至上最大の恋でした3

土方十四郎

どういう…こと…?

「紅涙、」

声が似てるんじゃない。顔も似てる。顔も土方さん。でも土方さんは今ごろ飲み会のはず。そもそも目の前の土方さんは髪が長い。え……え?

「だ、誰…?土方さんじゃ…ないですよね?」

そっくりさん?でもまさか…ここまで似てる人がいる……?

「フッ、」

わ……笑い方までそっくり。

「俺は土方であって、土方じゃない。」
「…?」
「土方を真似て造られた『からくり』だ。」
「っ…え…、…えェェェっ!?」

からくり!?

「ということはロボット!?」
「そうだな。」
「すっ…すごくリアルじゃないですか!!」

髪もサラサラで艶があるし、肌も眼も仕草ひとつにしても完璧人間!

「とても『からくり』に見えません!!」
「自分では分からねェが、そう見えてるなら嬉しい。」

はうッ…!
やわらかな笑顔に胸がやられた。あまりに土方さんと似すぎていて、頭と心が混乱してる。

「『からくり』って、もう少しこう…機械的な喋り方じゃないんですね。なんというか、本当に自然。」
「土方を完全コピーしてるからな。かつ、俺もあの人同様に自我を持った『からくり』だから。」
「『あの人』?」
「…そうか、真選組は例の件に関わってねェのか。」

…あれ。それさっきも言われたような?

「紅涙、この教室の説明は受けたか?」
「説明というか…自己啓発を目的にしてるとは聞きました。」
「ここはオリジナルを完全コピーした『からくり』で相手の深層心理を知り、自己啓発を促す場所だ。日頃オリジナルが口にしないことを、俺が代わりに言葉にしてやる。」

あ…なるほど。

「言わば、あなたはオリジナルの心の鏡というわけですか。」
「そういうこと。」

『からくり』の土方さんを通して、土方さん本人の気持ちを知れる…か。そうして土方さんの気持ちを知った上で、私はどうあるべきか学んでいく………と。
…すごい。すごいわ、この教室。
金時さん、あなたかなり儲かるかもしれませんよ!?チェーン店なんてどうですか!?…って、これじゃあ沖田さんと変わらないか。

「理解できたか?」
「はい!」
「良かった。…それじゃあ早速始めよう。」

私に片手を差し出す。

「おいで、紅涙。」

っえ、

「寂しかったんだろ?俺がいなくて。」
「っ、」

土方さああぁぁんッ!…じゃない!!

「っぅ、ぐ、」
「どうした?」

駆けだしそうになった足を下げ、私は首を振った。

「そういうのはっ…ダメじゃないですか?だって…土方さんじゃ…ないんだし……。」
「紅涙…、」
「…っ」

そんな傷ついた顔しないで!
視界に入れないよう顔をそむけた。すると小さな笑い声が聞こえる。

「バカだな、紅涙。俺も土方だ。『からくり』であっても完全なコピー。だから土方そのものと同じだ。」
「そっそれは別ものじゃ――」
「髪が長ェから見た目が違って慣れねェのは分かる。だが俺は江戸へ来るまでこんな髪型をしてたんだぞ?」

……あ。

『トシは昔、髪が長くてな。後ろで一つにまとめるほどだったんだ』

そう言えば、そんなことを近藤さんが言っていた。
私も見たいから髪を伸ばしてって土方さんに頼んだけど、嫌がられて。しつこく頼むと最後は口にガムテープ貼られたっけ……フフ、懐かしき思い出。

「お前、見たがってたろ?丁度よかったじゃねーか。」
「!…どうして知ってるんですか?私が見たがってたこと。」
「当然だろ、俺なんだから。」

頭が……混乱する。

「お前が真選組へ来た時からちゃんと覚えてる。」

初めて私がフェーズ五を体験した時のことも、クリスマス会でサンタ様になって二人で甘い夜を過ごしたことも、出張から戻ってきた私と公衆の面前で抱き合ったことも、誕生日に監禁された廃屋で『愛してる』と言ってくれたことも。

「それだけじゃねェ。毎日の些細なことだって覚えてる。」
「…、」

私の前へ来て、畳に膝をついた。顔を覗き込むように私と視線を合わせる。

「お前と過ごす時間は、いつだって特別なんだ。」
「っ…、」
「もちろん、これからも。」
「……、…なんて…呼べばいいですか…?」
「ん?」
「あなたのこと…『土方さん』でいいの?」
「当然だろ?俺なんだから。」

ここは、教室。
私が成長するための教室。

「…土方…さん、」
「どうしてほしい?」

この人は土方さんの鏡。…土方さんそのもの。

「だ…抱きしめても…、…いいですか?」
「どうぞ。…だがどうせなら、」
「っわ…!」
「俺が抱きしめてやるよ。」

ぎゅっと抱きしめてくれた腕の中は、

「…ありがとう…ございます。」
「礼なんて言うな。いつもは言ってねェだろ?」
「……そうですね。」

とても静かで、少しだけ…冷たく感じた。

にいどめ