近距離先生8

過去の始まり+告げられた言葉 次の日、 「おはよ、早雨。」 「…おはようございます。」 土方先生はいつもと変わらなかった。もちろん朝礼後も、 「行くぞ。」 「はい!」 何ら変わりなく声を掛け、席を立つ。 昨日、そうあって …つづく

近距離先生7

告げた言葉+見えない事情 「……土方先生、この辺りで。」 住宅街に入る手前で声を掛ける。 「家の前まで送る。」 「いえ…、この先は道が細くなりますから。ここで大丈夫です。」 「…。」 車が減速する。道路脇に停まるのを見て …つづく

近距離先生6

ミドリの光+車の帰り道 「終わった~!!」 手に持っていたペンを机へ放り、うんと伸びをする。 書類から顔を上げた土方先生が小さく笑った。 「お疲れ。」 「お疲れ様でした!」 時計を見る。予定していた19時半を回っていた。 …つづく

近距離先生5

第六感+弱いのは誰 次の日も、 忙しくとも取り立てて変わりない時間軸の中で業務をこなしていく。 土方先生は変わらず淡々と仕事をして、変わらずカッコいい。それは一日が終わっても、なんら変わることはない。 「早雨、」 「はい …つづく

近距離先生4

非常階段+時の対処法+甘いメモ ざわつく空気の中、職員室を出る。……ものの、 「どこへ行けば…。」 一人静かに過ごせる場所が思いつかない。 少しだけでいい。気持ちを切り替える少しの間、どこか時間を潰せる場所が欲しい。 「 …つづく

近距離先生3

放課後に恋+数学と国語 午後は午前中よりも大変だった。 大量に与えられた業務をこなしていると、突然「代わるわ」と言われ、 「早雨さん、授業なんて教育実習ぶりでしょう?今のうちに先生方の授業見学をして、勉強してきたらどうか …つづく

近距離先生2

11時のお昼 「…土方先生、」 教室を出た後、 「なんだ。」 土方先生は振り返らずに返事をして、廊下を曲がる。 「私、ホームルームの後は…何をすればいいんでしょうか。」 「授業の準備だろ。」 「そう……ですよね。」 そう …つづく

近距離先生1

職員朝礼+生徒に挨拶 「本日から銀魂高校でお世話になります、早雨 紅涙です。教科は情報です。」 たくさんの教師から視線を浴びつつ、職員室で自己紹介する。時折、遅刻したであろう生徒の声が漏れ聞こえてきた。 「よ…よろしくお …つづく

時間数字16

同じモノ+残りの1回は さっきから引っ掛かっていた。 『お前のことが好きだ』 『これをお前より先に言うためにやり直したんだ』 そして今聞いた、 『やっぱりやり直して正解だった』 これって、どういう意味…? 眉をひそめる私 …つづく

時間数字15

残せたモノ+気持ちと気持ち あのミツバさんの一件から、一ヶ月。 一ヶ月が経った。 もうあの日のことを話す者はいない。今や関わった者達だけが、個々に思い出す程度となった。 それでも、沖田君、土方さん、近藤さん、山崎さん。 …つづく

時間数字14

屋上の風+映る心+言えない言葉  「…、」 私は土方さんの後ろに立った。 風が煎餅の匂いを運ぶ。 「辛ェ…。」 「…、」 「辛すぎて…、涙出てきやがった。」 この声を、この光景を二度と繰り返さないよう…これまでやり直して …つづく

時間数字13

使うのは今+温もりと疑問 「ありません。」 「え?」 「今お話しした以上の変更は出来ません。」 医師が首を左右に振る。 どうにか手順を変えてくれと頼んだけれど、早くも出来ない状況にあるそうだ。 「そんな…」 「現在は急を …つづく

時間数字12

残りの決意+もう一度 病院に辿り着くと、 ―――バタバタッ… 近藤さん達は転げ落ちるように車を降り、駆け出した。 「…行きましょう、土方さん。」 エンジンを切り、先に車を降りる。 後部座席のドアを開けて、土方さんに手を出 …つづく

