夏の思い出 1

スタートダッシュ

「恋したぁぁい。」

それは私の何気ない一言が始まりだった。

「じゃあ合コンする?」

提案したのは久しぶりに会った友人。
彼女から『恋ってステキ!』なんて思わせるような恋の末に結婚したという話を聞いて、つい口走ってしまった。

でも『合コンする?』って…

「…いるの?そんな相手。」
「いるよ~。って言うか、前に働いてた『すまいる』のお妙さんに紹介してもらえば用意できる。」
「え…でも私、お妙さんって人に会ったことないんだけど…。」
「問題ない問題ない!お妙ちゃんは女の子の強い味方だからね~。」

友人がニコニコと笑う。
よく分からないその返事に「そ、そうなんだ…」と曖昧に返し、私も笑った。

「…あれ~?何よ、紅涙。乗り気じゃないの?」
「いや…そんなことはないんだけど。」

出逢いがあるなら、それはそれで嬉しい。
けど、浮き足立つ感じではない。自分から言っておきながら何だけど…。
ちょっと面倒くさいというか、疲れてるというか。

「私って好きになると報われなくて、好いてもらうと引いちゃうんだよね…。」
「そうだね~、紅涙って変わった人を好きになるわりに報われないよね~。で、好いてもらった人にはウザくなっちゃう変わり者。」

か…変わり者かどうかは置いておいて。
大して好きでもない人と付き合うものじゃないな、と痛感したのが半年前。
まさか別れる時にあれだけの労力を使うことになるとは思わなかった。もう二度とあんな経験はしたくない。

「夏はイベント盛りだくさんだよ~?」
「…だね。」
「彼氏の一人や二人、作っておいた方がいいんじゃな~い?」

…う、うん。

「一人で十分…かな?」
「遠慮しなさんなって~。そういう引っ込み思案なとこが紅涙はダメなの。」
「そんなこと言われても…」
「私に紅涙のルックスがあれば、いくらでも男を捕まえる自信あるよ!だから自信持って!よっ!蚊取り線香!!」

やめて!その二つ名やめて!!

「よーし!それじゃあせっかく紅涙が珍しいことを口走ったわけだし、」

友人が立ち上がる。

「今しかないよね!…じゃなかった、今でしょ!」
「…古っ。」
「うるさいな~。ほら、行くよ。」
「え!?どこに…」
「すまいる!」
「ええぇ!?」

なにこの子!なにこの行動力!!

「いいいやでもお妙さんにも都合があるだろうしっ」
「大丈夫よ、この時間は店長に買ってもらったバーゲンダッシュ食べて時間潰してる頃だから。」
「でででも私の心の準備も出来てないしっ」
「準備なんて必要なし!大丈夫!アンタは可愛い!!」

友人が私の肩をバシッと叩いて笑う。

し、しまった…。この子、元からアクティブだけど、今は順風満帆で超アクティブモードになってる…。
それも『幸せを皆にも分けてあげたいゾ☆』という妙なキューピットゾーンに入ってるから…

「善は急げだよ紅涙!行くよ!」

もう誰にも止められない…。

「紅涙!」
「は、はい…今行きます…。」

こうして、私達は本当に『すまいる』へ向かった。
お妙さんという女性は本当にバーゲンダッシュを食べていて、本当に「女友達のためなら喜んで」と快く引き受けてくれる女性の味方だった。なんてステキな人!

「すみません、急で…。」
「いえいえ、素敵な夏のためだもの。頑張りましょうね!」
「は、はぁ…。」

なんかめちゃくちゃ必死になってるみたいで恥ずかしいな…。
私はお妙さんの笑顔に「ははは」と乾いた笑みを返した。

「それじゃあ人数を集めておくから、合コンは明日でいいかしら。」
「はい……って、ええぇ!?もっもう明日するんですか!?」
「ええ、ちょうど日曜だし。早い方がいいでしょう?善は急げよ。」

その言葉に、友人が「ですよね~!」と笑っている。
なんとなくだけど……この二人を雇う店長さんって気苦労が多かっただろうな。

「えっと…、紅涙ちゃん、でいいのかしら。」
「あっはい。」
「紅涙ちゃんは、安定した職業と不安定な職業ならどちらがタイプ?」

そ、そりゃあ…

「安定した職業…ですかね。」
「そうよね~。」
「お妙ちゃん、誰を呼ぶ気なんです~?」
「ちょっと野蛮だけど、まぁまぁおススメもいる人達。」

お妙さんは笑みを携えたまま、

「真選組よ。」

すごい名前を出した。
え、ちょ…真選組って…、……え?あの真選組だよね?黒い服装で街中を巡回してる……

「警察~!?」

大きな声を出したのは友人の方だった。「ズルイ」だの「私も紹介してほしかった」だのと嘆いている。

「私も本気で参加したい~!今の旦那と別れるから~。」

おいおい…。
いやしかし、いくら真選組と言えど期待は禁物だ。どんな合コンでも期待はしちゃいけない。これ鉄則。うんうん。

「…でも本当に来てくれるんですか?真選組の人達って忙しそうなイメージありますけど。」
「ゴリラの貸しがあるから必ず来るわよ。」
「「ゴリラの貸し?」」
「気にしないでちょうだい。とにかく主役は紅涙ちゃん。私と彼女で頭合わせということで、3対3で組むわね。」

お妙さんは終始やわらかな笑みで、

「それじゃあまた明日。」

手を振り、別れた。
友人は「今度ご飯奢ってよね!」と始まってもない合コンの見返りを求めてくる。

そもそもこの合コン…ほんとに大丈夫なのかな……。心配しかない。

にいどめ