参
「よいしょっと。」
「しっかり固定しろよ。」
「してますー。」
中庭の木に固定させた。笹だけでは自立できないので、元から生えている木に括りつける。
ボイドラとシナリオライターと犬!
参
「よいしょっと。」
「しっかり固定しろよ。」
「してますー。」
中庭の木に固定させた。笹だけでは自立できないので、元から生えている木に括りつける。
「出来た!……うわー、」
なんというか、
「地味…ですね。」
緑だ。実に緑色。サワサワと風に揺れる葉音が癒しにすらなっている。
「当たり前だ。飾りも何もねェだたの笹なんだから。」
「あそっか、飾り…!」
「まさか、」
「?」
土方さんが怪訝な顔をする。
「まさかお前、飾りを作るとか言い出さねェよな…?」
「作りましょう!」
「作らねェよ!」
ははは…ですよね。
土方さんは眉間をつまみ、「あのなァ、」と溜め息混じりに言った。
「俺が嫌なら、そう言えばいいだろ?」
…え!?
「さっきから遠回しな言い方ばっかしやがって…」
「ちょっ、っどこからそんな話になるんですか!?」
「ずっと二人きりになること避けてんじゃねーかよ。」
「避けてません!」
そりゃあスイッチがオンになる前に色々しておかなきゃとは思ってますけど、決して土方さんを避けているわけではありません!
「私はただ、せっかく七夕をするなら飾りがないと寂しいな~と思っただけですよ。…笹も用意したことだし。」
「なら笹なんて用意するんじゃなかった。」
「そ、そんな言い方…、」
「あーあ、」
土方さんは、ひたすらつまらないという顔をして煙草に火を点ける。
「こんなことなら、俺も今から将軍警護に行ってくるかな。」
「っ!?」
そっそれは……
「…やめてください。」
絶対に嫌だ。
「ああ?」
「…嫌です。……行かないで。」
「そう言われてもな。紅涙はこれから飾り作りに忙しいんだろ?相手してくれねェんなら……。」
物言いたげな視線を向け、口を閉じる。…仕方ない。
「…わかりました。」
「何が?」
土方さんがいなくなっちゃうくらいなら、
「…諦めます、飾り。」
七夕の飾りなんてどうでもいい。笹のままでも、みんなの短冊を飾れば賑やかになるだろうし。
「…それで?」
「『それで』…?」
「他に言うことあるだろ。」
……、
「ごめんなさい…?」
「じゃなくて。今から何するか言えよ。」
「え…?」
今から…?
土方さんは煙草の灰を落とし、ニヤッと私を見る。
「誰と、ナニするのか。」
…あー……なるほど。
言わせたいことを察した。もはや土方さんのスイッチは半押し状態だ。
「どうした、言えねェのか?言ったら望み通りのことをしてやるぞ。」
「っ、じゃあ飾りを一緒に」
「笹関連のことを言ったら殺す。」
「こっコロッ!?」
殺す!?
「求められてる答えは分かってんだろ?言え。」
「くっ…、」
まだだ…まだ流されるな私!夜が始まったばかりの今、押し倒されてしまったら…違う意味で死んじゃう!殺されちゃう!どっかの拳王みたいに昇天しちゃう!
「じっじゃあ飾りを諦めた代わりに!」
「あァ?」
「うっ…。」
威圧的な表情に怯む。
「さ、先に…七夕祭り…行きたいです。」
土方さんの眉がピクりと動いた。
「祭りだと?」
「だだだってほら!私達、このままだと夜ご飯も食べずじまいになりますし!」
今夜の屯所は女中不在。初開催の七夕祭りに合わせて夕方で終業となっている。
「夜店で済ませればパパッと済みますよ?色んなものが食べられる上に、」
「食い物なんてどうでもいい。」
「どれもマヨネーズと相性のいい食べ物ばかりのはず!」
「!…マヨネーズと、相性のいい食い物……」
「そうです!たこ焼きとか焼きそばとか玉子せんべいとか!」
「ベビカスもいいな。」
……ん?ベビカスに…マヨネーズ?