時間数字11

加勢は優勢+彼女の元へ これだけは、約束しよう。 「なるほど。やはりお侍様の考えることは、私達 下郎には はかりかねますな。」 私は、この先もずっと土方さんを好きでいる。 たとえ土方さんが生涯ミツバさんしか愛さなくても… …つづく

時間数字10

その人のために+埋められない距離 斬って、斬られて。 いくら斬りかかっても、向こうの頭数は一向に減らない気がした。確実に斬り倒しているはずなのに、永遠に湧いてくる。 「くっ…、」 キツい。いつまで続くの?もしかしたら増援 …つづく

時間数字9

守るための犠牲+彼の背中 土方さんと別れた後、自室へ戻るのをやめて道場に向かった。 土方さんとやり合った相手は、おそらくまだそこにいる。 「…。」 確認したい。 そこに、予想通りの人がいるのか。 「っ!」 ……いた。 練 …つづく

時間数字8

涙と告白+過去の葛藤 部屋へ戻っても、何をする気にもなれなかった。 畳に寝転がってゴロゴロしても気分は冴えないし、目を閉じても二人の顔が頭に浮かんで眠れない。険しい表情の土方さんと、笑顔のミツバさんが…瞼に焼き付いている …つづく

時間数字7

最悪の予感+固定された歯車+違う約束 映画館でペドロのチラシを貰った後、もちろん私と土方さんは通常の市中見廻りを行った。 毎度のことながら各所で小競合いはあったけど、逮捕者が出るほどの大きな事件もなく。 「今日はこの辺り …つづく

時間数字6

休みの一致 「っよし!」 ちゃんと時間戻ってる! 「『よし』?」 「!!」 不思議そうな沖田君の声にハッとする。慌ててアイマスクを剥ぎ取り、首を左右に振った。 「っな、なんでもないよ!」 「??」 「ただの気合いだから! …つづく

時間数字5

思いのままに 「にしても、あれは何だったんだろう。」 夜、自室でマヨネーズの一件を思い返した。 あの時、私は予知夢を越えた何かを二度も体験している。 「眠いわけでもなかったのに…。」 うんと伸びをする。 息を吐き出した時 …つづく

時間数字4

正夢じゃない 車は使わず、徒歩で買い物へ出た。 隊服姿の喫煙者と、色無地姿の女が二人で。 「…土方さん、」 「ん?」 「私達、もしかして勘違いされてません?」 「何に。」 「そのー…恋人?」 行き交う人々から感じる、興味 …つづく

時間数字3

形を変えたモノ+買い物の理由 「車が来たぞ。」 液体をかけられたとはいえ、傷ひとつないにも関わらず、土方さんは私の背に手を添える。 「乗れるか?」 「もっもちろん乗れます!」 いつも以上に心配してもらえるのは嬉しいけど、 …つづく

時間数字2

初歩的なミス 山崎さんが先導する形で、一番隊と十番隊が先に出た。 私と沖田君、土方さんは少し遅れてから向かう。 誰かが…主に私が遅刻したから出遅れたわけではなく、追加で隊を引き連れる可能性を考えて時間をずらして出動した。 …つづく

時間数字1

望んだ日常+息を切らす日課 もし、 もし時間を戻せるなら、私は――― 時間数字 「コルァァ!紅涙ッ!!」 「はいィィッ!」 屯所の入り口で、咥え煙草の土方さんが目を三角にする。 「テメェまた遅れやがったな!?2分の遅刻だ …つづく

運命44

あの日の意味 退室に向け、自室の整理をすべく部屋へ向かう。十四郎さんには先程の部屋で待ってもらうことにした。 「この服は使えそう…。」 派手な着物ばかりで、普段着として使えそうな着物は多くない。それでも運ぶとなると、なか …つづく

運命43

契りの朝+歩いていく道 十四郎さんと想いを繋ぎ、夜を過ごした。 とても長かったような、思い返せば短かったような…それでいて、深く愛に包まれた夜だった。 「ん…、」 目を覚まし、初めて気が付く。 夜を終える前に、いつの間に …つづく

