忘却桜5

傍観者の席

私と土方さん、それに主役である栗子さんの3人で、屯所から一番近いファミレスに入った。
ボックス席へ案内してもらい、もちろん栗子さんが土方さんの隣に座る。

「マヨラ様は何になさいますか?」
「俺はいい。」
「じゃあ栗子と一緒に鬼盛りパフェを食しましょう!」
「俺はいいって言ってんだろ。」
「そう言わずに~。一緒に食べませう~。」

口を尖らせる栗子さんの隣で、土方さんは煙草に火をつけた。灰皿を引き寄せ、溜め息混じりに煙を吐く。

「とっとと好きなもん頼めよ。」
「それは栗子がマヨラ様と食べたい好きなものを?」
「お前が1人で食べきる好きなものを。」
「ぶぅー。」

この状況を周囲はどう見るだろう。
ファミレスで隊服姿の二人と女の子が一人。なかなかシュールな光景だと思う。
無難に考えると護衛だろうか。栗子さんはどこかの財閥の娘で、土方さんにすごく懐いている…みたいな。

「お前は?」
「!」

土方さんの声に意識が呼び戻された。

「何食うんだよ。」
「い、え…、私は何も。」
「なら栗子だけだな。」

灰皿に灰を落とす。栗子さんはメニューで口元を隠しながら、

「注文するのは栗子だけなのでございまするか…?」

土方さんの顔色を見た。

「ああ。」
「なんだか申し訳ないでございまする…。」
「んなことねェよ。お前のために来てんだから。」
「マヨラ様…!」

嬉しそうに笑みを浮かべ、土方さんの腕にしがみつく。

「おいやめろ。離れろ。」
「嫌でございまする~っ♪」

ニコニコと幸せそうに寄り添う。
土方さんは土方さんで、定型文のように同じような文言を反復している。…あながち、悪い気はしていないのかもしれない。

「…、」

そんな光景を見せられて、私はどんな気持ちでいればいいの?
本来なら不機嫌になっていい場面だと思う。だけど今の土方さんと私は恋仲ではない。どちらかというと……

「今もMYマヨはお持ちになっているのでございまするか?」
「当たり前だろ。忘れた時なんて一度もねェよ。」
「さすがでございまする!」

栗子さんの方が親しい。
…二人は何をきっかけに知り合ったんだろう。
それに栗子さんの気持ちは分かるとして、土方さんはどう思ってるの?『マヨラ様』なんてよく分からないあだ名を許すくらいだから、私の記憶がない土方さんにとって栗子さんは……

「…っ、」

ああっ、やめよう。考え出すとキリがない。
疑問を持ったところで易々と聞ける話じゃないし、聞く勇気もない。
手紙の一つでもやり取りしていれば、栗子さんとの話も聞いていたのかしれないけど…

「…。」

今さら思っても、もう遅いし。

「…早雨、何一人で」
「決まりました!」
「お、おう。」

栗子さんがメニューを閉じる。

「何にするんだ?」
「苺パフェに致します!」
「あの…土方さん、さっき私に何か言おうと」
「なんでもない。…すみませーん。」

土方さんが店員を呼び、注文を取りに来てもらう。

「苺パフェ1つで。」
「かしこまりました。他にご注文はよろしいですか?」
「…栗子、マヨネーズは持ってるのか?」
「今日はマヨネーズ抜きに致しまする。」
「あァん?ぶっかけりゃいいじゃねーか。」
「女子はカロリーが気になるのでございますよ。では店員さん、以上でお願い致します。」
「かしこまりました。」

頭を下げて立ち去る店員は、きっと親密そうに話す二人を見て恋人同士だと思っただろう。少なからず私ならそう思う。

……というか。

「…。」

こんなに仲が良いなら二人でくれば良かったんじゃない?
『そもそもファミレスに行くのは、お前が行く前提だからで―――』

てっきり栗子さんと二人きりになるのが苦手だから連れてこられたのかと思っていたけど、見ている限り、私の出番はなさそう。ただ私の心が小さく折られていくばかりだ。……もしかして、そっちが目的?

