忘却桜9

同じ役職+どうすれば

その後、広間に戻って再び宴会に参加した。
予想通りというべきか、皆は冷やかしと驚きをもって出迎える。

「早雨!?おまっ、早すぎだろ!」
「この時間でキメるとは…さすが副長だな。」
「バカ、いくらなんでも早すぎるって!」

戸惑いと、

「部屋に入ってからすぐならありえるんじゃね?」
「「「うーん…」」」
「一発そこらで終わるか?4年ぶりなのに。」
「「「……終わんねェな。」」」

余計な推測をして、

「つーことはだ、」
「コイツ……」

結論を出す。

「「「本気で酔ってただけか~!」」」

皆で示し合わせたかのようにゲラゲラ笑う。
楽しそうな酔っ払いの姿に、思わず私まで笑った。

「ご心配をお掛けしました。」
「休んでちょっとは復活したのか?」
「はい、もう完全復活です。」
「よっ、主役!」
「よく戻ってきた!飲みなおそうぜ!」
「副長を生殺しにしたお前に乾杯!」

生殺しって………あながち間違ってないかな。…私もだけど。

「「「かんぱーーいっ!!!」」」
「…、」

あの時、栗子さんが来てくれて良かったと思う。
進んではいけないと分かっていても、進んでいた可能性は大いにある。

ただ、
『…紅涙、俺は――』

土方さんは…何を言おうとしたんだろう。

「おー?戻ったか、紅涙君。」

一升瓶を片手に近藤さんがやってきた。すっかり服を取っ払い、ふんどし姿でたたずむ姿が懐かしい。
けれど酔っ払いの身なりのわりには、顔つきが随分しっかりしていた。

「平気か?無理せず部屋で休んでいいんだぞ。」
「大丈夫です。ご心配をお掛けしました。」
「あまり飲み過ぎんようにな。」
「近藤さんも。」
「ハハハ!だな!…ところでトシはどこに?」
「あ…、……、」

先程までの時間が目に浮かび、一瞬、頭の中から言葉が消える。

「え…っと…、」
「?」

何て答えよう。…違う、誤魔化さなくていいんだ。土方さんがいる場所を言えばいい。

「副長室に…いらっしゃると思います。なぜか栗子さんがいらして、それで…」
「おお、無事に合流できたか!」
「…ご存知だったんですか?」
「ああ!とっつァんから連絡があった。」

松平長官が…。

「広間に来たんだが、トシを探しに行くと言って聞かんのでな。副長室を教えたものの、場所まで知らんということをすっかり忘れていた。」

そういうことか…。

「栗子さんも宴会に参加予定だったんですね。」
「いや、……あー、そうだな。明日でも話すつもりだったが、丁度いい。伝えておくか。」
「…?」
「縁側に出よう。ここでは騒がし過ぎる。」