運命42

三年の想い とっつぁんの犬の誕生日が、まさかまた身請けを申し入れる日になるとは思っていなかった。 広間で紅涙と話している時は、本当にこの時間だけで充分だと思っていたんだ。二言三言会話して、懐かしさを感じながらも、どこか寂 …つづく

運命41

通じ合う約束 「…失礼いたします、」 いよいよだ。 いよいよ私と十四郎さんの関係が変わる。 これまでの『攘夷志士との繋がりが疑われる遊女と真選組』ではなく、『ただの遊女と客』の関係になる。より身近になるようで、より遠くな …つづく

運命40

昨日のように+客と遊女 二十時。 ひっきりなしにお酒が運ばれているところを見ると、宴会は予定通りに開かれているらしい。けれどそこまで騒がしくはない。夢路屋の遊女が総出動しているというのに…… 「紅涙、そろそろやよ。」 「 …つづく

運命39

鮮やかな記憶を 三年なんて月日が経っても、大して変わりゃしない。 …いや、違う。変わらないんじゃなく、これが俺の生活なんだ。 あの日からあれから三年が経ち、俺の生活は滞りなくこれまで通りの日常に戻っていた。 …とは言って …つづく

運命38

帰り待つ心+光陰矢の如し 「紅涙…?紅涙やないか!?」 夢路屋の前に立つ私を見つけるや否や、番頭さんが声を上げる。慌てて中へ駆け込んでいく後ろ姿が見えた。 「女将!紅涙が帰ってきたで!!」 店内の客に構いもせず、大きな声 …つづく

運命37

俺たちの見た夢 『沖田隊長、少しいいですか?』 障子の向こうから声がした。この気の抜けた声は山崎だ。 「なんでさァ。」 『伝言を頼まれまして』 …伝言? 「誰から。」 『まァ…とりあえず開けてくださいよ』 「…。」 なん …つづく

運命36

この着物、その煙草+さようなら 翌日。 山崎さんから借りていた着物を脱ぎ、ここへ来た時の服を身につける。返してもらった服はピシッとシワなく折りたたまれていて、女中さんにもお礼を伝えてもらうよう山崎さんにお願いした。 「… …つづく

運命35

時は突然に+別れの挨拶 あの日から、十四郎さんは部屋に来ない。 来られたところで、合わせる顔もなかった。 『銀時に悪いと思うなら手柄を立てろ。今後ヤツらは四六時中、帯刀するようになるはずだ。隙を見て見張りの刀を奪い、そい …つづく

運命34

彼女の拒絶+ありたい姿+心の中 ああも俺が冷静に話せたのは、口さえ動かしていれば、自分の気持ちを紛らわすことが出来たからだ。 「柄頭を持ちすぎるなよ。適当に握っても刺した時に滑るだけだ。」 「あ、あの…」 「だからと言っ …つづく

運命33

彼の鞘と腕+赤く光る刃+待人のために キスを最後に、私達の間には溝が出来た。 十四郎さんは黙り込んで煙草を吸い、 私はすることもなく、ただ座って、時折部屋の小窓から空を見上げる。すっかり暗くなった夜空には、雨の後とは思え …つづく

運命32

忘れられない関係 悪いのは私。 私がこんなところにいるから。私が…皆を困らせているから。 だから、 「謝らないでください、十四郎さん。」 あなたがそんな顔をして、謝ることじゃない。 「…なんでだよ、」 「?」 「なんで紅 …つづく

運命31

いつものこと 廃墟の外に待機させていた隊士達は、走り去る攘夷志士を目撃していた。追うなと指示した通りに誰も追わず、歯痒い思いで見送ったらしい。 「ふっ副長!その怪我ッ…」 「構うな。大したことねェよ。」 心配して駆け寄る …つづく

