手紙
「…っ、…はぁ…、」
まだしゃくりあげる呼吸を抑えながら、私は深く息を吸う。
…予定外だった。見送られると泣きそうだったから、出発時間は誰にも言わなかったのに。
「まさか土方さんが見送ってくれるなんて…。」
一番、避けたかった人。
でも本当は、一分一秒でも一緒にいたかった人。
…だからこそ、一分一秒でも早く離れておきたかった。
別れの間際まで一緒にいると、寂しくて…悲しくて。何もかもを放り出してしまいそうになるから。
「せっかく、自分で決めた道なのに…。」
全ては真選組のために。
何より、土方さんのために。
自分に厳しく頑張ろうって覚悟を決めて、温かい場所から出ることを決めた。
「簡単には…戻らない。」
頑張らないと。しっかりしないと。
どれだけ学べるか、どれだけ成長できるか。次はいつ江戸へ戻るかすら…決めてないんだから。
『気をつけんだぞ!』
…土方さん、泣いてくれてたな。あんな姿、初めて見た…。
「ぅっ…、」
やばい、思い出すと泣ける。もういい加減に泣き止まないと、着いた時に化粧がボロボロだ。
「……はぁ。」
バッグを開き、鏡を探した。するとそこに、入れた覚えのない物が入っている。
「…何?これ…。」
折りたたまれた白い紙。
地図?いや、入れてない。他にメモなんて書いてないし…。
紙を持つ。カサりと音が鳴ると同時に、中の文字が僅かに透けて見えた。
「っ!…こ、れって……、」
どうしよう…見たくない。見たくないのに見たくて……、見たくない。
また視界が滲む。目は容易に涙を溢れさせ、何の邪魔もなく真っ直ぐに流れた。
震える手で紙の端を持つ。ゆっくり、ゆっくり…私は開いた。
「っ…、」
見慣れた綺麗な字で、少し雑な言葉たち。決して多くはない文章が便箋の大半を余らせている。
…なのにそこには、彼の全てが詰まっていた。
「っぅっ…」
一度読み終わっても、また文字を追って。何度も、何度も。一文字も読み飛ばさず、一文字も読み間違えず。
「土方さん…っ、」
たまらずギュッと握り締めると手紙に皺が寄った。とめどなく流れる涙で、土方さんの綺麗な字が滲む。
「土方さんッ…!」
薩摩に着くまで、ずっと…泣いた。
―――――
紅涙へ
知らねェところは不安だろう。
知らねェところは寂しいもんだろう。
心配すんな。俺も同じだ。
見知った場所にいても、お前がいないと不安で寂しい。
帰る場所は俺が護っててやる。だからお前は何も気にせず頑張ってこい。
泣いて帰って来たら許さねェぞ。
お前のこと、待ってるよ。
―――――
2015.08.13&2019.11.06加筆修正 にいどめ せつな