至上最大の恋でした10

おさらば!

「土方さん!土方さんってば!」
「うるせェな、近くで何度も呼ぶな。」
「だからこっちの土方さんですってば!」

何度呼んでも返事がない。指一本動かない。

「一体どこ殴ったんですか!?」
「んなもん、どこだっていいだろ。」
「どこ殴ったんですかっ!」
「……顔だ。顔の左側。」
「左!?」

『強制終了させるボタンは左の眼球です』
もしかしたら押してしまったのかもしれない。
…ううん、押した。そうじゃなきゃ、こんな電源が落ちたみたいな状態にならない!

「っ、土方さ――」
「もういいだろ。」

土方さんが私の腕を掴んだ。

「コイツのことは忘れろ。」
「っ…いやです!こんなっ…こんな形でお別れなんて…っ!」

もっとちゃんとお別れするつもりだった。ちゃんとしたお別れが出来ると思ってた。
『紅涙…ありがとう、楽しかった』
『土方さん、私っ』
『いいんだこれで。しょせん俺は教材でしかない』
『っ…そんな言い方しないでください!そんな寂しい言い方っ…』
『心配すんな、俺は消えてなくなるわけじゃない。記憶としてお前の中に残る。だろ?』
『記憶なんかじゃっ――』
『いつまでも良い女でいろよ。じゃあ、な…、……、……』
『土方さんっ!?っいや…、いやあぁぁぁっ!!』

「うぅっ…!」
「おっおい、いくらなんでも泣くほどの話か?」

はァ!?

「泣くに決まってるじゃないですか!こんな悲しい別れ方がありますか!?どれだけミラクルな殴り方をしたらそうなるんですか!」

あわよくば強制終了を避けて、この先も生きてくれればいいなと思ってたのに!よりにもよって左側を殴るなんて!!

「ミラクルも何も俺は…」
「うぅっ、っ、」
「……、」

直立不動で固まる『からくり』土方さんの胸にしがみついた。それを見た土方さんが、

「…、…はあああァァー…。」

大きな溜め息を吐く。

「わァった、わァった。」

気怠そうに言って、『からくり』の土方さんの背後へまわった。

「…何する気ですか。」
「黙って見てろ。」

腰をかがめ、『からくり』土方さんの腰の辺りをゴソゴソ触り始める。何してるか分からない、けど…、もう…っ、

「もうこれ以上触らないでください!」

これ以上壊されたら可哀想だ!

「っバカ、動かすなよ!」
「触らないで!」
「お前のためにやってんだ!」
「そんなこと言って、どうせまた壊す気でしょ!?」
「復元だ!」

……、

「…え?」

フク…ゲン…?…ふくげん……

「復元!?」

方法知ってるんですか!?というか復元って…

「ちょっ、ちょっと待ってください!」

慌てて土方さんの手を止めた。

「…なんだよ。」
「勝手に触っちゃダメですよ!何かするなら金時さんに聞いてからじゃないと…」
「聞いたら反対されるぞ。」
「っ…それは……」

…うん?土方さん、金時さんのこと……

「お前はコイツを動かして欲しいんだろ?俺よりコイツと遊んでる方が楽しいから、よみがえらせてほしいんだよな?」
「っ、…そ、そういう言い方されたら…、…違うような気がしますけど……」
「どう違うんだ。」

土方さんが細い眼で私を見る。

「復元してもらえるのは…嬉しいですよ?でも……どっちといる方が楽しいとかは…ちょっと。」

だってどちらも土方さんだし……。

「随分と都合いい話じゃねーか。」
「…、」
「俺がいる以上、紅涙は俺といる。俺がいない時だけコイツが必要。…ようは、」

ポンと『からくり』土方さんの肩に手を置いた。

「寂しい時だけコイツを使いたいから生かし続けたい、そう言ってるわけだよな?」
「っ…、」

強制終了も初期化も、彼にとって可哀想だと思っていたのは…私のエゴ。私が……いなくなってほしくないから。

「…、」

私って…

「最低だな、紅涙。」
「っ!」

言われた…軽蔑された。
恐る恐る顔を上げる。土方さんはニタっと笑っていた。

「…?」

なんで?私を見損なった雰囲気じゃないの…?