運命30

長い雨の終わり 「ッのヤロウ…!」 「ぐ、っ」 互角。 認めたくないが、その言葉でしか言い表せなかった。 どれだけ打ち込んでも、与えられるのはかすり傷程度。逆も然りで、白夜叉が繰り出す太刀は俺に大した傷を残せなかった。 …つづく

運命29

対峙の時 山崎に連絡を取り、俺は攘夷志士がいる現場へ向かった。 遊郭街へ続く道を曲がると、四階建ての廃墟が見えてくる。 「あそこか。」 人通りはない。争うような音も聞こえない。…だが 「…なんだあれ。」 廃墟を取り囲む黒 …つづく

運命28

濡れる身体 「随分と大事にされてるみてェじゃねーか。」 高杉は部屋を見回し、鼻で笑う。 「いいご身分だなァ?ヘマして捕まったってのに。」 「っ…、」 「面倒事まで増やしやがって。俺の計画にまで支障が出たじゃねーか。」 「 …つづく

運命27

雨と降りる影 銀ちゃん達が…動いた。 近藤さんは私に桂さんの話しか教えなかったけど、  『っ…街にっ、街に攘夷志士が現れたっ!』 『しかも主要メンバー全員だ!全員揃ってやがる!』 きっと、みんないる。 …でもどうして?銀 …つづく

運命26

特別に思う言葉 紅涙にどう話そうか考えていると、 『―――ざきさんっ』 外で話し声が聞こえた。 『―――がとう―――』 『やめてくださいよ、―――て!というか何の礼!?』 あのデカい声は山崎だ。となると、相手の声は紅涙か …つづく

運命25

彼を慕う者 洗面台で手を洗い終えた時、 「あの…、紅涙さん。」 山崎さんから声をかけられた。 顔を上げると、鏡越しに目が合う。 この山崎さんには見覚えがあった。銀ちゃんが持ってきた真選組の写真の中にいた一人。 …だけど、 …つづく

運命24

近付く事実 しばらくすると、紅涙は寝息を立てた。 「…疲れたよな。」 俺も疲れた。たぶん、お前ほどじゃねェけど。 『…どうして、…、』 『どうして…真選組なんですか……っ』 気の利いたセリフも返してやれなかった。 だが江 …つづく

運命23

思い出した白 お風呂に入る前、 「あ…、」 脱衣所にある着物を見て、少し驚いた。 『女性の着物に執着している』という山崎さんから借りた服。なんとなく、派手な柄だろうなと想像していたけれど… 「普通だ…。」 至ってシンプル …つづく

運命22

立場の苦しみ 「ここだ。」 風呂場の前で紅涙に背を向ける。 「服は用意してあるから、終わったら出てきてくれ。ここで待ってる。」 「…はい。」 紅涙の返事を背中で聞き、 ―――ズズッ… 厚い風呂場の木戸が閉まる音を聞いた。 …つづく

運命21

繋がる手を 十四郎さんと二人で夕食を食べた。 とても美味しそうなご飯だったのに、あまり味を覚えていない。食べ始める前に、空気を重くしてしまったせいで。 『……、…攘夷のことを、どう思っていますか?』 …余計なことを聞いて …つづく

運命20

見て見ぬフリを 「勝手に何やってんだ、総悟。」 俺の腹が煮え繰り返っていることを知ってか知らずか、 「あらら?なんで土方さんが飯を?」 総悟は、とぼけた顔で俺の手元を見た。 そりゃ不思議だろう。副長ともあろう俺が、二食分 …つづく

運命19

理解できないこと+補えるモノ 真選組の人は、銀ちゃんが見せてくれた写真の印象とだいぶ違った。特に局長の近藤…さん。よく笑うとは思っていたけど、なんというか…親切でもあって。 『っあ、いやっ、倉庫と言ってもちゃんと畳張りだ …つづく

運命18

その日まで 紅涙の様子を見る限り、おそらくクロだ。 少なからず、相手が紅涙じゃなけりゃクロだと確信して捜査していた。 『…私のことは、いいんです』 必死に守ろうとするあの姿勢が何よりの証拠。だが所詮はどれも状況証拠でしか …つづく