「そう言えばマヨラ様、」

栗子さんが胸の前で手を合わせる。そのまま小首を傾げると、

「地球にはいつお戻りになられたのでございまするか?」

突拍子もないことを言って、土方さんの顔を覗き込んだ。

「何の話だ。」

土方さんも片眉を上げる。それを見た栗子さんは、ハッと口元へ手をやった。

「もしかしてマヨネーズの過剰摂取が影響して…」
「あァ?」
「大丈夫でございまするよ!あちらのことなど忘れて、ずっと地球にいてくださいまし!」

力強く頷き、土方さんの手を握る。

「栗子が一生お支え致します!…キャッ♡」
「…だから、」

栗子さんの手を払う。

「一体何の話なんだよ。」
「…仕方がありませんね。お話し致しまする、落ち着いて聞いてください。」
「?…ああ。」
「マヨラ様は以前、栗子と別れる際にマヨラ星へお帰りになると――」
「ッあああ!」
「「!」」

突然の大きな声に心臓が飛び跳ねた。

「あれか!」

土方さんが忙しなく頷き、煙草の火を消す。

「思い出した!あれな!あれはっ…あー……あれだ、2週間くらい前だ!それくらい前に…こっちへ来た。」
「思い出されたのでございまするね!」
「ああ、……今な。」

土方さんの声が尻すぼみに消える。
もしかして退院した時の話…?だったら2週間も前じゃない土方さん、記憶に自信がないのかな。

「…横から失礼します。土方さんが退院したのは2週間前ではなく昨日で――」
「うるせェ。お前は黙ってろ。」
「!…。」

私の話をさえぎり、鋭い目つきで睨まれた。
教えてあげようとしたら、なぜか怒らせてしまった。

…これはつまり、退院の話じゃないということかもしれない。だったら何だろう。
異常な土方さんの焦りと、無理やり話を合わせるような口調。あれはまるで話を早く終わらせたかったような……

まさか、私の前で話せない内容だから?

「…、」

伏せる必要あるの?
私達の関係を忘れた土方さんには負い目がない。余程の恥ずかしい話でもない限り、気にすることなんて何もないのに……何を隠したいっていうのよ。

「お父上からお戻りになられていると聞いた時は、本当に驚きました!しかも今回は真選組で社会勉強をすると聞いて、私、いてもたってもおられず会いに――」
「わかったから。」

今度は栗子さんの話を遮った。

「その話はもういい。」

…私の中の“知りたい気持ち”と、“知って傷つくことを恐れる気持ち”がせめぎ合う。

「俺の話より、栗子の話をしてくれ。」
「栗子の…?」
「ああ。」
「どんな話をすれば…」
「なんでもいい。最近食ったウマいもんとか、面白かったこととか、なんでも。」

話をそらせる気だ。このままだと聞くタイミングを逃す。聞くなら……今しかない。

「…どこかへ行かれていたんですか?」

思いきって、口を開いた。すかさず土方さんが反応する。

「黙ってろって言ってんだろうが。」

痛いほどの視線から逃れるよう、栗子さんだけを視界に入れた。

「教えてくれませんか?私、江戸を…真選組を4年弱離れていたので知らないんです。」
「まぁ!」
「早雨!テメェいい加減に」
「栗子が知っていることでよければ、喜んでお話し致します!」
「…おい栗子、」
「なんでございまするか?」

