至上最大の恋でした1

沖田参謀

十二月。
この時期の管理職は地獄だ。
連日連夜、超売れっ子アイドル級の過密スケジュールをこなさなければならない。

「この昼食会は…、…まァいいか。」

『今年も一年お世話になりました』
そんな言葉を並べて、相手のご機嫌を取るお食事会。
相手はほぼ警察関係者だけど、真選組はまだまだ微力だからこういうお付き合いも大事になってくる。

…と、わかってはいるんだけど、

「紅涙、この昼食会は頼む。」
「『頼む』?」
「俺の代理として出てきてくれ。」
「え~、またですか~?」
「こっちは予定ビッシリなんだよ。ちったァ休ませてくれ。」

ぶぅ…。
土方さんと一緒に行けないなら、楽しさなんて1ミリもないのに。
私は口を尖らせながら、自分の卓上カレンダーに丸を付けた。

「…というか私、いつから土方さんの補佐役になったんです?」

なぜか副長室に用意されている私の席。少しずつ補佐の仕事が増えてるなぁとは思ってたけど、私は基本、沖田さんのような隊士であって管理職じゃない。

「いいじゃねーか。助かるんだよ、お前がいると。」
「…。」

そう言われると…『仕方ないなぁ』と思っちゃう。惚れた弱みってやつだ。

「あ。紅涙、俺のカレンダーにも丸つけといてくれ。」
「いつですか?」
「今日。」
「今日!?」
「今日の夜だ。」
「…。」

…丸つける必要なくない?

「…まさかまた飲み会ですか。」
「だろうな。」
「……。」

警察上層部は男が多い。そんな人達が集まれば飲み会になるのだろう。当然、真選組がそれを断る立場にないことも分かってる。
…だけど土方さん。あなた、既に明日から五日連続で飲み会の予定が入ってるんですよ?そこへ今夜まで行ったら、昨日、今日と続いて丸々一週間飲み会に参加しちゃうじゃないですか。

「…行きましょうか、私。」
「あァ?どこに。」
「飲み会です。土方さんの代わりに。」
「…、」

一瞬、筆を走らせていた土方さんの手が止まった。けれど鼻先で笑い、再び筆を走らせる。

「バカ言え。お前じゃ無理だ。」
「そんなことないと思いますけど…。…あ、もしかして行きたいんですか?」
「んなわけねーだろ。あんなつまんねェ飲み会、代わってもらえるなら代わってもらいてェよ。」
「じゃあ私が――」
「お前以外で。」
「…、…ほんとは行きたいくせに。」
「…あのなァ、」
「あ!私も一緒に行くのはどうです?」
「…あァん?」
「私が一緒に行けば、土方さんのお酒を飲む量も少しは減るかも!」
「気が気じゃなくて余計酔うわ。」
「どういう意味ですか?」
「あんなオッサン連中を相手にするのは俺一人で十分だって言ってんだよ。…ったく、何なんだ?紅涙、酒が飲みてェのか。」
「そういうわけじゃありませんけど……」

ただ最近、ゆっくり一緒に過ごす時間がないなと思って…。

「なら黙って仕事しろ。」
「……。」

そりゃあ飲み会も仕事のうちだけどさ…

「……はあぁ~…。」
「なんでお前が溜め息!?」

目の前にいるのに…土方欠乏症だ。
せめて仕事中に襲ってくるような人ならなぁ…。
『…紅涙、』
『どうしました?…って、あっ、土方さんっ!?』
『疲れてんだ、…ちったァ癒してくれ』
『んっ…、っこんなことしたら、っぁ、余計疲れちゃいますよっ、』
『いい。足りねェんだよ、俺の中に』
『え…?』
『紅涙が足りねェ。お前も足りねェんだろ?待ってろ…すぐ入れてやるから、っな』
『ッ!?あッ、まっ…土方さぁぁんっ!』

…ブハァァ!やっばいよ、息上がっちゃうよ、フル充電だよ!野獣バンザイ!!肉食バンザイ!!

「はふ…、」
「…ほんとはお前の方が疲れてんじゃねーのか?」
「…、…土方さん、」
「ん?」
「さ…、さわ……」
「『さわ』?ほまれ?」
「違います!…さ、さわっ、触ってもいいですか!?」
「…はァァ~!?いきなり何言ってんだ!」
「癒されたいんです!」

私は両手をモミモミ動かしながら土方さんを見た。土方さんは絵に書いたように顔を引きつらせる。

「変態がいる…。」
「何言ってんですか!土方さんだって私を触れば癒されるって、前に言ってたじゃないですか!」
「時と場合を考えろ。俺だってこんな忙しい時なら言ってねェよ。」

あの時も大概でしたけど!?