「紅涙、」
「はっ…はい。」
「お前、俺が本当に何も知らずにミラクル起こしたと思ってんのか?」

……え?

「まァ今回は許してやる。」
「なっ何を…?」
「はァ~?浮気に決まってんだろうが、浮気。」

うっ、浮気ィ~!?

「今回の件が浮気だって言うんですか!?」
「他に何があるんだよ。」
「浮気じゃありませんよ!あくまで自己啓発の授業です!」
「いーや、お前は完全に気を浮つかせてた。」
「っ、だとしても相手は土方さんだし!『からくり』だし!」
「いくら見かけが俺の『からくり』でも、そいつは自我を持ってたらしいからな。」
「うっ…、」
「自我がありゃ単なる『からくり』とは言えねェ。」
「な、なんでそんなことまで…」
「俺の情報網を舐めんなよ?」

腕を組んだ土方さんが、口の端を吊り上げて笑う。さながら…魔王のように。

「…っ助けて、こっちの土方さん!」
「コラ。そいつはもう回収する。」
「回収!?回収って…」
「山崎。」

山崎?

「…山崎なんてここには」
―――スタッ
「なんですか副長。」
「!?」

突如、山崎さんが現れた。

「やっ山崎さん一体どこから…っいや、どこから見てたんですか!?」
「えーっと…昨日くらいから、かな。」
「昨日!?」
「余計な話すんな。山崎、これが回収品だ。」
「了解。」

手筈通りとでもいうかのように、山崎さんは『からくり』土方さんを肩に担いだ。けれど、

「重っ!」

肩に担いだところで膝を折る。

「気を付けろよ、山崎。仮にもそれは俺だ。絶対に落とすな。」
「ちょっ、キツ…!どうせ処分するならいいじゃないですか!」
「馬鹿言え、まだ検討中だ。」

検討中って…。

「返さないんですか?」
「返さねェ。何かと使いどころがありそうだからな…。くく。」

うわー…沖田さんに負けず劣らず悪い顔。さすが上司だわ。

「でも土方さんが使いどころって…ありますか?仕事を代わってもらうわけにもいきませんし。」
「飲み会。」

なるほど!…って、

「飲食できませんよ、『からくり』は。」
「しまった…。…まァ何かしらあるだろ。」

肩をすくめる。
視線の先には、必死な形相で『からくり』土方さんを連れていく山崎さんがいた。
…そっか、じゃあ彼は屯所に連れて帰ることになるんだ。今後どうなるか心配だったから、ちょっとだけ安心した。

「ということは、真選組に土方さんが二人になるんですね!最強!!」
「アイツはノーカウントだ。戦力としては使わない。」
「せっかく完コピなのに…」
「使うとしたら生活面のみだ。マヨネーズを買わせに行かせたり、煙草を買わせに行かせたりするような雑務だけ。」
「単なるパシリじゃないですか…。」

もったいないなぁ。

「せっかく自分の分身が出来たんですよ?もっとこう、使いどころを考えていきましょうよ!眠らせておくなんて、もったいなさすぎです!」

土方さんが二人になるなんて素敵でしかない!
『からくり』とは言え、公認された存在なんだよ?屯所内でも普通に歩きまわれるわけだし、日常生活も共に過ごすようになって……

『さてと、お風呂お風呂~』
『紅涙、』
『キャッ!土方さん!?ちょっ、なんで脱衣場に!?』
『風呂がどういうものか見ておこうと思って』
『あ…そっか、知らないんですね』
『知識はある。だが俺は『からくり』だから、経験したくても出来ない』
『そうですよね…。っで、でも入浴中を見られるのは…ちょっと…』
『なら手伝ってやる』
『手伝う?』
『手で洗うのが肌に一番いいそうだ』
『っ、手で!?や、ちょっと待ってください!』
『安心しろ。俺の手はよく知ってるだろ?』
『そういう問題じゃっ…あッ!ん、…っっ土方さん!?本当はよく知ってて来たんじゃ……っ、ッあん』
『いい嬌声だな…』
『嬌声って…っァ!そっ、そこはいいです!』
『ここはイイのか。ならよくシてやる』
『アっあァッん、っだっ、めッ…』