眉間を押えた土方さんが、

「その話は…その辺にしておいてくれ。」

溜め息と共に告げた。栗子さんは純粋な瞳で首を傾げる。

「どうしてでございまする?」
「アレだ、そのー……人に知られるとマズい。」
「「!」」

なに……それ。

「もっ、申し訳ございません!栗子、気が付かなくて…。」
「いや、いい。…気にすんな。」

栗子さんは良くて、私には話させない。……そうですか。
胸の奥で小さな怒りに火がついた。

「…待ってください。」

誤解を招くような言い方をした土方さんに責任はある。

「ちゃんと教えてください。」
「あァ?」
「さっきの話。土方さんがどこへ行っていたのか。教えてください、栗子さん。」
「テメッ、蒸し返すなよ!」
「私は栗子さんに聞いてるんです。土方さんは静かにしていてもらえますか?」
「ッ生意気言いやがって…!」
「もし今聞けないようであれば、この件は屯所へ持ち帰らせて頂きますので。」
「……おもしれェ。脅してんのか、俺を。」
「脅す?」

そんな大げさな。

「私は知りたいだけです。屯所に戻って、誰か知っている人がいないか確認するだけ。『地球』がどうとか、『マヨラ星』がどうとかいう話を。」
「くっ…!」

土方さんが顔を歪めた。そこまで伏せたい内容らしい。聞き出してしまったら…何かが変わってしまうのかもしれない。

「…、」

怖い。…でも聞かなくちゃ。
おそらくこれから空白の時間にたくさん傷つく。その度に一つずつ自分の中で折り合いをつけて進まないと、傍に居続けることは出来ない。そのためにも…知らなくては。

「……わァったよ。」

盛大に溜め息を吐き、土方さんが新しい煙草に火をつけた。

「…早雨にさっきの件を話してやれ。」
「でもマヨラ様は…」
「コイツには許す。」

煙を吐きながら、私を見た。

「俺の補佐…候補だ。隠したところで、いずれ知ることになるだろうよ。」
「…、」

少し嬉しかった。
私をちゃんと位置づけてくれていることが。

「こちらの方はマヨラ様の補佐をされているのですか?」
「ああ。まだ候補だけどな。」
「それは知りませんでした!」

言うや否や、栗子さんが勢いよく立ち上がる。何をするのかと思えば、

「ご挨拶が遅れました。私、松平栗子と申します。」

丁寧に頭を下げた。あまりに唐突な挨拶に、一瞬思考が固まる。

「え、あ……ど、どうも。えっと、」

私も立ち上がり、頭を下げる。

「早雨 紅涙です。以後よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願い致しまする!」
「……なにやってんだお前ら。」

土方さんが小さく笑う。

「わざわざ立たなくてもいいだろ。」
「マヨラ様が日頃お世話になっているお方ですよ?きちんとご挨拶せねば!」
「誰目線で言ってんだよ、お前は。」
「そっ…それは~……その…、…、」

栗子さんが頬を染める。
私は言葉にならない感情を押し込め、腰を下ろした。

「…すみませんが、さっきの話題に戻ってもらっても構いませんか?」
「ああっ、ごめんなさいでございまする!」
「…、」

慌てて座る様子を見て、自分の行動に反省した。我ながら、予想以上に冷たい声音だったと思う。

「それでは栗子が知っているマヨラ様についてですが。」
「よろしくお願いします。」
「…マヨラ様、本当によろしいのでございまするね?」
「構わねェよ。」
「……わかりました。」

栗子さんが真剣な面持ちで頷く。
私は知らず知らずのうちに、机の下で自分の手を握り締めていた。
栗子さんが話し出すまでの数秒間、頭の中では最悪な予想がいくつも湧いては消えていく。そして

「マヨラ様は、」

知る時が来た。

「マヨラ様は…マヨラ星から来たマヨラ星人です!」

思いもしない、その答えを。

「マヨラ…星人?」
「はい!しかも第一王子です!」
「第一…、」
「つい最近までは、マヨラ星に帰っていらっしゃいました。けれど2週間ほど前、再び地球へ戻ってこられたのだそうです!」

