煙草の王子様 1

Question.1

たとえば、算数の問題。
<問1>上司のA男さんがB子さんに言いました。
「地球の裏側で事件があった。至急向かうぞ」
その場所は二人の位置から、ともに2万km先の場所です。
A男さんは赤色灯を点けたパトカーを使い、時速170kmで向かいました。B子さんは飛行機を使い、時速900kmで向かいました。
二人が現場に到着するのは何日後になるでしょうか。ただし、地球の一周は4万kmとします。

<答>そんな組織なら辞めた方がいい。

そんな、話。
煙草の王子様

「はーい、注目してくださーい!」

保育士がパンパンと手を叩く。
小さく三角座りした園児たちは、くりくりした丸い目をこちらに向けた。

「今日はいつもみんなを守ってくれている真選組の方に来て頂きましたー!」

数十人の園児達と十数人の先生方の視線が、一斉に私達に注がれる。

「真選組副長の土方十四郎さんと、真選組隊士の早雨紅涙でーす!」
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしく。」

拍手と共に園児たちの前に立った。

「な…なんか息苦しいですね、土方さん。」
「ああ…特にガキの視線がキツイ。」

口の端で、こそこそと話す。
今日は近くの幼稚園に『お仕事を知ろう』というイベントでやってきた。
私と土方さんは真選組の代表。
普段の仕事内容を説明したり、園児たちの疑問に答えることになっている。ちなみに、世の中は勤労感謝の日で祝日だ。

「さぁみんな、静かにお話を聞きましょうね。」
「「「はーい!」」」

居心地は良くないながらも、土方さんは何とか笑顔らしきものを浮かべている。そこへ、

「…せんせー、」

一人の女の子が手を上げた。

「どうしたの?」
「あのひと、こわい…。」

そう言って小さな指を向けたのは、

「…あー。」
「おい紅涙、なんだよその『あー』ってのは。」

土方さんだ。まぁこの程度は予想の内。
先生はこちらを見て困ったように笑う。土方さんは張り付いた笑顔をそのまま器用に引きつらせた。…マズイ、頬が震えている。

「え、えっと…」

ここはなんとか私がフォローしなければっ!

「だっ大丈夫だよー!この人はそんなに恐くないよー。」
「おい!『そんなに』なんて言う必要ねェだろうが!」

「きゃーこわいー!!」

「ああっほらほら、土方さん謝って!」
「…すみませんでした。」
「そんな謝り方だと余計に怖いじゃないですか!」
「ならどう謝れっつーんだよ!」
「ごめんねーとか言って笑うんですよ!」
「ごめんねー!!」

「きゃあっこわいぃぃぃ!」

「あちゃー…。」
「どうしろっつーんだよ…。」

このままだと火種を大きくし兼ねない。なおかつ、土方さんの心の折れる音が聞こえてきそうだ。

「じ、じゃあ!」

私は大きく声を出して手を挙げた。

「みなさんは私たちがどんなことしているか知っていますか~?」

無理やりに話を切り替える。大人なら引っ掛かりそうな流れでも、そこは園児。何の問題もなく、

「ワルい人をつかまえるー!」
「タイホするー!」

話をすり替えられた。…よしよし。

「うんそうだね、みんなよく知ってますねー!」
「…やるじゃねーか。」

隣で土方さんが呟く。仕方ないなぁ、もう。

「それじゃあ今日はお姉さん達に皆さんの知りたいことを教えてくださーい!」

急遽、私は『説明→質疑応答』だった形を反対に変えた。説明から入ると、また土方さんが難しい顔に戻ってしまうからだ。子ども達の興味を惹くためにも、まずは質問を受けつける!

「どんな質問でもいいですよ~!たとえば真選組には何人いるんですか~?とか何でも!では質問ある人~、」

そう言いながら挙手をして見せる。園児達は、ワイワイキャーキャーと手を挙げた。その中でも一際元気よく手を挙げている男の子を指す。

「はい、じゃあそこの男の子!」

男の子は立ち上がって、照れくさそうに「えっと…」と話し出した。

「パトカーはだれでもうんてんしていいんですかっ。」

うん、いい質問。

「特別な試験に受かった人だけ運転することが出来ます!」
「「え~」」

様々な園児の反応の中、別の男の子が「オレしってる~!」と自慢げに言った。

「それ『めんきょ』っていうんだぜ!オレのパパ、もってるし!」
「いいなー!じゃあおまえ、パトカーにのれんじゃん!」
「わたしんちはママが『めんきょ』もってるー!」

キャイキャイと騒がしくなる園児達に、

「ストーップ!」

私は声を挙げて制止させる。

「確かに『免許』を持っていると、車を運転することが出来ます。けれどパトカーに乗る人は、パトカー専用の試験を受けて合格した警察官じゃないと運転することが出来ません。」
「うちのパパはダメってことー?」
「うん。もし乗りたいなら、将来キミが警察官になってね。」
「じゃあオレ、けいさつかんになろっかなー。」
「その時はぜひ真選組に来てね~!パトカーにも乗れるよ!」

さりげなく真選組を売り込む。隣で土方さんが、うんうんと頷く姿が見えた。…よし!

「それじゃあ次の質問がある人ー!」
「はーい!」
「はい、じゃあそこの後ろの女の子!」

二つに髪を結んだ女の子が可愛らしく立ち上がる。

「あっあの、そのっ…」
「なんですか?」

照れてモジモジする姿が微笑ましい。私は出来るだけ優しく話し、「ゆっくりでいいよ」と声を掛けた。
少し頬を赤くした女の子は、期待に満ちた表情で息を吸う。そして、

「おねえさんとおにいさんはっ、つきあってるんですかっ。」

とんでもない角度の質問をしてきた。

「こいびとどうしですかっ。」
「「……、」」

おマセさんめ……。

にいどめ