至上最大の恋でした4

なぞ

結局、初回は思い出を確認し合って終わった。
その帰り、金時さんから「どうでしたか」と声をかけられる。

「何か発見はありましたか?」
「今日はただ話してただけなんで…なんとも。」
「そうですか。」
「あっ、でも楽しかったです!」
「それは良かった。ひとまず一週間続けて来て頂ければ、必ず目に見えて変化しますよ。」
「一週間…」

土方さんの予定、どうだったかな…。内緒で来てるし、土方さんの『からくり』と会ってるのがバレるのは……ちょっとマズい。

「もしかして土方さんの予定が気になってますか?」
「あ…はい、黙って来てるので…。」
「承知してます。土方さんの予定なら問題ありませんでしたよ。先ほど沖田さんがいらっしゃって、これを。」

紙を私に見せた。土方さんのスケジュール表だ。

「す、素早い…」
「あの方は随分と紅涙さんを気に掛けておられますね。」
「善意ではないと思いますけどね…。」
「と申しますと?」
「『もがく姿を笑いたい』って、ここを紹介されたんです。」
「はははっ。けれど真意は分かりませんよ。」
「どうですかね…、沖田さんはそのままだと思いますけど。」
「なんなら沖田さんの『からくり』もご用意しましょうか?土方さんと同じく、彼から真意を聞けば――」
「いっいえ!土方さんだけで充分です…。」

おそろしい…!あの感じで沖田さんまで揃えてしまったら…なんかすごく大変な状況になる気がする!

「そちらのスケジュールを見る限りでは、土方さんはしばらく飲み会が続くそうです。ぜひ明日からも教室へお越しください。」
「え、えっと…」

どうしよう…、ここで簡単に返事をしていいのかな……。

「紅涙、」
「!」

さっきまで一緒にいた土方さん…の『からくり』が、障子を開けて顔を出していた。

「また明日な。」
「っ……はい、また…明日。」

…としか言えない。
私はいつまでもドキドキする胸を押さえ、二人のホスト…もとい講師に見送られながら屯所へ帰った。

「…ただいまでーす。」

帰り着くと、なんと時刻は午前0時。
思ったより長居していたらしい。そーっと玄関を通って自室へ向かった。途中、副長室の前を通ったけど、

「……、」

土方さんはまだ帰ってない様子。部屋の電気も点いてないし、煙草の匂いもしない。

「今日も遅いんだ…。」

こんなに毎夜遅いとフォアグラになっちゃいますよ?

「フォアグラになったら、売り飛ばしてお金にしてやる……!」

グチりながら歩いてると、

「…っぅわ!」

私の部屋の前に人が立っていた。腕を組み、私の姿を見つけるや否やニヤりと笑う。

「おかえりなせェ、紅涙。」
「た、ただいまです…沖田さん。」

よりにもよって、ややこしい人。

「で?教室はどうだったんでィ。」

…ですよね。やっぱ紹介者だから感想は聞きたいものですよね…。

「…驚きました、すごく。」
「ほう、何に?」
「何って……『からくり』にです。」
「ありゃ。もう知っちまってるとは。」
「まぁ…、土方さん…が話してくれたので。」
「あのバカ、つくづくつまんねェ野郎でさァ。」
「?」

どうやら沖田さんの予定と違ったらしい。軽く舌打ちして肩をすくめた。

「それで?そんな野郎と紅涙は今まで何を。」
「何って…思い出話を。」
「……あー、悪ィ。ちょっと電波が悪くて聞こえねーわ。」

いやいや電話してないからね!

「土方さんとの思い出話をしてきたんですよ!」
「はアァァァ!?バカじゃねーの?あんな環境で夜中の0時まで喋ってただけなんて信じらんねェ。」
「仕方ないじゃないですか!いきなり土方さんの『からくり』と会わされて、自己啓発も何もありません!」
「だからって俺ァそんな女子会するために行かせたわけじゃねーよ。」
「わかってますよ!いいんです!今日はこれで!」
「…ほほう、そりゃ失礼。明日以降を楽しみにしてまさァ。」

まさか…っ、毎回感想を聞く気!?ムリムリ!そんな過保護なお母さんには付き合いきれませんよ!?