『…声、響いてんぞ』

『っ!?土方さん!?』
『そろそろ来る頃だと思ってたぜ、兄弟』
『誰が兄弟だ。どけ、俺が入んだよ』
『えっ!?わっ私が入ってるんですけど!?』
『邪魔すんな、先に俺が紅涙と入ってたんだ。先にヤるのは俺だ』
『なんか話がややこしくなってますよ!?というか、ちょっと違う言葉が紛れていたような…』
『仕方ねェ。なら決闘するか』
『決闘!?』
『生身の俺か、』
『人工物の俺か、』
『『どちらが紅涙を悦ばせるか』』
『ええっ!?』
『審判はお前だ、紅涙』
『やっやだ待って…!』
『判定出すまでやめねェぞ』
『ひっぁ、っん』
『からくり舐めんなよ、土方。俺の身体に疲れという単語はねェ』
『黙れ。俺に体力なんて括りはねェんだよ』
『そん、なっア、ぅっああっ!』
『…どうだ?紅涙』
『どっちがいい?』
『っは、ァっ、っそん、な、っの、わかんないっあぁっ』
『なるほど、ッ、足りねェってことだ、なっ!』
『くっァ、っは』
『加速装置使っていいか?』
『おいズルいだろ!』
『…くくっ、』
『きっアぁぁっン!』

…ブッハアアア!何それ、最高じゃないですか!ハーレムもハーレム、天国でしょ!!

「しかも加速装置っ!」

ありえる…!ありえるわ、その機能!!

「使いまくりましょうね、土方さん!」
「…。」
「…、…え…何ですか、その目。」
「お前、また良からぬことを考えてんだろ。」
「!!」

よ、読まれている…!

「顔に書いてんだよ。つーか、加速装置って何だ。」

しまったー!声にも出てたー!!

「…アイツを使うことがあっても絶対お前の目には触れさせねェ。」
「えっ!?」
「動かす時すら報告しねェ。」
「そんなー!!」

私のステキなハーレム生活がっ…!
…って、そう言えば私の妄想力、すっかり戻ってるじゃん。むしろ、たくましくなってる気が…。

「はァー…。ったく、そんなんじゃまだまだ先になるな。」

…?

「何がですか?」
「べつに。」
「えっ…気になるんですけど!」
「お前にもうちょっと鎖がついてからだ。」
「鎖!?」

何事!?

「そうじゃねェと俺、」

土方さんがポンポンと私の頭に手を置いた。

「毎日、仕事の合間も家が気になって仕方ねェだろ?」
至上最大の恋でした!

家…?
仕事の合間も…家が気になる……?

「そ…それってもしかして……けっ――」
「言うな。」

そう言って、

―――チュッ…
「その言葉はまだお預け。」

キスをした。

「土方さん…、」

キス…、土方さんが……っ、人前でキス!!

「歌舞伎町のど真ん中なのに……!」
「…まァ問題ないねェだろ。通行人のヤツらも清々しいほど無視を決め込んでるし。」
「…じゃあもう一回しておきます?」
「調子乗んなよ。…が、今夜だけは乗ってやる。」

どうやら私、もうすぐこの恋が終わるようです。
だってこれからは愛が始まるんだから!

「んっふふ~、どんなドレスにしようかな~っ!」
「何の話だ。」
「え!?この期に及んでそれ言いますか!?」
「わかんねェな。」
「怒りますよ!?『結婚する』って話になったじゃないですか!」
「『血痕』?そりゃ事件だろ、行くぞ。」
「あっ、ちょ…土方さ~ん!?」

Thanks for reading to the end!!
にいどめせつな

2012.12.25
2021.5.5加筆修正 にいどめせつな

にいどめ