腰間の秋水 9

別れの時

「ひゃッ…ぁ…ッ」

服を脱ぐことに抵抗はなかった。
出会った時もそうだったけど、刀身の私は鞘がなければ人で言う所の裸。
ただ、その上を撫で回される経験はなくて。

「ァあッ…やっ」

柔らかい舌が胸の頂に触れる度、無意識に声が漏れた。房から先端へと舌先で弾かれれば身体が跳ねる。
気持ちよくて、頭が全く働かない。

「ッんぅっ…、ッ…」

土方様は片手で胸を弱く撫で上げ、もう片方の手で下へ下へと撫でていく。
…ああ、もっと。

「土、方さまぁ…ッ」

もっと、して欲しい。
まるで刀の時とは違う。こんな刺激、今までなかった。

「…何だ、紅涙。」
「もっと…ッ、もっと触って…っぁ、ください…ッ」

私の中が強く求める。
土方様へ手を伸ばせば、口の端を吊り上げて笑った。

「いやらしい女。」

私の手の平にキスをする。本来なら蔑む言い方も、今の私には嬉しかった。

『女』と言ってくれた事実。
求めていた感情が、求めていたモノが、ここにあった。

「っあ、」

土方様の舌はスルスルと腹部を辿り、下腹部を執拗に舐める。足を開かせるように内腿を撫でられると、下半身の中央をひと撫でした。
その瞬間、

「ッあっァあ…」

身体がザワめき立つ。

「好きか?ここ。」
「あァっ、ん、ッあ、」

土方様の手がさらにそこを攻め立てる。人差し指で擦りつけるように触られると、自分でも聞いたことがないような嬌声が出た。

「ッああっん、や、ッ」
「気持ちがいいだろ。濡れてるぞ。」

腰が浮く。下腹にいる土方様と目が合った。

「物欲しそうな顔しやがって。…誰にも見せんなよ、その顔。」
「あっ、ッ、んァ、」
「濡らしてやるよ。ほら、」

土方様が同じ場所を触る。なのにさっきよりも、

「ひァッぁんッあ」

滑りがよくなったように感じる。ヌルヌルと滑るように動くと、また一段と気持ちがいい。

「気持ち良さそうだなァ、紅涙。」
「い、ッいい、っ、気持ち、ッいい、っ、っァんっ、」

腰が震える。
土方様は片眉を上げて私の顔を窺いながらも、指の動きは止めなかった。意識はもう、触られている場所にしか向かない。

「アっ、あァっ…、待っ、ッや、待っ、てェ!ひァッ、」

クチュクチュと水っぽい音が聞こえる。次第に身体の中から沸き立ちそうなものを感じた。頭の中が白くなっていく。

「…あっ、ッア、や、っ」

もうすぐ…何かが……っ、

「悪いな、紅涙。」
「ッはァ、っ、…え?」
「お前を見てると…俺も我慢できなくなってきた。」

その声と一緒に私の意識がゆっくりと戻った。
土方様の手はそこから離れ、今度は少し後ろの方を触る。プツりと突き立てた。

「!?」

そのまま身体の内側に入ってくる。

「はッぁッ…ゃだ!なっにッ…ッん!?」
「俺の指だ。ちょっとだけ我慢してくれ。」
「ゆ、び!?ッあ、や、」

下腹部で動く。調べるようにグルッと撫で回された時、僅かに触れた箇所にだけ身体が強ばった。

「アっ、ッ」
「そうか。」
「あァっン、く、ァっ」

息を吐くことしか出来ない。

「ここだな。」
「っ、あァんッ」

執拗に擦る。触れられる度に身体が小刻みに揺れ、また何かが差し迫ってきた。
来る……、もうすぐ。もう来るっ、のに……

「は、ァっ、……?土方、様…?」
「そう焦んなって。」

やめてしまった。土方様は膝立ちになり、私の腰を持ち上げるように掴む。

「な、に…?」

目をやれば、「紅涙、」と私の名前を呼んで軽いキスをしてくれた。

「目、開けてろよ?」
「…?」

次の瞬間、

「ッ!アっッ」

身体の中を突き抜かれるような衝撃に襲われる。私は息を呑んで、口を大きく開けた。苦しい。

「ッ、力、抜けッ。」

言われても出来ない。土方様の苦しそうな声が頭の端に聞きながら、私は首を横に振った。
すると首筋を噛まれて、下腹部の敏感な場所を擦られる。

「ひャあッ…、ン、んぅッあん」

気持ちいい。甘い感覚に気を取られていれば、身体の中へと押し進むような圧を感じる。

「っ…、はァ…紅涙、お前の中…ヤベェわ。」

土方様は私より少し下で薄い目をして、はぁと熱い溜め息を漏らした。その額に汗が滲んでいる。
私は朦朧とする意識の中で、土方様の前髪を耳に掛けるように触れた。

「土方…様っ…、」
「何だ?」
「私…っ…、幸せ、です…。」

微笑めば、土方様が瞼にキスをくれる。

「もうっ…、っ、寂しくない…っ、」

こんなにも通じ合えた。村麻紗に戻っても、これまでのまま…尽くしていける。

「大好きです…土方様。」

土方様の首に腕を巻きつけ、出来るだけ肌を密着させた。
これ以上ない温もり。これ以上ない、幸福感。

「ずっと…お傍に…、」

私はあなたの力となり、あなたの刀に戻りましょう。
土方様は「ああ」と返事をして、

「ずっと一緒だ……紅涙。」

優しい微笑みを、見せてくれた。

それからどれぐらい時は経ったのか。
気が付けば私は、眠ってしまっていた。けれど目を覚ました時も、土方様がギュッと抱き締めてくれている。
穏やかなその寝顔に、

『おはようございます、土方様。』

小声で告げた。

「…ん?」

土方様がゆっくりと目を覚ます。

『っごめんなさい!起こしてしまいましたね…。』
「……、」

土方様はボーっとした目で私を見て、眉間に皺を寄せる。

「あァ?」

今日の寝起きは一段と機嫌が悪いようだ。私はさらに『ごめんなさい』と謝罪した。すると、

「…何だ、これ。」

これまで投げ掛けられたことがないくらい、低く、冷たい声でそう言って、

「刀を抱いて眠ってたのか?…気持ち悪ィ。」

鼻で笑い、畳の上に置かれた。
そう、…刀。私は身体は、刀に戻っていた。

『それ以上の何を望むか、妖刀よ』

あの声が、私の頭の中に…いや、私の中に響く。

『うぬの役目に戻れ。主様のために果てよ』

そうだね。あとはもう……土方様のために。

『……土方様…、』
「はァ~っ!?たく…何なんだよ、服も着てねェし。」
『……。』

私の声は届かない。
起きる土方様の背中を見ながら、細い溜め息をついた。

にいどめ