始まりの乾杯
「それじゃぁ早速自己紹介ね!」
来てしまいました、警察合コン。
そう。本当にお妙さんは人を呼び、予定通りに開催されたのです!
「あらやだ、なぁに?真選組の方、人数が足りてないじゃないの。」
お妙さんは頬に手を当て、「困ったわ」と首を振る。けれど私達の前には確かに三人座っていた。
…にしても私の前に座ってる人、かなりカッコイイんですけど。目つきは鋭すぎるほどに鋭いけど、キリッとしてて悪くない!
「いや~いい個室ですねェお妙さん!」
鋭い目つきの人の右隣に座っていた毛深そうな男性が満面の笑みで言う。
「まさか『すまいる』にこんな個室があったとは!ハッ…、さては今日の合コンは隠れ蓑であって、本当は俺と食事したいだけの言いわ……」
―――ゴッ!!
「グェフッ!!!」
「黙れクソゴリラが。」
び、びっくりした~!いきなりお妙さんが毛深い男性に右ストレートを繰り出すんだもの…。
「そもそも何でテメェが来てんだ、アァん?」
「や、やだなァお妙さん。俺は今日に限らずお妙さんのいるところに必ずと言っていいほど出没してるじゃないですかyo!」
パチッとウィンクすると同時に、男性の目に割り箸が突き刺さる。
…って、ええ!?割り箸!?どこから飛んできたの!?
「オイィィ!アンタやり過ぎだろ!」
鋭い目の男性が焦った様子でお妙さんに訴えた。
…お、お妙さん!?お妙さんが投げたって言うの!?
「おい近藤さん!しっかりしろ!!」
「う、うーん…」
毛深い男性、もとい近藤さんは鋭い目つきの人に身体を揺らされながら唸る。
とりあえず割り箸は取れたものの流血している。涙…みたいに見えなくもないけど、その表情はなぜか僅かに微笑んでいた。
「山崎!おしぼり貰ってこい!!」
「はい!」
鋭い目つきの人の左隣に座っていた男性、山崎さんが走って行く。大人しそうで真面目そうな人だ。
「大袈裟よ土方さん、このくらいじゃゴリラは死なないわ。」
お妙さんはうんざりした様子でグラスに氷を入れる。
きっと夜のお仕事はこういう対応がなければやっていけないのだろう。…うんきっとそうだ。今見た割り箸も、流血も。なんてことのない日常なんだ。大変だな……ははは。
「そう言えば今日は総くん来てないんですねー。」
私の左隣に座っていた友人が目つきの鋭い人に言う。
…あ、やべ。この人の名前だけ聞き逃した!
「総悟は未成年だからな。」
「でも前は来てくれたのに~?」
「あれはとっつぁんの回収を手伝わせただけだ。まァ今回も『連れてけ』ってうるさかったけどよ。」
「お待たせしました!」
大量のおしぼりを手に山崎さんが戻ってくる。目つきの鋭い男性は近藤さんの目元におしぼりを置いた。
「病院行くか?」
「い、いや…最期は一分一秒でも長く…お妙さんの傍にいたい…。」
生死をさ迷ってる!?
「ったく、縁起でもねェこと言ってんじゃねェよ。寝てろ。」
さらっとあしらうように鋭い目つきの男性が返した。
なんというか…その横顔がもうとんでもなく綺麗で………ほんともうすんごくいい!何この哀愁、何この憂い!絵になるってこういう人のことを言うんですか!?
「?」
「!!」
ついつい見惚れていると、目つきの鋭い人と目が合った。
「ぅあ…、ど…どうも…。」
「…どうも。」
き、気まずい!こんな時にいきなり目が合ったら何て言えばいいの!?
「…アンタの名前は?」
「えっあ…はい、紅涙…です。」
「…そうか。」
短く返事をして、じっと見つめる。うっ…その視線が息苦しいです。
「あら。紅涙ちゃんが気になります?土方さん。」
土方さん!土方さんて言うんだ!
「…べつに。」
お妙さんがクスッと笑ってお酒を注ぐ。土方さんはグラスを差し出しながら浅い溜め息を吐いた。
「今日は付き合いで来てんだ。主役はコイツ。」
そう言って山崎さんの肩を叩く。叩かれた彼は驚いたせいか、手に持っていた空のグラスを見事に落とした。
「何やってんだ山崎。」
「ああッ、す、すみません!副長の力が思いのほか強くて…」
「…あァ?俺が悪いってのか。」
「そ、そういうわけじゃ…というか!今日は主役とかそんなのないでしょ!?」
顔を赤くして山崎さんが声を上げる。
「おっ俺はただ『来い』って言われたから来ただけで…」
「お前もそろそろイイ歳なんだ。女の一人や二人いねェでどうする。」
そこは一人でいいと思いますけど。
「そんなこと言ってますけど副長、そもそも言ってる本人に彼女がいないんじゃ説得力…」
「ンだとコラァァ!!」
「ギョエェェェ!!!耳ッ耳がちぎれるゥゥォアァァ!!」
耳を引っ張られ、涙目になりながら山崎さんが「ギブギブ!」と叫ぶ。…なんだか賑やかな人達だな。
―――バンッ
「!?」
突如聞こえた大きな音に心臓が小さく震えた。な、なに…?
音の方を見る。するとお妙さんが机の上に両手の平をついて、肩を震わせていた。
「…うるせェんだよ、男のくせにキャピキャピキャピキャピ。」
机に手をついていたお妙さんが、今度は机に爪を立て、両指で木の肌をギリギリと削っていく。それに気付いた友人が慌ててフォローに入った。
「おっお妙ちゃん、乾杯。乾杯しましょ?」
「…そうね、とっとと乾杯しましょう。」
フンッと鼻先で笑う。お妙さんコッワー!!
「それじゃあとりあえず…」
先程が嘘のように綺麗な笑みを浮かべ、お妙さんがグラスを持ってみんな皆を見渡す。そして一言。
「かんぱーい!」
「「「かんぱ~い!」」」
グラスがぶつかり合った。その中にはちゃっかり近藤さんも参加している。あからさまに鼻の下を伸ばしてお妙さんのグラスにばかり乾杯したもんだから…
「……、」
お妙さんは無言で笑みを浮かべ、近藤さんの頭にジョッキで乾杯した。言わずもがな、近藤さんは再びダウンする。それを見て小さく笑った時に、
「騒がしくて悪ィな。」
土方さんも同じように小さく笑って、話しかけてくれた。
やばい…爆死しそうなくらいイケメンだ……ッ!
「い、いえ…見てて楽しいですから。」
「見てるだけならな。」
「ふふ…、かもしれませんね。」
クスッと笑えば、土方さんがグラスを持ち上げて私に突き出す。それを見て、私もグラスを持ち上げた。
目を合わせる。
また二人で小さく笑い合って、
「「乾杯。」」