言うや否や、近藤さんは一升瓶を置いて早々に部屋を出て行った。

「なん…だろう…、」

一抹の不安を覚える。
私は小さく息を吐き、近藤さんの後に続いた。が、

「おいマジかよ!早雨のヤツ、今度は局長と出て行くぞ!?」
「どっちが本命だ!?」
「副長は知ってんのかよ!アイツ殺されんぞ!?」

背後で悲愴な叫び声と沸き立つ興味が飛び交う。するとその声を聞いた近藤さんが戻ってきて、

「バカ言ってねェで今のうちに腹に食いもん入れとけ!俺が戻ったら、追加の酒を開けるぞ!」
「「「イエェェェッ!!」」」

ガッツポーズする隊士達を笑い、

「出ようか。」
「…はい。」

二人で廊下に出た。

広間から大して離れていない縁側に腰掛ける。へだてるものは襖くらいしかないのに、ここは随分と静かに感じた。

「まだ明るいなんて不思議ですね…。」

昼間から始めた宴会なだけあって、空はまだ明るい。

「一日が長く感じていいよな。まだまだ呑める時間がある。」
「ふふ、明日に差し支えませんか?」
「それもまた一興!なんて言うと、トシに叱られるか。」

ガハハと笑う。…それにしても、

「寒くありません?その格好。」

季節はまだ冬。
春はもう少し先だというのに、近藤さんの格好はふんどし一丁。中庭に面したガラス戸は閉めていると言っても、やはり空気は冷たい。

「中が暑いくらいだったから丁度いいさ。」

ペチンッと自身の胸元を叩く。なんか……色々とすごい。

「…ところで、どうだったんだ?」
「どう…とは?」
「皆にああ言っていたが、本当は何かあったんじゃないか?トシと。」
「あ…、…。」
「紅涙君を思い出した様子は?」
『自分でもどうかしてると思った。…だが近藤さんは何も教えてくれねェ』
「……いえ、まだ。…でも、」
「でも?」
「すぐそばまで…来ているような気がします。」
『俺はお前を知ってる』

「もうすぐ…思い出してくれそうな……気がしました。」
「…そうか。俺もそう思ってるよ。」

今までとは確かに違った。
土方さんは自分の中の違和感に目を向けている。出口は近いのかもしれない。

…けれど、以前のような期待はしていない。
『お前の眼は、ずっとお前の記憶の中にいる俺を探してる』

土方さんを傷つけたくない。
思い出してくれれば嬉しいけれど、これからは目の前にいる土方さんを見る。支えていく。そしていつかまた…私のことを好きになってくれたらと思う。
それが……今の気持ち。

「…ここへ呼び出したのは、その話をするために?」
「いや、栗子ちゃんの件だ。」
「栗子さんの…?」
「ああ。…彼女、これから真選組の補佐官を目指すらしい。」
「えっ…!?」

驚く私に、近藤さんが頷く。

「キミの役職、副長補佐だ。」

栗子さんがそこに至った理由は、容易に想像がついた。
“土方さんと一緒にいるため”
もちろんそれだけじゃないかもしれないけど、始まりはそこにあるはず。どうやって叶えればいいか考えている時に、きっと……
『こちらの方はマヨラ様の補佐をされているのですか?』
『ああ。まだ候補だけどな』
『それは知りませんでした!』

私の役職を知った。

「とっつァんも、娘が手の…目の届く場所で働くってんで賛成してるらしい。…が、」

困った様子で口を曲げる。

「見習い期間を設けずに本採用しろと言ってきてな。」
「本採用…、つまり正式に副長補佐として働かせろと?」
「そうだ。」
「じゃあ…」

副長補佐は…

「私は……クビに…」

二人もいらない。

「いやいや!俺達には紅涙君が必要だ。いくらとっつァんの頼みと言っても、右も左も分からん彼女に任せることは出来ん。」
「…、」
「かと言って、断ることも出来んわけだが。」
「…。」
「そこで俺は考えた。」

ポンと近藤さんが膝を打つ。

「キミに、彼女の指導を頼みたい。」
「私に…?」
「向こうで学んだ形も取り入れつつ、平常の副長補佐業務をしながら栗子さんを育ててもらえないか?」
「…、」

栗子さんは、今の土方さんをよく知っている。ひたむきで純粋な想いも持ち合わせた彼女なら、必ず私より気の利いた補佐官になれる。

…それが意味することは、

「…わかりました。」

いずれ一つしかない席に座るのは……栗子さんだということ。

「…。」
「…、」

遠くから笑い声が聞こえた。本当に……果てしなく遠くから聞こえる気がする。

「…だよなァ。」

近藤さんが溜め息混じりに呟いた。

「気が重いよなァ…。」
「え…、……あ、…すみません。」

感情を押し出した態度に反省すると、「いや、そうじゃなくて…」と近藤さんがまた溜め息を吐く。

「実はまだトシに……話してなくてな。」
「栗子さんの件を?」
「ああ。どう言えば納得するか考えてるんだが…なかなか。おかげでいくら呑んでも酔いが回らん。」

苦笑する。

「あれを納得させるのが一番厄介だろ?」
「…そうかもしれませんね。『副長補佐なんて必要ない』って言ってますし。」
「それに加えて今は――」
―――ドタドタドタッ
「「?」」