運命17

想いと考え 十四郎さんに手を引かれ、自室を出る。 玄関口へ向かうと、 「おお、トシ!」 大柄の男性が片手を上げた。 あの人は確か、真選組局長の近藤。傍には不安げな顔をする番頭さんと女将さんも立っている。…申し訳ない。 「 …つづく

運命16

『幸せ』というもの 『じゃあ夕方、迎えに来てやる』 窓の外を見ながら、私は銀ちゃんを待っていた。 約束の時間まで、あと少し。 そんな時に部屋へ来たのは……十四郎さんだった。 「どう…して…、…、」 「こんなところまで押し …つづく

運命15

心の底から+優しさは誰のため 「どう…して…、…、」 動揺した表情で紅涙が言う。 その顔は驚きというより、怪訝な印象だった。 「こんなところまで押し掛けて悪いな。」 「…、」 尚も信じられないといった顔で俺を見ている。 …つづく

運命14

闇に消える夜+信念が故 紅涙に会えないまま、遊郭街を後にした。 屯所を出る際の理由に使った鍛冶屋へも寄らず、その足で屯所に帰る。…と、 「おかえりなせェ、土方さん。」 「…またかよ。」 門前に総悟が立っていた。口の端に笑 …つづく

運命13

静かな部屋 「紅涙、中にいてるか?」 部屋の片付けをしていると、番頭さんがやってきた。 「銀時君から聞いたで。しばらく休むんやてな。」 「はい、ご迷惑をおかけします。」 「どっか体調悪いんか?」 「いえ…大丈夫なんですけ …つづく

運命12

返ってきたモノ 紅涙を捕縛する話が現実になった。 証拠となるのは、山崎が隠し撮りした桂と紅涙の写真。もしくは、それ以外の何か。用意するかどうかは俺次第だ。 屯所に連れ帰った後は何かしら情報を吐くまで拘束するらしい。おそら …つづく

運命11

涙の理由+片づけ 十四郎さんが団子を買ってきてくれた翌朝。 ―――スパンッ! 「紅涙!」 「!?…っぎ、銀ちゃん…!?」 朝の早くから、銀ちゃんが私の部屋に飛び込んできた。 自室に店の人以外が入って来たのは初めてで、私は …つづく

運命10

終わりは明日に 「お疲れさん、トシ。」 「お疲れ様です副長!」 「…お疲れ。」 夜中だってのに、局長室にはあの日と同じ連中が揃っている。 「お!?まさかそれは野中茶屋の…!?」 「…ああ、土産だ。」 机に団子袋を置く。 …つづく

運命9

胸の苦しみ 『…身請けさせてくれ』 十四郎さんの声が耳に付いて離れない。 嬉しい。すごく嬉しかった。…けれど、 『…紅涙、すぐには無理だけど、金貯めたらお前のこと自由にしてやるから』 『俺と暮らそう』 銀ちゃんの顔も浮か …つづく

運命8

自問自答の時間+門番の笑み+始まりの夜 「副長~、提出に来ましたー。」 夕飯を終え、部屋で書類整理をしていると山崎がやってきた。 「遅ェぞ。」 「え!?今回は提出期限までまだ四日もあるのに…」 「他のヤツはもっと早くに持 …つづく

運命7

甘味屋の団子 坂本さんが来た次の日の夜。 女将が私を呼びに来た。 「紅涙、お客様やよ。」 「あっ…はい。」 内心、少し驚いた。 銀ちゃんや桂さんは夜に来ない。また坂本さん?でも二日続けて失恋なんてするのかな…。他に来る人 …つづく

運命6

一見の出逢い 朱色の大門をくぐる。 江戸の街と遊郭街を隔てる関所みたいなもので、一歩越えりゃルールも変わる。だが街の外観は、 「変わらねェな。」 変わらない。 付き合いで年に一度は来るが、初めて足を踏み入れたその日から1 …つづく

