物』、『仮の物』、『狩り物』……ハッ!

「まさか暗殺!?」
「暗殺だァ?どうしたらそんな解釈になるんだ。」
「『ハートを狩る』=『心臓を狩る』=『命を奪う』!」
「…そりゃねーな、さすがに。」

土方さんが近藤さんの方をアゴで差した。

「そんな挑戦的な内容なら、あんな格好してねェよ。」
「…それもそうですね。」

じゃあそのままの解釈でいいってことか…。他の皆に比べると、分かりやすくて当たり…なのかな?

「土方さん、近藤さんが好きなアニメキャラってありますか?」
「知らねェ。あんまアニメのイメージねェし…。つか、なんで。」
「コスプレしたら簡単にハートを狩れるかと思って。」
「コスプレ舐めんなよ。」
「え、あ、すみません…。」
「つーかよ……ふぁ。これ、」

あくびをして、手元の紙に目を落とす。見るからに眠そうなこの様子、かなり酔いが回っている証拠だろう。

「俺でいいんじゃねェのか?」
「…、…はい?」
「『俺のハート』だろ?誰って書いてねェんだから俺でもいいだろ。」
「ハハッ、まさかそんな。土方さんでいいわけな……、…。」

…いや待てよ?ないとも言いきれないんじゃないか?
もし「いいわけないだろ!」って言われても、「誰のハートか書かなかった方が悪い!問題が悪い!」とか何とか言い返せば切り抜けられるような…!?

「土方さん!」

眠そうにする土方さんの両腕を掴んだ。

「おう、」
「今すぐ私に土方さんの心を狩らせてください!!」

宿泊券ゲットだぜェェェ!

「…どう狩る気だ?」
「どっ…どうって……、……どうすればいいですか?」
「そうだなァ…あ。タバコ切れた。」
「買ってきます!」

駆け出そうとすれば、「まァ待て」と引き留められた。

「部屋に戻りゃタバコはある。ついでに飲み直そうぜ。」

飲み直すって…

「そんなに眠そうなのに?」
「眠くねェし。行くぞ。」
「え!?ちょっ、でもまだカリモノ競争の最中だしっ」
「俺次第だろ?『俺のハート』が必要なんだから。」
「そ、それはそうですけど…他の人が戻っくるまでにカリモノを持って行かないと!」

そうだよ、近藤さんの元へカリモノを持って行かなきゃいけないんだよ?なのに『俺のハート』って…どうやって持って行けばいいわけ?土方さんに宣言させる…とか?

『近藤さん!早雨 紅涙、『俺のハート』を持って参りました!』
『ほほう。で、トシがいる理由は?』
『俺が紅涙に心を狩られた』
『あ、そっち?なるほどなァ!なら証拠を見せてもらおうか』
『『証拠?』』
『ああ。皆の前でキスの一発でもしてもらわないと信ぴょう性がな!ムフフ!』

ムッフフ~!!
…でも。

『キスだァァ~!?』

…絶対してくれないだろうな。さすがに私も皆の前でするのは気が引けるし…いやでも土方さんがいいならいいけど……

「はぁ…、」

やっぱり難関なカリモノを引いちゃったかも。

「なんだよ、溜め息なんて吐いて。」
「やっぱり難しいカリモノだったかな~と思いまして。」
「一番楽だろ。俺のことだけ考えて行動すりゃいい話じゃねーか。」

おっ…

「王様か!」

思わずツッコむ。土方さんはフンッと鼻先で笑った。

「実際そうだろ?だからお前は、」

私の手首を掴む。

「せいぜい俺のハートを狩れるよう努力しやがれ。」
「くっ…、」

嫌いじゃない!この強引な感じも嫌いじゃありませんよ!このまま部屋でアハンウフン♡な展開になっても、私とすれば願ったり叶ったり!

ですけど!
ですけれどもだ!どうせなら二人で豪華なところに宿泊して、アハンウフンしましょうよ!!

「頑張りましょう!」
「お前がな。」
「いえ、土方さんがですよ!土方さんがモチベーションを上げてくれなきゃ狩るものも狩れませんし!」
「モチベーション、ねェ…。…まァいいけど。」

土方さんが広間を出た。その背中に続いて私も部屋を出る。
如何にも抜けます的な私達を皆はどう思うんだろう。やっぱりニヤニヤした視線で見送ってる?やだもう恥ずかしい~!

「……、」

ちょっと見てみようかな…。
そろっと背後に目をやった。

「……。」

誰とも目が合わない。
おいィィッ!一人くらいこっち見ろよ!みんな自分のことで精一杯か!?自己中の塊なのかお前らは!!