廊下に伝わる小さな揺れに顔を上げる。
広間からではなさそうで、不思議に思いながら周りを見た時、

「っおい、近藤さん!!」

目を三角にした土方さんがやってきた。相変わらず右腕には栗子さんが引っ付いている。

「どういうことだよ!!」

…この苛立ち、もしかして…

「あー…っと。……何の話だ?」
「とぼけんじゃねェッ!栗子が補佐に入るってどういうことだ!」
「うっ…、…そうか、こういう形で伝わったか。」
「あァ!?」
「いや何も…。」

困った様子で頬を掻く。
確かに近藤さんの読みは甘かった。宴会に栗子さんが来るということは、嬉々として土方さんに伝えることでもある。

「説明しろ!」
「あー…いやー…」
「近藤さん、ここはもうストレートに…」

言うしかない。

「紅涙も知ってたのか!?」
「いっ、いえ、私は今聞いたばかりで…」
「マヨラ様、」

栗子さんが土方さんの腕を引く。

「マヨラ様は栗子が補佐官になること、反対なのでございますか?」
「あァん!?反対つーか、…、……はァ。」

勢いをなくした声が溜め息に変わる。そのまま近藤さんに目をやり、

「とっつァんも公認してるって話は本当か?」

どこか諦めたように聞いた。

「ああ。むしろ全面協力だ。」
「全面協力ねェ…。」
「指導は紅涙君にお願いする。」
「……本気か?」

土方さんと目が合う。

「お前はそれでいいのかよ。」
「…、」

問われた意味が理解できなかった。
考えれば考えるほど深みにハマって、答えを見い出せなくなる。

「紅涙。」
「……いいも…何も……、…そういう…話ですので。」

目を伏せた。
これ以上聞かないでほしい、そう伝わるよう願う。

「…トシ、悪いがこれは決まった話だ。とっつァんから下りてきた以上は従う。」
「全てにじゃねェだろ。従えない時は意見する。」
「だが今回は無理難題というわけじゃない。だから――」

「あの…、」

栗子さんが弱く眉を寄せて口を開いた。

「栗子は皆さんの…ご迷惑になっているのでございましょうか…?」
「「「!」」」

目をうるませた姿に、

「違う違う違う!」

慌てて近藤さんが左右に手を振った。

「俺達は栗子ちゃんを歓迎してるよ!?ただちょっと最近色々あってバタついてるから、ちゃんと指導できるかな~って心配で」
「大丈夫でございまする!こう見えて打たれ強いと自負しておりまする!」
「え、そう……、なの?」
「はい!なので、多少大変な環境であってもマヨラ様の…あっ、真選組のために頑張ってみせまする!」

胸の前でグッと拳を握った。

…どこまでも真っ直ぐな人。
これだけの気持ちの持ち主なら、たとえ松平長官の娘じゃなくても採用されていたかもしれない。

「…わァったよ。」

土方さんは何度目かの溜め息を吐き、煙草を取り出した。

「じゃあこれから指導計画を練る。紅涙、部屋に来い。」
「…わかりました。」
「栗子はどうすればよろしいですか?」
「帰れ。」
「え!?」
「まだ計画も立ててねェんだ。いてもさせることがない。」
「栗子はそれでも構いませぬが…」
「帰れ。命令だ。」
「『命令』…っ!承知しました!」

途端にビシッと敬礼して、

「では明日の朝からでよろしいでございましょうか!」
「…来なくていい。」
「え?」
「トシ!」
「…明日の朝な。」
「はい!失礼しますっ!」

栗子さんはキビキビと立ち去る。かと思えば、

「あ!」

振り返った。

「紅涙さん!」」
「っは、はい。」
「これからよろしくお願いしますでございまする!」

二つに折れ曲がりそうなくらい頭を下げ、屈託のない笑顔を私に向ける。

「…こちらこそ。」

つられて笑顔になった。
彼女はきっと、周りの隊士にも良い影響を与える人になるだろう。

「また明日、お待ちしています。」
「はい!また明日!」

立ち去る背中を見送る。
不意に鼻をかすめた煙草の匂いに目を向ければ、土方さんが背を向け歩き出していた。

「…、」

私も行かないと。

「いやァ~よかったァァ~!」

後ろでは近藤さんがゴロりと廊下に寝転がっていた。安堵した表情で目を閉じ、大きく息を吐き出す。

「なんとか丸く収まってホッとしたァ~。」
「栗子さんがいて良かったですね。私達だけだと、土方さんは松平長官に電話してたかもしれません。」
「だなァ。…あー、ようやく酔いも回ってきた。」
「風邪ひかないよう気を付けてくださいね。」
「おう、ありがとなー…。……ああそうだ、紅涙君。」
「はい?」