「…あ、本物が帰って来たぜ。」
「えっ!?」
「じゃあな、紅涙。お前の成長、楽しく応援しといてやる。」

ひらひら後ろ手を振り、「がんばれー」と棒読みな声援を残して沖田さんは去っていった。
なんだろう…、既に沖田さんの手の上で踊り始めてるこの感覚……。

「何してんだ、紅涙。」
「!!」

土方さんだ…本物の。

「おっ、おかえりなさい…。」
「ただいま。」

不思議…。ついさっきまで一緒にいた感覚なのに…。。

「何かあったのか?こんな時間に廊下に出て。」
「あ、いえ……、…水を飲みに行ったら、土方さんが見えたので待ってました。」
「……ふっ、させねェぞ。」

土方さんが苦笑して、私の頭を雑に撫でる。

「俺は風呂入って寝るから、お前も大人しく自分の部屋で寝ろ。」

…ああ、そうか。土方さんは私が触れたくて待ってたと思ったんだ。

「…土方さん、」
「ん?」
「お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね。」

弱い風が吹いて、ふわっと土方さんの匂いを鼻に運んだ。煙たい煙草の匂いと、何より強いアルコールの匂い。

「…なんだよ、やけに素直だな。」
「普通ですよ。」

私は笑って「おやすみなさい」と部屋へ入った。土方さんが「おやすみ」と返したけれど、その声にどこか不思議そうな気持ちが見え隠れして、

「……ふふっ、」

少し可笑しかった。

次の日、約束通り私は再び夜間教室へ。
本物の土方さんもスケジュール通り飲み会へ向かった。

「こんばんはー…。」

店へ入ると、金時さんが頭を下げる。

「お待ちしておりました、紅涙さん。」
「あ、よ、よろしくお願いします…。」
「ではこちらへ。」

そう言って案内してもらった部屋は、昨日と同じ部屋。

「おかえり、紅涙。」

部屋にはもちろん、土方さん…の『からくり』がいる。……ううん、ここではこの人が『土方さん』だ。

「ただいま…です。」
「ガチガチだな。いつも一緒にいるのに。」

くく、と可笑しそうに笑う。

「そっ、そりゃ慣れませんよ!まだ…昨日の今日だし。」
「そうか。なら早く慣れるよう、今日は紅涙のしたいことをしよう。」
「私のしたいこと…?」
「何かないか?言ってみろ。」
「そ、そんな……急に言われても…、」
「何でもいいぞ。」

うーん…、そう言われると思い付かない…。どうでもいい時は結構思い付くんだけどなぁ……。

「ないのか?」
「いざ言われると思い付かなくて…」
「じゃあ気になってることは?」
「気になってること…」
「俺に聞きたいこととか。」

土方さんに聞きたいこと……

「…あの、土方さんにというか…あなたになんですけど、」
「紅涙、その言い方だと俺が土方じゃないみたいに聞こえる。」
「っ、ごっごめんなさい。えっと…土方さんの身体がどうなってるか見てみたいなと思って。」
「ハハッ、なんだそれ。お前の脳内は相変わらず卑猥だな。」
「え!?」
「それは何プレイだ?」
「ちょっ、ちょっと!今の発言、撤回してください!」
「事実だろ。」
「勘違いですよ!私が言ってるのは、『からくり』としてのあなたの身体が知りたいんです!」
「…ああ、俺の仕組みを知りたいってことか。」
「そうです!例えば肌は温かいのかとか、やっぱりネジはあるのかとか――」
「ダメだ。」
「え…、」
「何度も言うが、俺は土方十四郎だ。肌が温かいのは当たり前だし、ネジなんてあるわけない。だろ?」

土方さんが苦笑する。
その顔を見て、私は触れてはいけないところに触れてしまったんだと気付いた。

「…ごめんなさい。」

謝ってばっかりだ…。

「……だが、」
「?」
「だがどうしても見たいと言うなら、特別に許可してやる。」
「いいんですか!?」
「ただし、一つ俺を知ったら一つお前を教えろ。」

それは…どういう意味?

「フッ。わかりやすい顔しやがって。」

土方さんが私の頬をやんわり撫でた。

「そういうところも好きだ、紅涙。」
「っ…、」

頬を撫でていた手が滑り、私の唇を優しくなぞる。

「あ、の…」
「静かに。」

アゴを上げられて、土方さんの顔が近付いてきた。
キス…してもいいのかな。これって浮気?でも教室だし…土方さんの『からくり』なんだからセーフになるんじゃ……って、

「話がそれてる!」

これ、私の気をそらすためにやってるんだ!

「…チッ、バレたか。」
「もうっ!」
「ならサービスだ。一度目の質問は見返りなしに教えてやる。」

やった!

「何にする?」

私はいくつも気になる中から、一番手頃なことを聞いた。

「体温はあるんですか?」

何度か触れてるけど、今ひとつ分からないんだよね…。

「体温、か。」
「はい。」
「……わかった、」

『わかった』?
土方さんが私に両手を広げる。そして薄い笑みを浮かべた。

「なら、お前自身で確かめてみろ。」

にいどめ