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Episode 2

「よし!まずはスケジュール調整だ!」

私は恥を食堂に置き捨て、気を取り直して今日一日の段取りを考え始めた。
土方さんとキャッキャウフフになるのは当然。けれどそれ以前に『臨時で仕事が入る』なんてドン引き展開になると、元も子もない。となれば、

―――コンコン
「…土方さん、入ってもいいですか?」

まず土方さんの予定を押さえねば!

「なんだ。」

副長室の障子の向こうから声が返ってくる。よし。

「失礼しまーす。」
「…おいコラ、」

入って早々、わずらわしそうに眉を寄せた土方さんが振り返った。

「なに勝手に入ってんだよ。まだ入れとは言ってない。」

ああ…今日も素敵なお人。

「あのですね…」
「聞いてんのか?」
「聞いてます!」

キリッと返事をして、私は土方さんの傍に腰を下ろした。

「その…、実はお願いがありまして…。」
「金なら貸さねェぞ。」
「ちょっ、何ですかそのイメージ!一度も借りたことありませんけど!?」
「深刻な顔して頼み事しに来るヤツは大抵、金の話と相場が決まってんだよ。」
「私は違います!」

土方さんは机に置いてあった煙草の箱から一本取り出し、口に咥えた。

「なら何だ。」

煙草を噛み、チラりと私を見ながら火を点ける。

「無理難題は受け付けねェぞ。」
「そ、それほど無理な話では……ないです。

ない…と思います。

「…その…、お、お休み…が……ほしいなっていう…だけで。」
「あァ?」

ヒッ…!

「『休み』だァ?」
「は、はい。あの…今日を完全公休にしていただけないかなぁと…。」

いつだって休みの話を切り出す時は緊張する。よく希望休を口にして殴られている山崎さんを見ているだけに。

「『今日』ってこれからか?」
「…そうです。」
「……。」

黙り込む。煙草の灰を叩き落とし、深刻な雰囲気をかもし出した。
…やばい。これは失敗パターンだ。やはり真選組にクリスマスなんてイベントは許されないのか!

「…。」
「っっ…、」

私は祈るような気持ちで土方さんの返事を待った。いざとなれば左頬を差し出すくらいの覚悟はある!……だったけど、

「わかった。」
「……え?」
「問題ない。」

土方さんが、ふぅと吐き出す煙と共に私を見た。『問題ない』、そう言って。

「え、…え?」
「ああ?休みが欲しいんじゃなかったのか。」
「いや、…え、いいんですか?」
「問題ないっつってんだろーが。」
「あ……っありがとうございます!」

拍子抜けだ、まさかあっさり獲得できるとは。いや…もしかしたらこの後、休みを餌に大量の仕事が来るのでは!?
…なんて思ったりしたが、そんな話になりそうな気配はなく。灰皿に煙草の灰を落とし、『用はそれだけか?』と言わんばかりの様子。これは……絶好の攻め時と見た!

「あの…っ、」
「ん?」
「…土方…さんも…、…」
「…なんだよ。」
「…その……、…休…め……ませんか?」

言ったァァ!

「……俺も?」
「っ、はい!こんな日…ですし。…一緒にどうかなって。」

かなり大胆なことまで言っちまったァァ!!
これはどう捉えても『一緒にクリスマスを過ごしませんか?』でしょ!

「ど…どうですか?」

恐る恐る土方さんを見る。土方さんは煙草の煙を目で追いながら、

「…そうだな、」

浅く息を吐いた。

「クリスマスくらいは休むか。」
「ッッ!」

キタァァァッ!!こうなりゃもう恋人でしょ!私達、恋人同士ってことでしょ!!

「…なにニヤけてんだよ。」
「いっいやそんな、…ニヤけてなんて。」

デヘヘ。
自分の頬をさすりながら、私は「普通の顔です」と冷静を装った。

「ただちょっと…ビックリしちゃいまして。」
「何に?」
「土方さんが…休みを取ってくれたことに。」
「まァ今日は特別な日だからな。」

ですよね!!

「はい!!!」
「うるせっ!何だよ、その声の大きさは。」
「す、すみません…。」

せっかく休みを取ってくれたんだから、気に障ることはしないように気を付けないと…。

「…フッ、そんなに今日の休みが嬉しいのかよ。」
「っそ、そりゃもちろん!」

だって初めてのクリスマスですよ!?やっと土方さんとベチャベチャ(イチャイチャ)できる(かもしれない)クリスマスですよ!?

「最高に楽しみです!!」
「くくっ、そうか。」

土方さんは満更でもない顔をして、煙草を揉み消した。

「なら早速行くか。」
「え!?」

も、ももももうデート!?早っ!休みとなったら早っ!!

「ああ?なんだよ、一緒にって意味じゃなかったのか。」
「いえ!!一緒に休みたかったです!」
「なら――」
「でっでもちょっと待ってください!着替えてきますから!」
「?わざわざ着替える必要もねェだろ。」
「それだと雰囲気出ないじゃないですか!」
「雰囲気?」

だって私達、隊服ですよ!?このまま街に出ても単なる巡回としか思えない!

「俺は隊服のままで行くぞ。」
「えー…。」
「『えー』じゃねェよ。お前もそのままで行け。じゃねーと逆に目立つ。」

隊服デートか…。色気ないなぁもう。

「行くぞ。」

土方さんは上着を手に取り、立ち上がった。仕方なしに私も立ち上がり、その背中に付いて行く。そこに…

―――ピンポンパンポーン

部屋を出て数歩のところで、アナウンスが流れた。…屯所にアナウンス機能なんてあったのか。

『隊士の皆さんに業務連絡です。本日は17時より開始。17時より開始致します。なお各自担当に付いている者はそれまでに準備してください』

…準備?っていうか17時から何かするの?私に関係ない…よね。うん、聞いてないし。そういうことにしておこう!

「それらしくなってきたな。」
「え?」

土方さんが庭先に視線を向ける。どことなく楽しげに微笑む横顔を不思議に思いながら、その視線を辿った。すると、

「…なにあれ。」

そこには松の木が…いつもと様子の違う松の木が生えていた。松の木の頂点に大きな星が乗せられている。あれはまさか……

「どこからどう見てもクリスマスツリーだな。」

マジか!

「あれがクリスマスツリー!?」
「なんだ、不満か?」
「い、いえ…。」

松の木…。もみの木とまでは言わないけど…松の木……。

「何と…言うか…、…。」

シュール…。…いや、はっきり言おう。可愛くない。

「言いたいことがあるなら言え。」
「あ…ありません。真選組でもちゃんとクリスマスっぽいことをするんだなぁと思って。」
「そりゃな。しかし今年は仕事が早ェらしい。俺達も急がねェと。」
「…『急ぐ』?」
「行くぞ。」

言うや否や、土方さんは足早に廊下を歩き出した。…って、ちょっ、ちょい待ち!

「土方さん!」
「あァ?」
「今から行くのって…」

もしかしてデート…じゃない?

「何をしに…行くんですか?」

口にして、なぜか確信した。…うん、これはデートじゃない。私達は今からデートに行くんじゃない!

「なにを今さら言ってんだ。」

土方さんが眉間にシワを作る。

「夕方のクリスマスパーティーの買い出しに決まってんだろ。」

ですよねー!!
……はぁ。やっぱり、現実って甘くない。

にいどめ