近藤さんが身体を起こし、

「大変な役回りばかりさせて申し訳ない。栗子ちゃんとトシのこと、よろしく頼んだよ。」

頭を下げた。

「っや、やめてください!当たり前のことですから…副長補佐として。」
「アイツに八つ当たりされるかもしれんぞ?不満そうな顔してたし。」
「ふふ。大丈夫ですよ、もう慣れました。」
「つくづく世話をかける。こちらへ戻ってからというもの、なかなか気の休まる日を作ってやれんままだな。」
「状況が状況ですし、その前提で戻ってきてますからどうぞお気になさらず。」
「…やはりキミはトシに似ている。」

え…?

「私が…ですか?」
「自分の身をかえりみず、目の前の壁を越えようとする節があるだろ。」
「そんなことは…。少なくとも、土方さんほどじゃありません。」
「ハハハッ。それはそうかもしれんが、くれぐれも無理だけはせんようにしてくれよ?自己犠牲からなる行動力は頼もしい反面、危うさとは紙一重。誰かのために行動する先で、主軸の『誰か』を失うと、己を見失う結末がある。」

…、

「そう……ですね。」
「…こんな格好でする話じゃないか。」

近藤さんが苦笑する。

「時として、自己中心的な考えも必要だ。逃げ出したいくらいつらい時は、周りのことなど考えなくていい。自分のことを後回しにせず、ただ己のために決断していきなさい。」
『アンタはアンタらしく、前向いて歩いておけばいい』

沖田さんの声が聞こえた。
それだけじゃない。
ここ数日の色んな出来事が頭をよぎった。まるで候補のように浮かんでは消えて、

「ありがとう…ございます。」

胸の底に沈殿する。

「そういう時が来たら、…参考にします。」
「出来れば決断する前に気持ちを聞かせてくれると嬉しいよ。」
「…努力します。」
「ハハ。そうか、努力が必要か。…では今一度問うておこう。」
「?」
「栗子ちゃんの教育係、引き受けてくれるのか?」
「…、」

近藤さんは、私に断るチャンスを与えてくれている。

…でも、彼女は逃げ出したいほどつらいことじゃない。
本当に良い子だと思っているし、やる気も感じられた。他に目につく問題もなさそう。ただ……私の気持ちが、落ち着かないだけで。

「…やらせてください。」

引き受けられる仕事だと思ってる。

「わかった、それじゃあ頼むよ。」

近藤さんが頷く。

「とっつァんは栗子ちゃんの成長を楽しみにしてる。もちろんあの子次第ではあるが、こちらも出来る限りのことをして、立派な補佐官になってもらおう。」
「…はい。」

責任という言葉が肩に乗る。
分かってはいたけど、少し重かった。

近藤さんと別れ、副長室へ向かう。

「早雨です。」
『入れ。』
「失礼します。」

部屋に入ると、机に向かっていた土方さんが煙草を片手に振り返った。

「遅かったな。」
「…!」

先ほどまでの光景が脳裏に浮かぶ。持っていかれそうな意識をなんとか留め、

「…そうですか?」

冷静に返した。
ここには栗子さんの指導計画を練るために来ている。余計な感情は…消さなければ。

「今まで何してたんだ。」

何って…

「…近藤さんと話を。」
「何の。」

『何の』?

「報告するほどのことでは…」
「聞かせろ。」
「…、」
「…。」

なぜか知りたいらしい。

「…栗子さんのことを話していました。…あと、教育係を引き受けるかどうかの最終確認を。」
「なんて答えたんだ。」
「引き受けますと伝えました。」
「……はァ。」

呆れたように溜め息をこぼし、煙草の灰を灰皿に落とす。

「俺から栗子に教える気はねェからな。補佐の業務なんだから。」
「はい、わかってます。」
「本来の仕事はどうするつもりだ?」
「急ぎのものでない限り、栗子さんが帰った後に取り掛かろうかと。」
「…ったく、とっつァんもとっつァんだ。こっちの仕事が溜まってるのは分かってんだろうに。」