「なんだかなぁ…。」
「どうした?」
「いえ何も。」

まぁ秩序的には誰にも気付かれてない方が助かるんだけどね。ただ少~しくらいは冷やかされたかったというか…なんというか。ただ今絶賛自己中モードなので。

「そんなに心配すんなよ。」
「…え?」
「もし誰かに先越されたら、その時は俺が連れてってやるから。」
「えっ…」
「行きてェんだろ?大江戸ホテル。」
「な……っ、」

なんじゃそりゃァァ!
連れてってくれる気があるなら、私がカリモノ競走に必死になる必要なくない!?いや分かるよ!?「勤務先のイベントには参加しておいた方がいいかな」的な雰囲気は分かりますけども!二人きりになった今、「もうカリモノ競走なんてしなくていい」って、ひとこと言ってくれれば私はもっと嬉し―――

「さて。」
「!」

気付けば私は、早くも副長室の中に立っていた。背後でピシャりと障子が閉まる。障子一枚あるだけで、広間の騒がしさから随分解放された。…というか、

「座れよ。」
「は……はい。」
「……。」
「…、」

ちょ、ちょっと…待って。空気が…変わりすぎじゃない?皆の賑やかな声がないだけで、こんなにも…っ、こんなにも緊張しちゃうものなの!?

「あああああの土方さん!」

私は座布団に正座したまま挙手をした。

「なんだ?」
「お酒っ、飲み直すって言ってたのに、お酒が見当たりません!」
「ああ…そうだな、忘れてた。」
「じゃっじゃあ私持って来ます!」

一旦部屋を出よう!少し風に当たれば落ち着くはず…!
震え出しそうな足で立ち上がろうとした時、

「あっ…!」

畳の上を足が滑った。恥ずかし!
赤面を隠しつつ、四つん這いになって部屋を出て行く。が、

「いい。」

障子に手を伸ばしたところ、右足首を掴まれた。

「行くな。」
「ぅえ!?っで、でもお酒がないと飲み直せな――」
「飲み直すのは口実。」
「!!」
「ククッ…、ビビりすぎだ。」

ビ…!?

「ビビってなんかいません!」

首をひねって抗議した。もちろん図星だ。

「どうだかな。」か

そしてもちろん土方さんにバレている。

「~ッ、…と、とにかくお酒を持ってきますから!」

足首は掴まれているものの、そのまま四つん這いで進もうと動いた。が、

「しつこい。」
「ぐえっ!」

今度は背中に重いものが乗って足止めされる。

「重っ…!」
「…なぁ紅涙、」
「!」

異様に声が近い。耳のすぐ傍に声がある。ということは、この背中にある重み…土方さん!?

「俺のこと、好きなんだよな?」
「す……ッ!?」

直球キタァァー!で、でもそのことより……ッ

「ッぐっ、ぐるじっ…」

容赦ない重みと畳の間に挟まれて圧死しそうだ。

「なぁ紅涙、」
「っど、どいてくださっ…!」
「好きなんだろ?」
―――ふッ…

右耳に吐息が掛かる。

「ッ!?」

わざと!?それとも偶然……?

「くくっ、」

わざとかァァ!!!

「早く告白しろよ。」
「へ!?」
「素直に伝えてみろ。俺のこと、どう思ってんのか。」
―――ちゅる…
「ぁッ…!?」

今度は耳をかじられた。正確に言うと、耳を土方さんの唇に小さく挟まれている。…たぶん。

「っ、」

耳、熱い…!

「言え、紅涙。今ならお前の気持ち、聞くだけ聞いてやるぞ。」

へ!?

「聞くだけ!?」
「クククッ…」
「っ、」

この酔っぱらい…っ!

「どいてください!」
「告白する気になったか?」
「しますします、なんでもしますから!」
「ならよし。」

こんな状態の人と本気で話しても損するだけだ!
背中から重さが消える。身体を起こすと、『で?』と顔に書いた土方さんと目が合った。しかし!

「戻ります!」

私はこれ以上、振り回されない!

「はァ?」
「失礼します!」
「っあ、おいコラ!」

腕を掴まれ、

「約束と違うだろうが!」
「ぅッわ!!」

引っ張り込まれた。

―――ドンッ!
「いっ…たた…」
「逃げんな、紅涙。」
「っ、逃げてるわけじゃありません!ただ土方さんがっ…」
「俺が?」
「……土方さんが、酔っ払ってるから。」
「酔ってねーし。」
「それ、酔っ払ってる人が言うセリフです!」
「んなことはいいんだよ。それより、」

いいくない!