ああ、そこで『地球』が。……って、なにこの話。

土方さんを見る。右手に煙草を持ち、左手は額の上にのせていた。

つまり、土方さんが話を逸らしたかったのは、やましい意味合いからではなく、部下の前で恥ずかしい思いをしたくなかったから…ということらしい。

「なんか……すみません、土方さん。」
「やめろ。謝られると余計キツい。」

一体なぜそんな設定を…。
しかも栗子さんはマヨラ星の話に疑いを持っていない。純粋が故なのか、土方さんが余程リアリティある行動を見せたのか。

「マヨラ様、」
「…なんだ?」
「またしばらく地球にいらっしゃるんですよね?」
「あ…ああ、そうだな。」

顔を引きつらせ、煙草に口をつける。

「当面の間は屯所で社会勉強だ。」
「っじゃあまた栗子と」
「出来ない。」
「っ!」

…今度は何?
栗子さんが悲しそうに眉を寄せた。

「栗子は…まだ何も…」
「あの時みたいに遊んでやることは出来ない。」

『遊んでやる』…。

「どうしてでございまするか…?」
「俺は社会勉強に来たんだ。遊んでる暇なんてあるわけねェだろ。」
「っ、そ…そう…でございました…。」

肩を落とす。さらりと流れた柔らかな髪が、うつむく顔を隠した。その様子に、

「…、」

なぜだか分からないけど、私の胸まで痛む。
土方さんの口調が、病院で私に向けた冷たさと似ていたせいかもしれない。だから、

「……栗子さん、」

余計な気を回してしまった。

「このあと…少しだけなら大丈夫だと思いますよ。」
「えっ!?」
「!?」

私の言葉に二人が目を丸くした。

「本当でございまするか…!?」

期待に満ちた輝く目と、

「おいコラ、早雨。テメェどういうつもりだ?」

『信じられない』『何言ってんだコイツ』とたくさん文句を顔に書いて私を見る目。

「土方さんはまだ調整中の身ですので、ある程度は自由に行動することが可能です。」
「だからって暇じゃねーんだよ!なに勝手に人のスケジュールを」
「いいのですか、マヨラ様!?」
「…、」

今土方さんの目には、真っ直ぐな栗子さんの気持ちが映っているはずだ。あんな瞳で期待されたら、

「………………チッ、わァったよ。」

きっと誰も断れない。

「少しだけな。」
「っっ!!ありがとうございまするぅぅ~!!」

満面の笑みで喜ぶ栗子さんは、再び土方さんの腕に抱きついた。

「やめろ、離れろ。」
「嫌でございまするっ!」
「…。」

たぶん、憎めない人というのはこういう人だと思う。
想いに真っ直ぐで、臆することなく挑む姿が憎めない。形は違うけど、土方さんを想う気持ちは同じ…私のライバルだというのに。

「お待たせしました、苺パフェでございます。」

テーブルに苺パフェが運ばれてくる。

「わぁっ!」

栗子さんは目を輝かせた。

「美味しそう!マヨラ様もいかがですか?」
「しつこい。つーか、この寒い季節にパフェかよ。」
「冬の暖かい部屋で食べるパフェが格別なのでございまする!紅涙さんもいかがですか?」
「えっ、」

私にパフェとスプーンを差し出す。

「よければひと口食べてくださいませ!」
「い、いえ私は…」

首を左右に振れば、栗子さんが残念そうな顔をした。

「本当に栗子一人で食べてよろしいのでしょうか…。」
「そう言ってんだろ。早く食え、溶けるぞ。」
「はい!ではいただき――」
―――♪~

聞き覚えのない着信音が鳴る。

「栗子でございます!」

巾着を開き、電話を取り出した。しかしディスプレイを見た途端、顔が曇る。

「どうした?」
「…お父上でございまする。」
「何!?」

…?

