24 _おまけ

あわてんぼうのサンタ様

―――ス……
(そ~っと、そ~っと…)

25日の明け方。土方の部屋へ入ってきたのは、苦労方の山崎である。

(え、あれ?2人分の服が落ちて…ちょ!?え、待ってこれっ、えっ、や、見ない方がいいやつ!?ていうか副長と早雨さん、マジでそういう仲だったわけ!?)

慌てて部屋を出ようとする。が、思いとどまった。

(…そうだ、俺はこれを届けなきゃいけないんだ)

己の手にある細長い封筒に目をやる。

(ちゃんと任務をこなさないと、今後の昇級に関わってくる…!)

意を決し、再び向き直る。忍び足で二人が眠る布団へ近付いた。

「失礼しますよー…。これは例の賞品です。では、おめでとうございました~。」

枕元に置き、そそくさと部屋を後にした。

「…メリークリスマス、お二人さん。」

山崎の任務、それはカリモノ競争の賞品『豪華大江戸ホテル ペア宿泊券』を紅涙に届けることだった。

というのも、カリモノ競争に参加していた他6人が全員リタイアしたのだ。よって、必然的に最後までリタイアしなかった紅涙が勝者。言わば不戦勝のような形で紅涙は賞品を手にすることとなった。

後にリタイアした6名に理由を聞いたところ、全員が同じ回答をしている。

『わりに合わなかった』

どうやら今回のカリモノ難易度は少々高すぎたらしい。
たかがカリモノ如きを手に入れるため、己の信頼をなくさねばならなかったり、人を疑われるような情報収集までしなければならなかった。そもそも絶対に入手不可能なハズレすら混じっていたにも関わらず、答え合わせは一発勝負。近藤の元へ持ってくる直前まで、彼らは「本当にこのカリモノで合っているのか?」と、苦労して持ってきた物を見つめながら頭を働かせなければならないのだ。大抵、そんな流れを想像した時点に気付くというもの。

『こんなことするくらいなら、金貯めて自費で宿泊した方がマシじゃね?』

そうして6人はリタイアした。

「まったく…すごい人だな、早雨さんは。」

山崎はフッと小さく笑い、部屋から立ち去る。

(さ、これで俺の役目もおしまい!昇級も射程内!ゆっくりするぞ~!)

無事に任務を果たした、そう思っていたが……

「…山崎。」

朝食後のことだった。

「あっ、おはようございます副長!」
「何が『おはようございます』だ、コルァァァ!!」
「ヒィッ!?なんで!?なんでいきなり怒られんの!?」

山崎は土方に胸倉を掴み上げられながら、首を左右に振った。

「人違いですよ!何か分からないけど、俺じゃありません副長!!」
「こちとら裏取ってきてんだ!」
「うう裏ァァ!?何の裏ですか!?俺には裏も表も―――」

今から少し前、朝食前の話である。
土方は近藤の部屋へ立ち寄っていた。あの細長い封筒を持って。

「近藤さん、いいのか?俺達が貰っちまって。」
「いいも何も、最後までゲームに参加していたのは彼女だけだからな。リタイアした者は賞品を放棄したわけだし、残った者が賞品を得ることはルール上、自然な流れだ。」
「だが紅涙は…」
「最後までカリモノを手に入れようと努力していた、だろう?」
「……ああ。」
「参考がてら聞くが、そのカリモノは手に入れていたのか?」
「……そうだな、手に入れていた。」
「そうか。」
「…フッ、じゃあありがたく使わせてもらうぞ。」
「そうしてくれ。」
「ああそうだ近藤さん、一つ質問なんだが。」
「うん?」
「この宿泊券、近藤さんが部屋へ置きに来てくれたのか?」
「いや?山崎に頼んだぞ。部屋の前にでも置いておけと伝えたが…何か変だったか?」
「まァ……ちょっとな。」

そして今に至る。

「山崎テメェ…ッ、近藤さんから『部屋の前に置いとけ』っつー指示を無視して部屋へ入り込みやがったらしいな!」
「いやっ、だって部屋の前に置いておくと誰かに取られちゃうかもしれないし…」
「んな輩がここにいると思ってんのかテメェは!」
「え!?ちがっ、…だ、だって普通に寝てると思ってたから…!」
「!!…その言い草、つまりお前は部屋で何かを――」
「見てません!」
「なんだその先読みは!見てんだろ!?見たんじゃねーのかコルァァ!」

「ちょっ、ちょっと土方さん!やり過ぎですよ!」

「…紅涙は黙ってろ。」
「何もそこまで怒ることじゃありませんよ。ね?山崎さん。」
「早雨さん…!」
「おまっ、コイツは部屋に入って来てんだぞ!?」
「でも山崎さんは何も見なかったんでしょ?」
「見てません!全くもって何も!」
「ほら~。」
「純真か…。」

もっと疑えよ…と呆れる土方を前に、紅涙は白い箱を見せた。

「それよりも昨日買ったケーキ食べましょうよ!」
「……チッ、仕方ねェな。」
「山崎さんもどうです?」
「あ、俺は――」
「絶対やらねェ!」
「大人げないですよ土方さん!」
「いや…いいよ、早雨さん。たぶんそれ、マヨネーズケーキだろうし。」
「…え。」
「当たり前じゃねーか。それ以外のケーキなんて俺はケーキとして認めねェ。」
「え…、…ええ!?」
「食うぞ、紅涙。」
「ええェェェ!?」
「オボエェェェッ」
「山崎ィィ!!」
「ずびばぜん…、二日酔いの身体に酸っぱい香りが漂ってきて吐き気が…。」

クリスマスと言えども、変わらず賑やかな真選組でしたとさ。
☆Happy X’mas☆
2009.05.07
2020.12.25加筆修正 にいどめせつな

にいどめ