「告白しろ、紅涙。こんな時くらいしか聞いてやれねェから、お前の気持ち。」

?……何それ。

「どういう意味ですか…?」

『こんな時くらい』って、酔っ払った時くらいしか聞けないってことだよね。酔ってバカみたいになってる時じゃないと、私の話は聞いてやれない…ってこと?

「もしかして……同情しようとしてます?」
「あァ?」
「『こんな日くらい優しくしてやろう』的なノリですか。」
「ハッ、俺がそこまで気の利いたヤツに見えんのか?」
「見えなくも…ないですよ。」

土方さんは、こう見えて優しいから。

「…ねェよ。買いかぶりすぎだ。」

そうかな…。

「だがまァ、『こういう日くらいは』ってとこは合ってる。」
「やっぱり…」
「最後まで聞け。こういう日くらいしか酒も飲めねェっつー話だ。だから、俺が自分の気持ちを表に出せるのも、こういう時だけだ。」

土方さんの…表の気持ち……?

「考えてもみろ。やれ鬼だ何だと言われる俺だぞ?日頃からお前にフニャフニャして生きてるわけにいかねェだろ。」
「フニャフニャ…?」
「アレだ、骨抜きみたいな。」
「骨抜き!?土方さん、私に骨抜きだったんですか!?」
「バッ…そこまでじゃねェよ!」
「そこまでじゃないんだ…。」
「いやそれなり!それなりな!それなりに骨抜きだがっ…」
「ふふふ…。」
「…ッお前!」

赤くなった土方さんが勢いよく右手を伸ばす。とっさに身構えて目を閉じると、両頬をブ二ッと掴まれた。つまり、思いっきり唇を突き出したタコの口状態になっている。

「いひゃい…!」
「俺に誘導尋問するたァいい根性してんな、えェ?」
「ひょんなんらありわひぇん。」
「なんでもいいから、とっとと告白しろ。」

解放された。私は頬をさすりながら、「そこまで言うなら」と呟く。

「そこまで言うなら、土方さんから言ってくれればいいと思いますけど…。」
「言わねェ。」
「ガンコ者!」
「忘れてんだろ、目的を。狩るんじゃなかったのか?『俺のハート』。」
「うっ…。」
「言え。お前が素直に言ったら、俺も素直に狩られてやる。」

くぅ~っ!カリモノ競争がなければ告白されていたかもしれない展開なのに!カリモノが憎い!!…って、カリモノ競争がなければこんな展開にもなってないのか。

「…土方さん、」
「おう。」
「……、………好きです。」
「…くくっ、」
「もうっ!なんですか!」
「いや?」

土方さんが右手を伸ばした。
また掴まれる!と先に口周りをガードすると、その手は全く違う場所へ向かった。私の頭をポンポンと優しく撫でる。

「よく言った。」

フッと柔らかに微笑んだ。

「俺も好きだよ、紅涙。」
「!!」

一瞬、私の心臓が握り潰されたような気がした。…大丈夫、今も心臓は尋常じゃない速さと強さで刻んでる。

「…あとで、」
「なんだ?」
「あとで、『お酒のせいだ、どうかしてた』なんて言わないでくださいよね。」
「フッ、言わねェよ。俺はこれでも…、…。」
「『これでも』?」
「……なんでもない、気にすんな。」
「ええっ!?気になります!!」
「なら気にしてられねェようにするしかねェな。」
「え、ちょっ…え、あ……やん♡」

押し倒された後のことは、言わずもがな。私達は初めてちゃんとキスをして、大人なイブの夜を過ごした。

ふと『冷蔵庫に眠るケーキ』を思い出したけど、当然そんなことは後回し。この夜が明けてから食べればいい。なにせ明日はまだクリスマス。私達は恋人同士になったのだから、明日も恋人たちのクリスマスを過ごせるのだ。…ふふふ、ふふふふふ。

…そんな次の日の朝のこと。

「あれ…?」

起きると、枕元に封筒が置いてあった。不思議に思いながら中を見ると、『豪華大江戸ホテル ペア宿泊券』が入っている。

「なに、これ…、…土方さんが!?」

隣を見る。まだ眠っているらしく、目を閉じたまま弱く眉間を寄せた。

「……も~♡」

土方さんってば、こんなサプライズまでしてくれるなんて、どれだけ私のこと好きなんです?

「近いうちに二人でゆっくり過ごしに行きましょうね。」

眠り姫…もとい、眠り王子の頬にキスをした。

こうして過ぎゆくステキなステキな私達のクリスマス。
来年の朝も幸せな気持ちで過ごせていることを祈りながら、私は大好きな人の隣でもう一度、淡い眠りに身をゆだねた。

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Merry X’mas!!
2009.05.07
2020.12.25加筆修正 にいどめせつな

にいどめ