傍観者の席
ボックス席へ案内してもらい、もちろん栗子さんが土方さんの隣に座る。
「マヨラ様は何になさいますか?」
「俺はいい。」
「じゃあ栗子と一緒に鬼盛りパフェを食しましょう!」
「俺はいいって言ってんだろ。」
「そう言わずに~。一緒に食べませう~。」
口を尖らせる栗子さんの隣で、土方さんは煙草に火をつけた。灰皿を引き寄せ、溜め息混じりに煙を吐く。
「とっとと好きなもん頼めよ。」
「それは栗子がマヨラ様と食べたい好きなものを?」
「お前が1人で食べきる好きなものを。」
「ぶぅー。」
この状況を周囲はどう見るだろう。
ファミレスで隊服姿の二人と女の子が一人。なかなかシュールな光景だと思う。
無難に考えると護衛だろうか。栗子さんはどこかの財閥の娘で、土方さんにすごく懐いている…みたいな。
「お前は?」
「!」
土方さんの声に意識が呼び戻された。
「何食うんだよ。」
「い、え…、私は何も。」
「なら栗子だけだな。」
灰皿に灰を落とす。栗子さんはメニューで口元を隠しながら、
「注文するのは栗子だけなのでございまするか…?」
土方さんの顔色を見た。
「ああ。」
「なんだか申し訳ないでございまする…。」
「んなことねェよ。お前のために来てんだから。」
「マヨラ様…!」
嬉しそうに笑みを浮かべ、土方さんの腕にしがみつく。
「おいやめろ。離れろ。」
「嫌でございまする~っ♪」
ニコニコと幸せそうに寄り添う。
土方さんは土方さんで、定型文のように同じような文言を反復している。…あながち、悪い気はしていないのかもしれない。
「…、」
そんな光景を見せられて、私はどんな気持ちでいればいいの?
本来なら不機嫌になっていい場面だと思う。だけど今の土方さんと私は恋仲ではない。どちらかというと……
「今もMYマヨはお持ちになっているのでございまするか?」
「当たり前だろ。忘れた時なんて一度もねェよ。」
「さすがでございまする!」
栗子さんの方が親しい。
…二人は何をきっかけに知り合ったんだろう。
それに栗子さんの気持ちは分かるとして、土方さんはどう思ってるの?『マヨラ様』なんてよく分からないあだ名を許すくらいだから、私の記憶がない土方さんにとって栗子さんは……
「…っ、」
ああっ、やめよう。考え出すとキリがない。
疑問を持ったところで易々と聞ける話じゃないし、聞く勇気もない。
手紙の一つでもやり取りしていれば、栗子さんとの話も聞いていたのかしれないけど…
「…。」
今さら思っても、もう遅いし。
「…早雨、何一人で」
「決まりました!」
「お、おう。」
栗子さんがメニューを閉じる。
「何にするんだ?」
「苺パフェに致します!」
「あの…土方さん、さっき私に何か言おうと」
「なんでもない。…すみませーん。」
土方さんが店員を呼び、注文を取りに来てもらう。
「苺パフェ1つで。」
「かしこまりました。他にご注文はよろしいですか?」
「…栗子、マヨネーズは持ってるのか?」
「今日はマヨネーズ抜きに致しまする。」
「あァん?ぶっかけりゃいいじゃねーか。」
「女子はカロリーが気になるのでございますよ。では店員さん、以上でお願い致します。」
「かしこまりました。」
頭を下げて立ち去る店員は、きっと親密そうに話す二人を見て恋人同士だと思っただろう。少なからず私ならそう思う。
……というか。
「…。」
てっきり栗子さんと二人きりになるのが苦手だから連れてこられたのかと思っていたけど、見ている限り、私の出番はなさそう。ただ私の心が小さく折られていくばかりだ。……もしかして、そっちが目的?
「そう言えばマヨラ様、」
栗子さんが胸の前で手を合わせる。そのまま小首を傾げると、
「地球にはいつお戻りになられたのでございまするか?」
突拍子もないことを言って、土方さんの顔を覗き込んだ。
「何の話だ。」
土方さんも片眉を上げる。それを見た栗子さんは、ハッと口元へ手をやった。
「もしかしてマヨネーズの過剰摂取が影響して…」
「あァ?」
「大丈夫でございまするよ!あちらのことなど忘れて、ずっと地球にいてくださいまし!」
力強く頷き、土方さんの手を握る。