おさらば!
「うるせェな、近くで何度も呼ぶな。」
「だからこっちの土方さんですってば!」
何度呼んでも返事がない。指一本動かない。
「一体どこ殴ったんですか!?」
「んなもん、どこだっていいだろ。」
「どこ殴ったんですかっ!」
「……顔だ。顔の左側。」
「左!?」
『強制終了させるボタンは左の眼球です』
もしかしたら押してしまったのかもしれない。
…ううん、押した。そうじゃなきゃ、こんな電源が落ちたみたいな状態にならない!
「っ、土方さ――」
「もういいだろ。」
土方さんが私の腕を掴んだ。
「コイツのことは忘れろ。」
「っ…いやです!こんなっ…こんな形でお別れなんて…っ!」
『土方さん、私っ』
『いいんだこれで。しょせん俺は教材でしかない』
『っ…そんな言い方しないでください!そんな寂しい言い方っ…』
『心配すんな、俺は消えてなくなるわけじゃない。記憶としてお前の中に残る。だろ?』
『記憶なんかじゃっ――』
『いつまでも良い女でいろよ。じゃあ、な…、……、……』
『土方さんっ!?っいや…、いやあぁぁぁっ!!』
「うぅっ…!」
「おっおい、いくらなんでも泣くほどの話か?」
はァ!?
「泣くに決まってるじゃないですか!こんな悲しい別れ方がありますか!?どれだけミラクルな殴り方をしたらそうなるんですか!」
あわよくば強制終了を避けて、この先も生きてくれればいいなと思ってたのに!よりにもよって左側を殴るなんて!!
「ミラクルも何も俺は…」
「うぅっ、っ、」
「……、」
直立不動で固まる『からくり』土方さんの胸にしがみついた。それを見た土方さんが、
「…、…はあああァァー…。」
大きな溜め息を吐く。
「わァった、わァった。」
気怠そうに言って、『からくり』の土方さんの背後へまわった。
「…何する気ですか。」
「黙って見てろ。」
腰をかがめ、『からくり』土方さんの腰の辺りをゴソゴソ触り始める。何してるか分からない、けど…、もう…っ、
「もうこれ以上触らないでください!」
これ以上壊されたら可哀想だ!
「っバカ、動かすなよ!」
「触らないで!」
「お前のためにやってんだ!」
「そんなこと言って、どうせまた壊す気でしょ!?」
「復元だ!」
……、
「…え?」
フク…ゲン…?…ふくげん……
「復元!?」
方法知ってるんですか!?というか復元って…
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
慌てて土方さんの手を止めた。
「…なんだよ。」
「勝手に触っちゃダメですよ!何かするなら金時さんに聞いてからじゃないと…」
「聞いたら反対されるぞ。」
「っ…それは……」
…うん?土方さん、金時さんのこと……
「お前はコイツを動かして欲しいんだろ?俺よりコイツと遊んでる方が楽しいから、よみがえらせてほしいんだよな?」
「っ、…そ、そういう言い方されたら…、…違うような気がしますけど……」
「どう違うんだ。」
土方さんが細い眼で私を見る。
「復元してもらえるのは…嬉しいですよ?でも……どっちといる方が楽しいとかは…ちょっと。」
だってどちらも土方さんだし……。
「随分と都合いい話じゃねーか。」
「…、」
「俺がいる以上、紅涙は俺といる。俺がいない時だけコイツが必要。…ようは、」
ポンと『からくり』土方さんの肩に手を置いた。
「寂しい時だけコイツを使いたいから生かし続けたい、そう言ってるわけだよな?」
「っ…、」
強制終了も初期化も、彼にとって可哀想だと思っていたのは…私のエゴ。私が……いなくなってほしくないから。
「…、」
私って…
「最低だな、紅涙。」
「っ!」
言われた…軽蔑された。
恐る恐る顔を上げる。土方さんはニタっと笑っていた。
「…?」
なんで?私を見損なった雰囲気じゃないの…?
「紅涙、」
「はっ…はい。」
「お前、俺が本当に何も知らずにミラクル起こしたと思ってんのか?」
……え?
「まァ今回は許してやる。」
「なっ何を…?」
「はァ~?浮気に決まってんだろうが、浮気。」
うっ、浮気ィ~!?
「今回の件が浮気だって言うんですか!?」
「他に何があるんだよ。」
「浮気じゃありませんよ!あくまで自己啓発の授業です!」
「いーや、お前は完全に気を浮つかせてた。」
「っ、だとしても相手は土方さんだし!『からくり』だし!」
「いくら見かけが俺の『からくり』でも、そいつは自我を持ってたらしいからな。」
「うっ…、」
「自我がありゃ単なる『からくり』とは言えねェ。」
「な、なんでそんなことまで…」
「俺の情報網を舐めんなよ?」
腕を組んだ土方さんが、口の端を吊り上げて笑う。さながら…魔王のように。
「…っ助けて、こっちの土方さん!」
「コラ。そいつはもう回収する。」
「回収!?回収って…」
「山崎。」
山崎?
