~相関編~
「違う。お前がいるってのは、俺の彼女としているってことだ。」
「つまり…今年の誕生日は私という名の彼女が出来たから、祝え祝えとうるさい、と…。」
「……言うな。…恥ずかしい。」
確かにこれは恥ずかしい!学生か!学生気分なのか!?
「いやでも土方さん、私と付き合ってるって言いますけど、当の私が無自覚なんですよ?」
「お前に自覚がなかったとしても、俺はあの日から付き合ってると思ってる。」
うーん、そこなんだよなぁ。そこが今ひとつ分からない。
土方さんが話す『あの日』というのは私が初めて憑依、もとい忍の人格を形成した日だ。忍人格から醒めた時、いきなり土方さんから『俺達は付き合った』と聞かされたわけだが、私には忍人格の時の記憶が全くないわけだから、実感が湧かないのも無理はない話だと思う。というか、実感が湧かなくて当然。
「…土方さん、」
「なんだ。」
「だったら、『あの日』に何があったのか詳しく教えてください。」
「!…そこは別にいいだろ。」
いやよくないでしょ!むしろそこが大事!
「教えてくれないと、自覚することも出来ません。」
「……。……あの日、」
おっ、話してくれるんだ!
「あの日、俺と紅涙は……キスした。だからだ。」
「……っえ、それだけ!?」
いやその前に!
「なんでキスしてるんですか!?」
「そういう雰囲気になる会話があったんだよ。で、」
そこ省きます!?
「その展開の最中で紅涙が…、……。」
土方さんがチラッと私を見て、すぐに目をそらす。心無しか、耳が赤い。
「土方さん?」
「紅涙が……、…すげェ…可愛くて、」
「!!」
「日頃の気持ちが溢れたっつーか…そうなって……」
「うっ…。」
この土方さん、胸にくる…!
「その時の紅涙も同じような顔してたから、俺達はそういう仲になったんだ。」
また省略ゥゥ!
「また話を飛ばしてますよ土方さん!そういう仲になるまでの大事な展開が削られています!」
「あァ?今言ったじゃねーか。」
「そうじゃなくて!『付き合いましょう』とかそんな会話があった的な流れを聞きたいんです!」
「ねェよ、そんな流れ。」
「……、」
ない?
「ないのに……付き合ったんですか?」
「ああ。」
「どうやって…付き合うことが分かったんです?」
「あー…雰囲気?」
雰囲気?じゃねェェ!
「それは付き合ってませんよ!」
「そんなことねェだろ。現にお前は俺が好きなんだろうが。」
「っ、」
それは……そうですけど。
「俺も紅涙が好きだ。」
「っっ…、」
そうやって急に直球投げるの…ドキッとするからやめてくれませんかね。
「俺達の気持ちが同じなら、付き合ってるんじゃねェのか?」
あ……わかったかも。土方さん、こういうところが抜けてるんだ。これまで真選組を形造るために超がつく程の仕事人間だったし、言い寄ってくる女性がいても、自分から行動を仕掛けることなんてことがなかったから。
「……、」
「…なんだよ。」
そっかそっか。そうなると、この猛烈なアプローチは土方さん史上初…?…うわ、なんか嬉しい。
「ありがとうございます、土方さん。私をそこまで想ってくれて。」
「…自惚れてんじゃねーよ。」
赤い耳をして険しい顔をする。
「……じゃあ俺達は付き合ってるってことでいいのかよ。」
「う…、ま、まぁそうですね……いいですよ。」
「……。」
「なんですか?」
「妙に上から目線だなと思って。…まァいい。」
いいのか…。
「それより大事なのは俺の誕生日だ。今から彼女として祝ってくれ。」
は、ハードル高いな…。一体どういう物を期待してるんだろう。
「まだ俺の女になるのは不満なのか?」
「!!」
こ、この言葉は……っ、物凄い破壊力!
「い、いえ…滅相もございません。」
「フッ、だったらもっとこっち来いよ。」
「は…はい政宗さま……じゃなかった!」
つい土方さんの口調が政宗ってる時のようで、政宗さまと呼びたくなる。……が、うん?『政宗さま』という言葉に土方さんが反応しないのも不思議だ。怒りそうなものだけど。
「あの…」
「来いよ、紅涙。さっきの続き、しようぜ。」
「さっきの…?」
「Partyよりもrendezvousだろ?早くしねェと小十郎が来ちまうぞ。」
これは…まっ、
「政宗さまァァァっ!!」
「Oops!そんなに待ち侘びてたのか。」
私は政宗さまに思いっきり抱きついた。
「待たせて悪かったな。いくらでも甘えろ。」
やっぱ政宗ってる土方さんサイコー!戦国バンザイ!!
