旅立ち 1

午前0時

静かな俺の部屋。
俺しかいない、俺の部屋。

『土方さんっ!』

お前の声がしない、俺の部屋。

「やりたい事…か…。」

灰皿に煙草の灰が落ちる。
目の前にある大量の書類が頭に入らなくて、俺は静かに廊下へ出た。

中庭を通して、斜め左に見えるのが紅涙の部屋。
もう夜中の十二時だというのに、そこだけ浮き上がるように明かるい。耳を澄ませば、ゴトゴトと音も聞こえた。

「まだやってんのか…。」

小さく吐き出した溜め息は、俺がいつも紅涙に吐く、あの呆れた溜め息ではなく。

「……、」

全く別のものだった。

「…なんで言えねェんだろうな。」

この性格が嫌になる。…いや、大人である自分が嫌になる。
部屋へ戻り、俺は引き出しの中から便箋を取り出した。縦にいくつも引かれた線。筆を持って、俺はお前に何を書けるだろう。

明日、旅立つ君へ。
俺のままで送ってやれるように。笑って、「気をつけろよ」とだけ言えるように。

『紅涙へ』

明日、日が昇り、あの駅から旅立つお前に。

俺は文を書く。

にいどめ