「…もしもし、お父様?」

栗子さんが電話に出た。隣では、険しい顔をした土方さんが様子を見守る。

…そう言えば栗子さんが屯所に来たのは「父親に聞いて」と言っていた。どうやら土方さんは、栗子さんの父親とも繋がりがあるらしい。

「はい…、……わかっておりまする。だけど栗子にも言い分がっ…」

顔色がどんどん曇っていく。

「…わかりました。それでは後で。」

電話を切る頃には、すっかり肩を落としていた。

「何を言われた?」
「今すぐに帰ってこいと。」
「機嫌悪ィな…。」
「…紅涙さん。申し訳ないでございまするが、栗子の代わりに苺パフェをお食べください。」
「えっ…、」
「この後の予定もキャンセルでお願い致しまする。栗子は先に失礼します。」

立ち上がった。

「原因は分かってるのか?」
「……はい。内緒で出て来たことがバレてしまいました。」
「はあァ~!?」

土方さんの眉間に皺が寄った。

「黙って出てくるやつがあるかッ!」
「っ…土方さん?」

声を荒らげた姿に驚く。

「怒らせると面倒なことになるのは分かってんだろ!?」
「っ、ごっごめんなさい…。」
「ちょっ、ちょっと待ってください。落ち着いてくださいよ、土方さん。」
「………チッ、ったく。」

舌打ちして、土方さんは呆れたように溜め息を吐いた。
なぜ他人の家の話にそこまで熱くなるのか分からない。まるで自分にも関係するかの必死さがあった。

「…いいか、栗子。」

煙草の火を消し、栗子さんに向き直る。

「帰ったらまず謝れ。とっつァんは『内緒』が一番嫌いだ。知ってるだろ?」
「はい…。」
「悪いことをしてるわけじゃねェんだから、次に来る時はちゃんと言ってからにしろ。いいな?」
「マヨラ様…、っはい!約束いたします!」

元気を取り戻し、栗子さんが頭を下げる。

「マヨラ様、紅涙さん、今日は栗子のためにありがとうございました!よければまたファミレスでお食事しましょう!」
「ファミレスでいいのかよ。」

土方さんがフッと笑うと、栗子さんは「もちろんです!」と微笑む。

「マヨラ様とならどんなところでも嬉しいでございまする!」
「安上がりで助かる。」
「…送らなくて大丈夫ですか?」
「はい!紅涙さんはお優しい方でございまするね。」
「そんなこと…」
「俺は優しくないって言いてェのか?」
「そんなことはありません!ただ、紅涙さんみたいなお友達が出来たらいいなぁと思ってしまいまして…。」
「私と…友達?」
「はい!」

満面の笑みで頷く彼女を拒む言葉など、見つかるはずもなく。

「私で良ければ喜んで。」
「わぁっ!ありがとうございまする!」

頷いた私に、栗子さんは口元に手を当てキャッキャと喜ぶ。外見も内面も、女の子そのもの。

「それではまた必ず!」

大きく手を振り、店を出て行った。
その背を見送りながら、しみじみ思う。

なんて可愛いらしい子だろう。
素直で、真っ直ぐで、屈託のない笑み。

…それに比べ、私はどうか。
過ぎた時間に執着し、後悔ばかりして。土方さんの記憶がいつ戻るのかと期待しながら、現実に苦しんで…。

「……い、」

栗子さんのように想いをぶつけて、もう一度惚れ直させるくらいの自信があれば違ったのかもしれない。けど……

「……おい、」

今の土方さんに自分の気持ちを伝えることは…怖い。伝えて、拒まれることが……すごく怖い。

「おいって。」

まるで栗子さんとは真逆だ。
太陽と月。光と影。希望と失望。想う人は同じなのに……

「おいコラ。」
―――ペチッ
「!」

額に小さな痛みが走る。どうやら土方さんが指で弾いたらしい。

「溶けてるぞ。」

いつの間にか、私の前に苺パフェが置いてあった。

「早く食え。」

煙草に火をつける。

「…、」
「……なんだ?」
「…いえ。」

栗子さんがいなくなった今、向かい合う私達は始めから二人で来たかのような席順に。

「……いただきます。」
「おう。」

余計なことを考えてしまったせいで、私は無駄な緊張を背負いながら甘い苺パフェを口へ運ぶことになった。

にいどめ