土方さんが一枚の紙を差し出す。

「あとはそっちで組め。」

手渡された紙を見た。今から考えるはずの、栗子さんの指導計画書だ。

「え、…この短時間で?」

簡易ではあるものの、土方さんが補佐に求める業務を書き出してある。細かい業務を書き足していけば、すぐにでも計画表は完成しそう。

「助かります、ありがとうございました。」
「……べつに。」
「ではこの形で組んでみます。」

部屋を出ていこうとすると、

「どこ行くんだよ。」

土方さんが言う。

「自室に戻りますけど…」
「ここでやればいいだろ。机もあるんだし。」

アゴで差した。
副長室には、もう一つの机がある。今は部屋の隅に寄せられているけど、4年前まで私が使っていたものだ。

「お前が使ってたやつなんだろ?」
「…はい。」
「なら使えよ。」

なぜこの部屋で作業させたいのか分からない。でも、

「…わかりました。」

特段、断る理由もない。
私は部屋の隅にあった机を、4年前と同じ場所へ動かした。

「そんな感じでやってたのか。」
「…そうです。明日からここは…栗子さんの席ですが。」
「お前は?」
「私は……そうですね、部屋から机を持ってきます。」

話しながら腰を下ろした。
顔を上げ、そこから見た光景に…

「…、」
「なんだ?」
「…、…私、」

思わず胸が震える。

「本当に…帰って……来たんだなと思って。」
「…。」

副長室で土方さんと仕事をしていた、あの頃の思い出に包まれる。

「懐かしい…、」

懐かしいのに、

「…、」

どこか寂しい。
私達は記憶と同じ場所に座っている。
なのに違う。同じに見えても、あの頃想像もしなかった関係になった。

「…。」

こんなことに……なるなんて。

「……なァ、紅涙。」
「はい?」
「その『懐かしい』は…どういう感情で言ってる?」
「どういう…とは、」
「懐かしくて嬉しいのか、懐かしくて嫌なのか。」
「…懐かしくて、嬉しい方です。」

そこまで言って、ハッとした。

「っ、すみません!昔の話はしない約束――」
「じゃねェだろ。そんな約束はしてない。」

煙草をひと吸いして、

「俺は『忘れちまった記憶に触れる機会があるなら受け入れる』、そう言ったはずだ。」

私に眉を寄せる。
『俺は俺だ。昔がどうのとか言われても知らねェし、誰かのために思い出してやる気なんてサラサラない。…だが、忘れちまった記憶に触れる機会があるのなら受け入れる。それは間違いなく俺がしてきたことだから』

「だから…、…、」

土方さんは目を伏せると、さらにギュッと眉を寄せる。
手に持っていた煙草を灰皿に押し付け、浅く溜め息を吐いた。

「懐かしくて嬉しいなら……もっと嬉しそうにしろ。」

え…?

「嬉しいなら…もっと笑って懐かしめ。なんで…そんな泣きそうな顔してんだよ。」
「!」

無自覚だった。
言われて初めて知った。

「お前はどうしていつもそんな顔をしてるんだ…?」

『いつも』
いつも私は……悲しそう?

「どうして俺の前でだけ…、ッ、」

土方さんの…前でだけ…。

「っ…ごめんなさい…、」
「違う…、謝るな。俺…は…、ッ…、」
「…?」

土方さんの様子がおかしい。
胸元を握り締めたかと思うと、

「くッ…、」

ゆっくりと身体が前に傾いた。

「っ土方さん!?」

慌てて身体を支える。

「大丈夫ですか!?っだ、誰か!」
「ッ…紅涙、…、」
「大丈夫ですよ、すぐに救急車をっ」
「俺は…っ、…、」

息も絶え絶えに、

「俺は……お前に…っ、…笑ってほしい。」
「!」

私の腕を掴む。

「ッ…どうすれば…っ、…笑うんだ?」

苦しげに眉を寄せ、私を見た。

「どうすれば…紅涙は俺に…笑ってくれる?」
「っ…、」

耳から入ってくる言葉が痛い。
痛くて…今までにないくらい……悲しくなった。

にいどめ