運命4

傷心して来る男 昨夜も結局、私は高杉の帰りを知らない。 あの人は毎回好きな様に抱き、飽きたように捨てて帰る。 こんな場所で愛だの慈しみだのを言うつもりはないけれど、一人目覚めた朝の虚しさは…想像以上のものがあるのに。 「 …つづく

運命3

吐き出す男 「よォ、紅涙。」 「…。」 今日部屋に誰が来ているのか、襖を開ける前から分かっていた。廊下まで漏れ出す、この苦手な煙管の匂い。 「…来てくださったんですか、高杉さん。」 「当たり前ェだろ。」 ふらりと来る彼は …つづく

運命2

慕える男 桂さんが来た、次の日。 「お待ちしておりました。」 「え、何?そんなに銀さんに会いたかった?」 襖を開けて頭を下げる私に、ニヤついた声がぶつかる。顔を上げると、銀髪の男が声音通りの顔をしていた。 「…桂さんから …つづく

運命1

生真面目な男 それは、今から少し前の江戸。 街の一角には、歌舞伎町とは別に『夢の地区』と呼ばれる遊郭街があった。そこにある揚屋『夢路屋』で、 「紅涙、お客様やよ。」 「はい。」 私は雇われている。 夢路屋は名を馳せるよう …つづく

運命を読むにあたって…
 気持ちのご準備とお願い

いつもご覧いただきありがとうございます! この作品を読むにあたり、以下のことにお気をつけください。 ■ヒロインが土方氏以外と(大人の)関係を持ちます ■(大人の)関係が幸せなものとは限りません …おっと。あまり話すと展開 …つづく

運命5

緊急会議+興味の種 「トシ、少しいいか?」 夜、副長室で書類に判を押していると、珍しく近藤さんが声を掛けに来た。 「どうした?」 「これから緊急会議を開く。」 緊急会議? 「…こんな時間にか?」 「ああ…ちょっとな。」 …つづく

偽り男12

駆け抜ける出会い+思い出せないほどに 耳に聞こえるのは自分の荒い息と、駆ける二つの足音。 「はぁっはぁっ、」 手を離した方が走りやすいけど、離さなかった。ギュッと強く握られている手を、離したくはなかった。 「大丈夫か?」 …つづく

偽り男11

心にもつれる足 「『この結婚式を無効とする』って言え。」 「なっ…、」 なんで…そんなことを……? 『っ…土方さんが好き…っ!』 『…合格』 まさか……私のため? 「…総悟、こんなことは今すぐやめろ。」 「いーや、やめる …つづく

偽り男10

彼女は微笑む+始まりの合図 「紅涙ちゃん、早く!」 女中が忙しく手招きする。 「遅かったじゃないの~!」 「すみません…、」 「副長さんも紅涙ちゃんを探しに行ったっきり遅くて。局長さんの用事、そんなに大変だったのかい?」 …つづく

偽り男9

忘れ者の頼み事+寂しいわけは 二人より先に広間へ辿り着く。 襖は閉められていて、前には女中が二人立っていた。 「あら、紅涙ちゃんだけ?」 「…はい、土方さんが迎えに来たので。」 「そうよね~!副長さん、中で待ってなきゃい …つづく

偽り男8

偽る心に壊れる心+仕事始めの日+妻と仲間と恋心 土方さんが優しい。 何も言わず、温かい身体で私が落ち着くまで抱き締めてくれた。 「…っ、…、」 いつまでもこうしていたい。いなくならないでほしい。 そんな気持ちを土方さんに …つづく

偽り男7

彼の密かな計画+抱きしめた気持ち 「早ェな~、アイツ。」 窓の外にいる土方さんを見て、銀さんが鼻で笑った。私は、 「ど…どうしよう。」 不機嫌そうに腕を組む土方さんの様子に、ただ顔を引きつらせていた。だって…逃げようがな …つづく

偽り男6

終が始まる日+それを知る日 結納の儀は滞りなく執り行われた。 松平長官も夏目親子も、満足げに帰って行った。 土方さんはまた隊士達から冷やかされることになったけど、それも夜が明ければ落ち着く。 そんな日から五日くらい経った …つづく

