Episode 1
「とうとう来たわ…、この日が!」
そう、今日は12月24日。
「恋人たちの……クリスマスじゃァァァ!!」
~クリスマスリミット~
私と土方さんは、あの誕生日の件から随分と親密になっている。…まず、
「おい、紅涙!テメェ、仕事しろ!」
私を呼ぶ時は必ず名前で呼ぶようになった!苗字でなく、下の名前で!…そして、
「あっぶね!おまっ、ちゃんと前見て運転しろよ!!」
二人で市中見回りに行く機会が増した!私の運転で!これはもう親密以外の何ものでもない。
心なしか回想全てで怒られているような気はするが、その辺りは取るに足らないこと。なにせ仕方のないことだから。だっていつも土方さんに見惚れちゃうんだもんっ☆仕事すら手につかないんだから、運転してても助手席ばっかり見ちゃうに決まってるんだもんっ☆テヘ!
…しかし!
しかしだ。
「…チュー。」
していない。
「ハグすら……!」
していないのだ!
あの時が最後。あの山蔭さん変装時以来、全く何もない。そもそもあれはノーカウントだ。なにせ変装中。土方さんとしてカウントしてはいけない…気がする。自分的に。
…あら?ちょっと待って。
そうなると私、土方さん本人とは何もしてないんじゃない…?
「…あれ?」
嫌だな、なんか変な汗が出てきた。
…ま、待ってよ。私の期待に塗れた心はどうするの?よ、よしよし、冷静になれ自分。土方さんには口の端を舐められた記憶がある。うんそうだよ。でもあれはキスじゃ…ない。本人も言っていたが、あれはマヨケーキを一片たりとも残したくないだけの行動…で……
「……。」
……やばい。
「私のこと……好きかどうかすら…聞いてなくない?」
「確かに。」
「ッ!?」
声に驚いて振り返る。そこには、
「俺ァまだ紅涙に告った記憶はありやせんぜ。」
「…沖田さん……、」
沖田さんが「ないない」と手を左右に振り、立っていた。
「~もうっ!驚かせないでくださいよ!」
「ん~?待ちなせェ、紅涙。もしかしたら俺達、酔った時にチューくらいは――」
「してません!なに勝手なこと言ってるんですか!?ありませんから!沖田さんとは全くありませんから!!」
「なら誰と疑いがあるんで?」
「ッぅえ!?そ、それは……まぁ…その、……。」
「うーん?」
「っ、」
な、何この子。ビックリさせてくるだけでなく、気まずい部分までグイグイ突いてくるんですけど。
「さては紅涙。さっき叫んでたことと関係あるんじゃねーですかィ?」
「『さっき』!?」
「『恋人たちのクリスマス』。」
「……あっ。」
言ったわ…声高らかに言ったわ私。
というか冷静に言われると恥ずかしい…。今は若干モチベーション下がっちゃってるから余計に。
「あ、あれはー…一般的な世相を叫んだだけです。」
「はァ?何でさァ、そりゃあ。」
「幸せな人達への憎しみ…みたいな?」
ついさっきまで私もその世相に入ってたんですけどね…。なにせ土方さんと私は付き合ってると思ってましたから。具体的な関係がないのは、きっとクリスマスにバーンッと進めるためだと思っちゃってましたからね。うふ、うふふふふ……はぁぁ。
「ということはアレですかィ?紅涙は今日、誰とも過ごす予定がねェと。」
「…わざわざ聞きます?そんなこと。言わなくても分かるはずですけど。」
「いーや、ちゃんと聞かねェと分かりやせん。」
わかるだろ!
「で?紅涙は予定がねェと。」
「…ありませんよ。」
「全く?誰とも会わねェんですか。」
「そうですよ!」
しつこい人だなぁ…。
「どうせ私にはクリスマスなんて無縁の――」
「俺ァ予定ありやすぜ。」
「んなっ!!」
っくそ!べつに聞いてもないことに反応してしまったじゃないか!聞きたくなるじゃねーかコノヤロー!!
「誰と過ごすんですか!?」
「決まってまさァ。大切な人、ですぜ。」
なななっ!沖田さんの口から『大切な人』なんて言葉が出るとは!頬まで赤らめている!!
…そうか、ひねくれ者でも恋をすると変わるんですね。一体どんな人がこの人を更生させたんだろう…。
「…今夜は何する予定なんですか?その人と。」
「飯。」
「イイな~。で、その後はやっぱお泊り的な…?」
「ヤボなことを聞くんじゃねーやィ。」
オイー!照れながらこっちを見るんじゃねーよ!この生臭坊主め!!
「楽しそうで何よりですね。」
「どーも。俺にとっちゃ酒が飲めるのも楽しみの一つですが。」
「…それは聞かなかったことにします。」
沖田さんは満面の笑みで、
「それじゃ、メリークリスマス!」
去って行った。…殴ってやりたい。
「…ふ、フハハハハ!!」
甘い!甘いわ、沖田さん!!
どうせ君は私を笑い者にするつもりだろうが、まだ寂しいクリスマスを過ごすと決まったわけじゃない!
だって今日は24日!これからアプローチにアプローチを重ねてミルフィーユにすれば、二人で過ごせる可能性もあるはずだ!
『土方さん、お疲れ様です』
『おお、お疲れ』
『一緒に冬の月見酒はどうですか?』
『いいな、来いよ』
なんつって~!
「やだも~、そのまま布団行っちゃう的な!?」
キャァァ!どうするどうする!?いやいや悩まないよね、即答で行っちゃうよね!…あ、でもちょっと恥じらった方がいいのかな。
『どうした?』
『あ、の…、えっと…、』
『ほら、早く来いって』
『あっ』
「いや~んっ!最高~!!!」
これは何としても実現せねば!
「大丈夫かい?」
「えっ!?」
あ…なんだ、食堂のおばちゃん。
「紅涙ちゃん、さっきから独り言ばかり言ってるけど何かあったのかい?」
「あ…え…いえ…、すみません。」
ずっと見られてたのか…。ならもう少し早く声掛けてほしかった……。
「……部屋に戻りますね。」
「ああそうしな、ゆっくり休むんだよ?」
「は、はい……、」