「だが祭りに行きゃァ警護中の隊士やらオフの女中やらがウヨウヨいるだろ。わかってんのか?」
「浴衣を着て行けば、意外にバレないかなぁ…と。」
「普通にバレるだろ。」
「顔を見られたら終わりですけど、きっと雑踏に紛れて目に付きませんよ。向こうもまさか二人で来るとは思ってないだろうし。」
加えて人混みだ。こちらから近付かないようにしていれば、必ずバレない!はず!
「……。」
「ダメですか?」
「…浴衣は持ってるのか?」
「持ってます!」
「準備いいな。」
「昔のですよ。」
「ふーん…。昔の、ね。」
土方さんが私のつま先から頭の上までを流し見た。そして、
「…わかった。」
煙草を消す。よっしゃァァ!
「それじゃあ早速着替えてきますね!土方さんも着替えててください!」
私はすぐさま自室へ向かう。タンスを開け、浴衣を取り出した。
「まさか着る日が来るなんて…!」
さっきは『昔の浴衣がある』なんて言ったけど、本当は最近買ったばかりの浴衣だ。いつか土方さんと夏祭りに行けたらいいなと思って衝動的に買ってしまった物だったが、まさかこんなに早く使う日が来るとは!
「えっと、肌襦袢を着た後に浴衣を…」
―――スパンッ!
「違ェだろーが!!」
「!?」
び、ビックリした~!
土方さんがものすごい勢いで障子を開け放った。
「なななな何してんですか土方さん!レディーのお着替え中ですよ!?」
「うるせェ。」
うるさいって…。あれ?土方さん、もう着替えてるじゃん!早っ!
「紅涙、脱げ。」
「え?」
「それ、」
アゴで私をさす。
「肌襦袢、脱げ。」
「な、何言って…、」
「着方が違ってんだよ。肌襦袢の下に何つけてやがる。」
「うっ…。」
詳しい…。本来、肌襦袢の下は何も身に付けないもの。でも今の私は…
「っほ、放っておいてください!」
しっかりと下着をつけている!だって隊服の慣れで、つけてないと落ち着かないんだもん!
「どう着ようと私の勝手でしょう!?」
「ダメだ!脱げバカ!!」
「ばっ、バカまで言わなくても…っ、あ!」
グッと腕の辺りを引っ張られた。肌襦袢が着崩れ、肩まで剥き出しになる。
「ちょっ、待って土方さん!」
「待たない。」
「やっでもっっ」
これ以上脱がされると困ります!
胸元で肌襦袢を握った。けれど、
「大人しくしてろ。」
「!?」
手首を掴まれ、引き剥がされる。言わずもがな、下着姿。
「っせ、ッ、セクハラー!!」
手で隠しきれるわけもないが、身を屈めた。
「なに照れてんだよ。」
「こんな姿にされて恥ずかしくない人がいますか!?」
「俺の前ならもう平気だと思ってたんだが?」
「っ、」
どこか楽しそうな土方さんがこちらに手を伸ばす。
「恥ずかしいんなら着せてやるよ。」
「っ、結構です!」
「遠慮すんな。」
「一人で着れますから!」
「…へー。」
薄っぺらい相づちを打ち、土方さんは私の肌襦袢と浴衣を手に取った。
「ならその格好で行くんだな。」
「はい!?」
「服は俺が没収する。」
意味が分からない!
「なんで着付けたいんですか!?」
「紅涙だから。」
「!?」
な、何この妙な気持ちは…。嬉しいような…やっぱり意味が分からないような…。
「どうするんだ?」
「ど、どうするって…」
どうするもこうするも…いつまでも下着姿でいられない。
「…着付けてください。」
「フッ、仕方ねェな。」
何が仕方ないんだか…。
土方さんの口の端が吊り上がる。絶対普通に着付けてくれない。
「じゃあ下着取るぞ。」
「!!」
―――サラッ…
早い!