偽り男5

彼の彼女の日+居場所なき客間 明けない夜を願っても陽は昇る。 「副長のお相手、清楚系だと思う?」 「どっちかと言えばクールビューティじゃね?」 「意外にもアイドル系だったりして。」 「バカ、あんな鬼を気に入るんだぞ?ワイ …つづく

偽り男4

なのに、どうして+重大報告と面倒役 「…早雨ちゃん?」 『どうして?』とか『なんで?』とか、そんな言葉ばかりが心の中に渦巻く。ただ箸を持ったまま、呆然と。 「あ、あれ?もしかして俺…言っちゃいけないことを……」 「山崎ィ …つづく

偽り男3

焼きついた日+聞いてない真実 妙な言い方をした土方さんだったけど、一週間経っても二週間経っても、特に変化はなかった。 部屋を片付けている様子もないし、出世して屯所から出て行きそうな話も聞かない。……ただ、 「またお客さん …つづく

偽り男2

好き嫌いの日+騒がされた日 旦那に助けてもらった日から、私は積極的に市中見廻りへ出るようになった。もちろん、旦那に会うため。 けれど私には知らないことが多すぎる。 どこに住んでいるかはもちろん、出没しやすいエリアすら知ら …つづく

偽り男1

勘違いした日+恋に堕ちた日 「テメェらァァァッ!!」 「「ギャァァァァッ!!!」」 屯所に響き渡る怒声と悲鳴。 「…うるさ。」 吐いた言葉と一緒に、ブンッと竹刀を振り下ろした。あれは私の機嫌を損ねる元だ。稽古場で練習して …つづく

朱に交われば赤となる

「あー今日も疲れたなァ。」 赤毛の男が服を脱ぐ。『疲れた』と言ってはいるが、常時にこやかな笑みを浮かべているため真意は読み取れない。 「…ねえ、紅涙は?」 「お呼びしますか?」 部屋の入口に立っていた遣いの者が、うやうや …つづく

想えば想わるる

私には、付き合って二ヶ月の彼氏がいる。 「あ、う、っ紅涙!」 「!」 照れ屋で恥ずかしがり屋の、嘘ひとつ吐けない真っ直ぐな人。それが、私の彼氏。 「そそその…今日はおっ…俺の家に…っ」 家へ誘ってくれるのは初めてじゃない …つづく

至上最大の恋でした10

おさらば! 「土方さん!土方さんってば!」 「うるせェな、近くで何度も呼ぶな。」 「だからこっちの土方さんですってば!」 何度呼んでも返事がない。指一本動かない。 「一体どこ殴ったんですか!?」 「んなもん、どこだってい …つづく

至上最大の恋でした9

独白 「俺は…、……、……お前のコピーだ。」 オリジナルに成り代わると言った人にとって、…いや、『からくり』にとって、口にしたくなかったであろう言葉。 「…俺はからくりだ。人間じゃない。」 「…。」 それを聞いていた本物 …つづく

至上最大の恋でした8

相対する者 金時さんは言った。 『強制終了させるボタンは左の眼球です』 「…、」 説明書を胸に抱き、言われたことを思い返す。 『左の眼球を押せば電源が落ちます。心配はいりません、少し強めに押せばいいだけですから』 「…出 …つづく

至上最大の恋でした7

からくり 翌日も、土方さんが飲み会へ出掛けるのを見届けてから夜間教室へ向かった。 いつもの部屋へ入ると、 「おかえり。」 いつものように髪の長い土方さんがいる。 「た…ただいまです。」 「紅涙、今日は頼みがあるんだが。」 …つづく

至上最大の恋でした6

おしあわせ 「また明日。」 「…はい、また明日。」 昨日と同じように別れ、帰路につく。 だけどその帰り道、 「おい。」 びっくりする人に声を掛けられた。 「っえ!?ひっ、土方さん!?」 「…驚き過ぎだろ。」 まさかの土方 …つづく