「…山崎なんてここには」
―――スタッ
「なんですか副長。」
「!?」
突如、山崎さんが現れた。
「やっ山崎さん一体どこから…っいや、どこから見てたんですか!?」
「えーっと…昨日くらいから、かな。」
「昨日!?」
「余計な話すんな。山崎、これが回収品だ。」
「了解。」
手筈通りとでもいうかのように、山崎さんは『からくり』土方さんを肩に担いだ。けれど、
「重っ!」
肩に担いだところで膝を折る。
「気を付けろよ、山崎。仮にもそれは俺だ。絶対に落とすな。」
「ちょっ、キツ…!どうせ処分するならいいじゃないですか!」
「馬鹿言え、まだ検討中だ。」
検討中って…。
「返さないんですか?」
「返さねェ。何かと使いどころがありそうだからな…。くく。」
うわー…沖田さんに負けず劣らず悪い顔。さすが上司だわ。
「でも土方さんが使いどころって…ありますか?仕事を代わってもらうわけにもいきませんし。」
「飲み会。」
なるほど!…って、
「飲食できませんよ、『からくり』は。」
「しまった…。…まァ何かしらあるだろ。」
肩をすくめる。
視線の先には、必死な形相で『からくり』土方さんを連れていく山崎さんがいた。
…そっか、じゃあ彼は屯所に連れて帰ることになるんだ。今後どうなるか心配だったから、ちょっとだけ安心した。
「ということは、真選組に土方さんが二人になるんですね!最強!!」
「アイツはノーカウントだ。戦力としては使わない。」
「せっかく完コピなのに…」
「使うとしたら生活面のみだ。マヨネーズを買わせに行かせたり、煙草を買わせに行かせたりするような雑務だけ。」
「単なるパシリじゃないですか…。」
もったいないなぁ。
「せっかく自分の分身が出来たんですよ?もっとこう、使いどころを考えていきましょうよ!眠らせておくなんて、もったいなさすぎです!」
『からくり』とは言え、公認された存在なんだよ?屯所内でも普通に歩きまわれるわけだし、日常生活も共に過ごすようになって……
『さてと、お風呂お風呂~』
『紅涙、』
『キャッ!土方さん!?ちょっ、なんで脱衣場に!?』
『風呂がどういうものか見ておこうと思って』
『あ…そっか、知らないんですね』
『知識はある。だが俺は『からくり』だから、経験したくても出来ない』
『そうですよね…。っで、でも入浴中を見られるのは…ちょっと…』
『なら手伝ってやる』
『手伝う?』
『手で洗うのが肌に一番いいそうだ』
『っ、手で!?や、ちょっと待ってください!』
『安心しろ。俺の手はよく知ってるだろ?』
『そういう問題じゃっ…あッ!ん、…っっ土方さん!?本当はよく知ってて来たんじゃ……っ、ッあん』
『いい嬌声だな…』
『嬌声って…っァ!そっ、そこはいいです!』
『ここはイイのか。ならよくシてやる』
『アっあァッん、っだっ、めッ…』
『…声、響いてんぞ』
『そろそろ来る頃だと思ってたぜ、兄弟』
『誰が兄弟だ。どけ、俺が入んだよ』
『えっ!?わっ私が入ってるんですけど!?』
『邪魔すんな、先に俺が紅涙と入ってたんだ。先にヤるのは俺だ』
『なんか話がややこしくなってますよ!?というか、ちょっと違う言葉が紛れていたような…』
『仕方ねェ。なら決闘するか』
『決闘!?』
『生身の俺か、』
『人工物の俺か、』
『『どちらが紅涙を悦ばせるか』』
『ええっ!?』
『審判はお前だ、紅涙』
『やっやだ待って…!』
『判定出すまでやめねェぞ』
『ひっぁ、っん』
『からくり舐めんなよ、土方。俺の身体に疲れという単語はねェ』
『黙れ。俺に体力なんて括りはねェんだよ』
『そん、なっア、ぅっああっ!』
『…どうだ?紅涙』
『どっちがいい?』
『っは、ァっ、っそん、な、っの、わかんないっあぁっ』
『なるほど、ッ、足りねェってことだ、なっ!』
『くっァ、っは』
『加速装置使っていいか?』
『おいズルいだろ!』
『…くくっ、』
『きっアぁぁっン!』
…ブッハアアア!何それ、最高じゃないですか!ハーレムもハーレム、天国でしょ!!
「しかも加速装置っ!」
ありえる…!ありえるわ、その機能!!
「使いまくりましょうね、土方さん!」
「…。」
「…、…え…何ですか、その目。」
「お前、また良からぬことを考えてんだろ。」
「!!」
よ、読まれている…!
「顔に書いてんだよ。つーか、加速装置って何だ。」
しまったー!声にも出てたー!!
「…アイツを使うことがあっても絶対お前の目には触れさせねェ。」
「えっ!?」
「動かす時すら報告しねェ。」
「そんなー!!」
私のステキなハーレム生活がっ…!
…って、そう言えば私の妄想力、すっかり戻ってるじゃん。むしろ、たくましくなってる気が…。
「はァー…。ったく、そんなんじゃまだまだ先になるな。」
…?
「何がですか?」
「べつに。」
「えっ…気になるんですけど!」
「お前にもうちょっと鎖がついてからだ。」
「鎖!?」
何事!?
「そうじゃねェと俺、」
土方さんがポンポンと私の頭に手を置いた。
家…?
仕事の合間も…家が気になる……?
「そ…それってもしかして……けっ――」
「言うな。」
そう言って、
―――チュッ…
「その言葉はまだお預け。」
キスをした。
「土方さん…、」
キス…、土方さんが……っ、人前でキス!!
「…まァ問題ないねェだろ。通行人のヤツらも清々しいほど無視を決め込んでるし。」
「…じゃあもう一回しておきます?」
「調子乗んなよ。…が、今夜だけは乗ってやる。」
どうやら私、もうすぐこの恋が終わるようです。
だってこれからは愛が始まるんだから!
「何の話だ。」
「え!?この期に及んでそれ言いますか!?」
「わかんねェな。」
「怒りますよ!?『結婚する』って話になったじゃないですか!」
「『血痕』?そりゃ事件だろ、行くぞ。」
「あっ、ちょ…土方さ~ん!?」
Thanks for reading to the end!!
にいどめせつな
2021.5.5加筆修正 にいどめせつな