「一生お慕いしております!!」
「All right.俺もそのつもりだ。」
らぶーーー!!と叫んで政宗さまの胸に顔を埋めたと同時に、
―――スパンッ
「失礼しやーす。」
勢いよく障子が開いた。
「書類持ってきやしたぜ、土方さん。」
私は入り口に立つ人をキッと睨みつける。
「っ、沖田く――」
「Ya!なんだ、来てたのかよ真田。」
「さ……っ」
真田ァァ!?沖田君が幸村君ゥゥ!?そ、それはちょっとどうでしょうかね政宗さま!性格悪すぎやしませんか!?
「悪いが今日は真田の相手をしてやれねェんだ。好き勝手にくつろいでってくれ。」
「まっ政宗さま!この人はっ」
「いやいや、お構いなく。こんな変態ばっかなとこに長居する気はありやせんので。それよりも、」
沖田君はまるで要領を得ているかの如く話を合わせる。そしてピラッと紙を見せた。
「土方さんが出せって言ってた報告書、土方さんの言った通りに書いてきやしたんで、土方さんに確認してもらいてェんですが。」
妙に『土方さん』を連呼する。
たぶん今は政宗さまだから、沖田君の話なんて半分以上わからないはずなんだけど。
「お、沖田君、その話はまた後でいいんじゃない…?」
「いーや。俺は仕事を溜めるのが嫌いな方なんで。」
嘘つけーい!いつも書類関係は溜めに溜めてるでしょうが!邪魔者め…。こんな時ばっかり都合よく真面目になりやがって!
「政宗さま、政宗さまも後にしてほしいですよね?…ね?」
顔を窺う。政宗さまは不思議そうな顔で首を捻っていた。
「おい真田、さっきから話に出てくるひじか、た…って、…、あァ?」
政宗さまの目つきに鋭さが戻る。
「紅涙、なんでお前、俺に抱きついてんだよ。」
…ああっ、
「あああァァァ!!」
「ッだよ、うるせェな!」
「くくく…。」
沖田君の狙いはこれかァァァ!
「ううっ…」
「何泣いてんだ?忙しいヤツだな。」
「もうちょっと…もうちょっとだけ楽しみたかったのに…っ!」
「こりゃお邪魔しやしたねィ。」
「ほんと邪魔!邪の魔神め!!」
私の言葉に、沖田君がニィっと口を歪ませた。
くっ、まるで悪魔だわ…。でも今の流れだと、『土方さん』って言葉が現実へ戻す鍵になってるってこと?
「お前ら何の話してんだよ。」
「…土方さんは気にしなくていいですよ。」
「つーことはまさかまた俺が…」
「いいですから!土方さんは何も考えないでください!」
また政宗ってたなんて聞いたら、もう今後一切、政宗さまのことを微塵も考えないようにするかもしれない。そうなったら二度と政宗さまに会えない!
私は土方さんの両耳を塞いで、「沖田君!」と呼ぶ。
「書類は私が提出しておきますから、あとで土方さんを醒ます鍵になってる言葉について確認させてください!」
「言ってる意味がよく分かりやせんねィ。」
くぅ~っ!ほんと食えない男!!
「おい、紅涙。」
「あっ、はいはい。」
土方さんの耳からパッと手を放す。
「どうしました?」
「全部丸聞こえだったぞ。」
「え。」
「やっぱり伊達政宗になってんじゃねーかよ。」
「…え、えへ。」
土方さんは眉間を指で挟む。
「こうなりゃ封じるしかねェな。」
「え!?」
「総悟、あのDVD燃やしとけ。」
「へいへ~い。」
「ええ!?」
足早に沖田君が歩いて行く。あっちは食堂方面だ。私の頭に、以前DVDを無くした時の絶望がフラッシュバックした。
またあの時のようなことを…っ、
「させてたまるかァァァ!!」
すぐさま沖田君の背中を追い掛けるべく駆け出した。が、一本踏み出した直後に、
「いっ、」
足を掴まれ、ずしゃっと畳に転ぶ。
「紅涙は俺とpartyだ。」
転んだ私の髪に、政宗さまがキスをした。…いや?さっき土方さんに戻ってたから……あれ?
「土方さん…ですか?」
「…さァ?」
私と同じように首を傾げ、意地の悪い笑みを浮かべて見せる。
そしてそれから数日後。
「…ない!ない!ないィィ!!またやられたァァァ!!」
私のDVDは、しっかりと消されていた。
「私の筆頭ォォォォ!!!」
「うるせェェ!!!」
2011.05.05
2019.11.19加筆修正 にいどめ せつな