至上最大の恋でした5

違うこと、同じこと 「なら、お前自身で確かめてみろ。」 えっ… 「気になるんだろ?テメェで確かめろよ。」 「ど、どうやって…」 「好きにすりゃいい。」 すっ好きに…!? 土方さんは変わらず私に手を広げて「ほら」と待つ。 …つづく

至上最大の恋でした4

なぞ 結局、初回は思い出を確認し合って終わった。 その帰り、金時さんから「どうでしたか」と声をかけられる。 「何か発見はありましたか?」 「今日はただ話してただけなんで…なんとも。」 「そうですか。」 「あっ、でも楽しか …つづく

至上最大の恋でした3

土方十四郎 どういう…こと…? 「紅涙、」 声が似てるんじゃない。顔も似てる。顔も土方さん。でも土方さんは今ごろ飲み会のはず。そもそも目の前の土方さんは髪が長い。え……え? 「だ、誰…?土方さんじゃ…ないですよね?」 そ …つづく

至上最大の恋でした2

怪しい教室 「この辺のはず…だよね。」 歌舞伎町、歓楽街。 ビルの前の前に立つ呼び込みを交わし、辺りを見渡した。 「沖田さんも一緒に来てくれれば良かったのになぁ…。」 てっきり初回は案内してくれると思ってたのに、 『俺ァ …つづく

至上最大の恋でした1

沖田参謀 十二月。 この時期の管理職は地獄だ。 連日連夜、超売れっ子アイドル級の過密スケジュールをこなさなければならない。 「この昼食会は…、…まァいいか。」 『今年も一年お世話になりました』 そんな言葉を並べて、相手の …つづく

王子と姫と、11

渡る世間に鬼はない どのくらい時間が過ぎたのだろう。 「そろそろ決めてくだせェよ、土方さん。見てんのも飽きてきやした。」 静かな空間に、沖田さんの単調な声が響く。 「土方さん…」 「くっ…、」 考えを巡らせている土方さん …つづく

王子と姫と、10

憎まれっ子世に憚る これ以上ないというほど悪い笑みを浮かべた沖田さんは、 「いやァ安心しやした。こうじゃないと遊び甲斐がない。ねェ?」 おどけた様子で首を傾げ、こちらへ歩み寄ってきた。 「っ、」 「止まれ、総悟。それ以上 …つづく

王子と姫と、9

一寸先は闇 早朝から疾走した五月五日。 初めのうちは走って疲弊するばかりだったけど、思えばそこそこ充実している気がする。 だってずっと土方さんと一緒にいられてるし、甘い雰囲気になる機会も意外と増えてきたし! 「ふふっ、」 …つづく

王子と姫と、8

蝦で鯛を釣る敵 「お待たせしました~!」 パティシエが運んできてくれたケーキを見て、 「おおっ!」 「わあっ!」 土方さんも私も、歓喜の声を上げた。 …そう、私も!なぜなら普通のケーキもワンカット分、持ってきてくれていた …つづく

王子と姫と、7

月に叢雲、花に風 いきなり登場したパティシエに固まる。 しかしパティシエは私達を見て、 「あーなるほど。」 早々と何かを納得した。 「今年はもう始まっているんですね。」 さすが!話が早い! 「そうなんです!しかも今年は面 …つづく

王子と姫と、6

二度あることは三度ある 真選組との『拘束協力協定書』を私達に見せつけた土方ファンクラブの代表らしき人は、 「さあ皆さん!捕まえておしまい!」 薙刀をまるで手のように扱い、指し示した。 「くれぐれも土方様を傷つけないように …つづく

王子と姫と、5

弱り目に祟り目 「やっ…山崎さんっ!」 障子の隙間から山崎さんが顔を覗かせている。 「山崎…てめぇ…。」 「いやいや副長、怒るのは俺ですから!勝手に個人情報を覗かれた俺の方ですから!」 言うや否や、山崎さんは「もうヤケク …つづく