Episode 6
少なくとも私が真選組に来て以来、今日まで見たことがない。ゆえに新鮮だ。…でもまさか、
「どこ触ってんですか!」
こんな酔い方をする人だったとは…!
日頃抑え込んでいるものがお酒の力で開け放たれてしまったのだろう。けれどこれは言うならばオヤジ。スケベオヤジそのもの!
「っや、」
物を取れと言われて腰を上げれば、お尻を触られる。酒を注げと言われて身体を向ければ、足を触ってくる。スルスル撫でる手を無視していれば、徐々に敏感な方へと忍ばせてきた。
「ァッ、こ、こぼれちゃいますよ!」
「こぼせよ。俺が拭いてやる。」
「っ!?」
す、すごい…!とんでもない変態モードだよ!?
「酔ったら誰にでもそんなことしてるんですか!?」
「はァ?馬鹿にしてんのか。誰にでもするわけねェだろ。お前だけだ。」
「っ!」
たまに真顔でこういう展開まで挟んでくるから…
「もっ、…もぅっ!」
たまんねェなオイ!
嫌よ嫌よも好きのうちとは、よく言ったものだ。昔の人ってスゴいな!
「紅涙も飲めよ、入れてやる。」
「え、いやそんなっ」
「飲めねェのか?なら…」
『なら』!?
「俺が飲ませやる。」
どっ…
「どうやって…?」
「そりゃもちろん、」
ニヤッと笑い、土方さんが酒をコップに注ぐ。それを少し口に含むと、私の腕を掴んだ。
「え…」
「ん。」
「え、っえ!?」
口うつし!?私の妄想を超えてきたァァ!
「んーん。」
『早く』
土方さんが鼻で言う。
「や、でも皆もいるしっ」
「んーん。」
「っ」
ろくにキスもしたことないのに、いきなり人前でハレンチ飲みをすることになるなんて!…と言っても、皆は自分が楽しむことしか考えてないらしく、誰もこちらを見ていない。
「ひ、土方さん…」
「ん…。」
いいの…?いや、いいのか私。土方さんは今、酔ってるんだよ?こんな展開でキスまがいなことをしても……
「…っ、」
…いい!もう何でもいい!酔っ払いがなんだ!やっちまったらこれはキスになる!接吻になる!!
「じ、じゃあいた…失礼します。」
『いただきます』と言い間違えそうになりながら、私はゆっくり目を閉じて土方さんに顔を近付けた。
「ふっ…」
土方さんの吐息が唇に触れる。脈打つ心臓が服の上からでも伝わりそうだった。
「……、」
「…。」
もう周りの声なんて聞こえない。私の全てが土方さんの唇に集中した、…その時。
―――コクッ…
土方さんの喉が静かに動く。
「……あれ?」
これ…飲んだ?
「バーカ。」
「!」
「本気にすんじゃねェよ。酒くらいテメェで飲め。」
「なっ、え…」
ええェェェ~ッ!?
「ひどい!ひどいですよ土方さん!うら若き乙女を騙すなんて!」
「そいつは言い掛かりだ。さすがの俺も傷つく。」
「はい!?」
「反省しろ。そして謝罪しろ。今すぐ脱げ。」
「はいィィィ!?」
この人、シレっとした顔でとんでもないこと言いましたけど!?
「いいだろ?紅涙。」
土方さんの手が私の膝を撫でる。
「ちょっ…」
「お前からもくれよ、プレゼント。」
「っな、や、まっ、待ってください土方さん!いつもと違い過ぎますよ!」
「『いつも』っていつ?俺が日頃、なに考えて生きてるかなんて知らねェだろ。」
「そ…それはそうですけど…」
でもそんな言い方すると、毎日モンモンしてる近藤さんみたいになっちゃいますよ?…ということか、近藤さん?えっ…もしやアナタは近藤さん!?
「土方さんですよね!?」
「あァ?」
鋭い眼光で睨みつける。…うん、土方さんだ。
「おい、勝手に話そらしてんじゃねーよ。」
二の腕を掴まれ、引き寄せられた。
「絶対よこせよ、プレゼント。」
「っそ、そんなこと言われましても…ッ、」
「よこせ。じゃねーと…」
土方さんはグッと私の顔に顔を近付け、
―――ヌルッ…
「!!」
舌先で私の唇を舐め上げた。
「なっ、」
「今日は待ってやらねェからな。」
?
「…待つ?」
「いつも一人で妄想してんだろ。」
「!?」
バレてたァァ!!私の密かな時間は丸裸だったァァ!!
「自分一人で楽しみやがって。」
「たっ、楽しむというかっ」
「俺も入れろ。」
『入れる』!?
「今日はその妄想を口にしろ。俺が現実にしてやる。」
「っっ…」
ああマズい、立ちくらみがする。甘さの連発射撃を受けて、座ってるのに立ちくらみする!
「今夜部屋へ来い。」
「…ッへ!?」
「へーや。俺の部屋だ。いいな?」
…ゆ、夢?これは夢なのかしら。あまりに願い通りな展開すぎて、身の振りようが分からなくなる…!
「約束しただろ?二人きりのクリスマスをするって。」
「!っで、ですね!」
そうだよ、約束したよクリスマス!
「それなりの覚悟して来いよ。夜は長ェぞ。」
「!!」
そ、それはやっぱり大人な時間を過ごす…から?
…聞いてもいいのかな。『どうして長いんですか?何をする予定なんですか?』って。…ああっ野暮だなんて言わないで!変な期待をしても悲しいだけだから、始まる前に聞いておきたいんです!
「返事は?紅涙。」
「…あ、あの、土方さ―――」
「盛り上がってるかァァい!?」
「「!!」」
ビックリした…。近藤さんの声だ。それに合わせて、隊士達も叫んでいる。
「よ~し、それじゃあこれから第二幕を始めるぞォォ~!」
…え。
「第二幕…?」
「…来たな。」
土方さんが腕まくりした。…何事?
「今年はこのために参加したと言っても過言じゃねェ。」
そう話す視線の先には、部屋の中央でふんどし一枚になっている男、近藤さんがいる。なぜか土方さんの表情は、心なしかワクワクしている子どもみたいになっていた。
「あ、あの土方さ――」
「うるさい、紅涙。黙って近藤さんの話を聞け。」
「え……、」
さっきまでのベタベタっぷりはどこに行ったんですか!…くっ!おのれ、ふんどし近藤ォォ!!!