「ひヮ!」
あっと言う間に裸と化した上半身を手で隠す。が、
「何やってんだ、腕伸ばさねェと着られねーだろ。ほら肌襦袢。」
「あ、…はい。」
あら?意外と普通に着せてくれている。
「次、浴衣。」
「はい。」
するすると着付けてくれた。無事に帯まで辿り着く。
「あ、ありがとうございました…。」
なんかビックリ…。でもこれで出掛けられ――
「まだ終わってねェよ。」
「え?」
土方さんが後ろに回る。
「これから、だろ?」
耳元で囁かれた。うなじを舐められる。
「っひぁ!?ッ、ひ、っ土方さん!?」
「着付けだけで終わると思ったのか?」
首筋にキスを落とす。
「んっ、でもちゃんと着付けてくれてたからっ、」
「重要なのは着付けた後だ。」
背後から浴衣の隙間に手を差し入れてきた。
「滅多にない浴衣姿なんだから、楽しまねェと。」
「た、楽しむって…」
「そりゃあもちろん、」
ぐるりと身体の向きを変えられた。土方さんと対面すると、それはそれはご満悦な様子で目を細める。
「今しかやれねェことだ。」
今しかやれない…、やれ……
『今しかヤれねェことだ』
やっぱりそっちか!
「駄目ですよ!せっかく着付けてくれたのに浴衣がっ」
「また着付けてやる。」
「脱いだらシワになりますし!」
「なら脱がさねェし。立ってする。」
「立って!?…で、でもお祭りに行く時間だって…」
「一回で我慢する。」
「……。」
ダメだ…。もう私の持ち札は全て切ってしまった。
「お前が素直になったら、祭りにも早く行けるようになる。」
「んっ、」
落とし込む用に囁きながら、土方さんは私の浴衣をくつろげていく。手の平が肌を見つけると、内腿から外側へと優しく撫で上げた。
「ぁ、ぅっ…、」
土方さんの胸元を握り、刺激に耐える。それでも、
「んんっ、」
ぞわぞわする感覚に膝が笑った。
「気を付けろ。座るとシワになるぞ。」
わかってるけど…!
土方さんはわざと弱い部分を責めてくる。崩れそうな私を楽しむように。
「意地悪っ…、」
唇を噛み、睨みつけた。土方さんが鼻先で笑う。
「その目、いいな。」
「っ、え…?」
「タンスにもたれてろ。」
「ん、」
トンッと背中にタンスが当たる。
「キツくなったら言えよ。聞ける範囲で聞いてやるから。」
そう言って、
「っア!」
浴衣の裾を割った。
…そこからは大変だった。
スイッチが入った土方さんに手加減はなく、私の膝は笑うどころかカクカク抜けて。浴衣も着流しも見るに堪えない崩れ様となり、案の定、
「…足りねェ。」
土方さんはもう一回と言う。
「ダメですよ!一回だけの約束でしょう!?」
話しながら浴衣の襟元を正そうとすれば、がぶりと首筋に吸いつかれ、
「もっとお前を触りたい…。」
「っ、っダメですってば!」
腕を伸ばして引き離した。
「早くお祭りに行かないと時間がっ」
「ならもう祭りには行かねェ。」
「はい!?」
「行く気なくした。」
子どもか!
土方さんは畳の上にあぐらを掻き、煙草に火をつける。まだ着崩れたままの着流しからは素肌が見えた。
「うっ…」
艶っぽい姿に思わず気持ちがグラつく。…が、今これ以上は絶対ダメだ!
「…土方さん、」
「ん。」
「……、」
「なんだよ。」
「…お祭りに行ったら…、もうやらなきゃいけないことも、やりたいこともありません…から…、」
こんな煽るようなこと、言いたくないけど、
「その…帰ってからなら……ど、どうなっても…」
『どうなっても』!?どうなる気なのよ私!
自分で口にしておきながら恐くなる。
「何を…しても、…いい……ですから」
「よし。」
スクッと土方さんが立ち上がった。咥え煙草で着流しを整え、横目で私を見る。
「とっとと行って、とっとと帰るぞ。」
にいどめ