「ちょっとだけですからっ、」

手を伸ばす。
パシッと弾かれた。

「触るな、自制しろ。」
「っ…、いいじゃないですか、ちょっとくらい!」
「ダーメーだ。」
「土方欠乏症なんです!!」
「我慢しろ。」

トドメには「あっち行け」と、手で払われる。

「うぅぅっ……、」
「どうせ睨むなら資料を睨んでろ。」
「っ、土方さんは私のことが好きじゃないんですか!?」
「それはそれ、これはこれ。割り切れ。」
「割り切れません!104÷6の余りが3のエンドレス並に割り切れません!」
「ややこしいわ!」

はあぁ……。
私が異常なの?付き合って何年経ったっけ。いい加減、お互い余裕を持って付き合えるくらいには経ってるよね…。

「…私、ガッツキ過ぎ?」
「くく、何を今さら。」

そりゃあ…これまでの行動を考えると、野獣級のかぶり付き具合いでしたけど。

「ほら紅涙、次の資料。しーごーと。」
「……はーい。」

私も土方さんみたいな余裕が欲しいな…。もっとこう…広く落ち着いた心というか、気持ちというか、ゆとりが欲しい。今とは違う、『好き』になりたい。
「なら自分を磨きなせェ。」

暖房の効いた暖かい食堂で、ソーダアイスを食べながら沖田さんが言った。

「…具体的には?」

私は向かいに座って、溶けかけのクッキーアイスを口へ放り込む。

「いい教室を知ってますぜ。」
「…教室?」
「そ。夜間教室。そこで訓練すりゃいい。」

沖田さんがニヤりと目を光らせた。

「詳しい話、聞きやすか?」

うわー…悪い顔だな。いくら土方さんの愚痴でも、沖田さんに話すのは間違いだったか…。

「…い、いえ、必要になった時に聞きます。」
「ああそう。紅涙がいいなら構わねーよ。ま、今ならタダだけど。」
「タダ!?無料!?」
「そ、無料でさァ。しかも初回だけじゃなく、今入会すれば卒業まで無料。」
「っなんと!」

だが怪しい!怪しいこと極まりない!!

「…どうせ教材費が高いとかですよね。」
「いーや、教材費なし。」
「じゃあ会費が高いとか…?」
「会費なんて一銭も取ってやせん。」
「…なら毎回お高いコースに勧誘されるとか!?」
「コースは一本のみで運営してまさァ。」
「あ、わかった!最後に、かっ…身体売られるんでしょ!良からぬビデオに出ろって脅されて…」
「紅涙、俺ァ曲がりなりにも真選組の隊長。違法な繋がりなんてあるわけねェだろ。」
「でも沖田さんならあり得るなと思って…。」
「……今のは聞かなかったことにしてやらァ。」

何も怪しいところがないなんて…そんなのありえる?

「沖田さんに高額紹介料を取られるとか…」
「しつこい。俺は紅涙がもがく…いや学ぶ姿を笑わせほしいだけだ。」
「……。」

この人…隠さなきゃいけない言葉を隠せてないわ。私が笑い者になる前提の紹介みたいってこと…?

「キツいんですか?」
「それは紅涙次第。でもここのカリキュラムは折り紙付きですぜ。」
「…。」
「心が広くてゆとりある、海のような女になりてェんだろ?」

そ、そうですね。

「野郎はきっと十二月中ずっと忙しい。ならその夜を有効活用するしかねェだろ。」
「そう…ですね。」
「イイ女になって、土方さんの理性を壊してやれ。」

理性を…壊す!?
『我慢っできねェ!』
『っアッ土方さん待って、ッきゃ!服が破れます!』
『はっ…バカが。わざと破ってんだよっ!』
『きゃああっ!』
『俺が意識飛ぶの、見たくねェか?』
『何言って…』
『飛ぶまでヤらせろ。その代わり、しっかり目ェ開いろよ?その身体に俺を焼き付けろ…!』
『あっあぁっヤッ、っ、ム、リっああっ』

「っっ、」
「壊したいと思いやせんか?紅涙。」

…。
……。
……そう…ですよね!

「やります!行きますっ教室!」
「そうこなくっちゃ。」

こうして、私の十二月は自分磨きのために夜間教室へ通うこととなった。もちろん、土方さんには内緒で。

「にしても私…、最近の妄想が過激になってる?」

やだ恥ずかしー!

にいどめ