旅立ち 5

手紙

揺れる薩摩行きの電車の中。

「…っ、…はぁ…、」

まだしゃくりあげる呼吸を抑えながら、私は深く息を吸う。
…予定外だった。見送られると泣きそうだったから、出発時間は誰にも言わなかったのに。

「まさか土方さんが見送ってくれるなんて…。」

一番、避けたかった人。
でも本当は、一分一秒でも一緒にいたかった人。
…だからこそ、一分一秒でも早く離れておきたかった。
別れの間際まで一緒にいると、寂しくて…悲しくて。何もかもを放り出してしまいそうになるから。

「せっかく、自分で決めた道なのに…。」

全ては真選組のために。
何より、土方さんのために。
自分に厳しく頑張ろうって覚悟を決めて、温かい場所から出ることを決めた。

「簡単には…戻らない。」

頑張らないと。しっかりしないと。
どれだけ学べるか、どれだけ成長できるか。次はいつ江戸へ戻るかすら…決めてないんだから。

『気をつけんだぞ!』

…土方さん、泣いてくれてたな。あんな姿、初めて見た…。

「ぅっ…、」

やばい、思い出すと泣ける。もういい加減に泣き止まないと、着いた時に化粧がボロボロだ。

「……はぁ。」

バッグを開き、鏡を探した。するとそこに、入れた覚えのない物が入っている。

「…何?これ…。」

折りたたまれた白い紙。
地図?いや、入れてない。他にメモなんて書いてないし…。
紙を持つ。カサりと音が鳴ると同時に、中の文字が僅かに透けて見えた。

「っ!…こ、れって……、」

どうしよう…見たくない。見たくないのに見たくて……、見たくない。
また視界が滲む。目は容易に涙を溢れさせ、何の邪魔もなく真っ直ぐに流れた。
震える手で紙の端を持つ。ゆっくり、ゆっくり…私は開いた。

「っ…、」

見慣れた綺麗な字で、少し雑な言葉たち。決して多くはない文章が便箋の大半を余らせている。
…なのにそこには、彼の全てが詰まっていた。

「っぅっ…」

一度読み終わっても、また文字を追って。何度も、何度も。一文字も読み飛ばさず、一文字も読み間違えず。

「土方さん…っ、」

たまらずギュッと握り締めると手紙に皺が寄った。とめどなく流れる涙で、土方さんの綺麗な字が滲む。

「土方さんッ…!」

何度目か読み終えた後、私は子どものように泣いた。糸が切れたように、人目も気にせず。どうしようもなく、土方さんへの気持ちが溢れて…
薩摩に着くまで、ずっと…泣いた。

―――――
紅涙へ

知らねェところは不安だろう。
知らねェところは寂しいもんだろう。
心配すんな。俺も同じだ。
見知った場所にいても、お前がいないと不安で寂しい。

帰る場所は俺が護っててやる。だからお前は何も気にせず頑張ってこい。
泣いて帰って来たら許さねェぞ。

お前のこと、待ってるよ。

土方
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2008.06.05
2015.08.13&2019.11.06加筆修正 にいどめ せつな

にいどめ