不変の世界
が、嬉しさに満たされた時間はそう長く続かなかった。
「…はぁ、」
やっぱり、寂しい。
ベッドに寄りかかり、ぼんやりと天井を見上げる。
「…いつかは忘れるのかな。」
一緒に過ごした時間を。土方さんのことを。
「忘れたくないのに…、」
忘れないと、前に進めない。
「……。」
土方さんは今頃どうしているんだろう。私のことを思い出したりしてる?私みたいに寂しがったり…、また会いたいと…思ってくれてるのかな。
「土方さん……」
―ヴーッヴーッ
「!?…ビックリした…。」
バイブ音が鳴り、スマホを手に取る。友人からのメッセージだ。
『今日ランチ行かない?』
そんな気分じゃないな……。…けど、このまま家にいてもボーッと考えてしまうばかりなら、
「…行こう。」
返事を打って、時間を決めた。
誘ってくれた友人はチョコレートバイキングへ行く予定だった二人、『リッチ』と『セッチン』。…ついでにチョコレートバイキングのことも謝ろう。私、連絡せずにすっぽかしちゃったからな……。
そうして数時間後、
「お待たせー。」
待ち合わせ場所で二人と合流した。会って早々、リッチが口元に手を当てプププと笑う。
あ…。
「そのことなんだけど……」
「今日はせめて野菜から食べるようにしなきゃね~。そうしたらセーフじゃん?だよね、紅涙。」
「う、うん…そうだね、たぶん。」
「「たぶんかーい。」」
二人からツッコミを受ける。私がそれを小さく笑うと、セッチンは不思議そうな顔で私を見た。
「どしたの、紅涙。なんか元気ないね。」
「え……あ…うん、ちょっと。でもその前に、」
二人に手を合わせ、「ごめん」と謝る。
「昨日はごめんね。急に…行けなくなっちゃって。」
「…へ?」
「何の話?」
「何って、チョコレートバイキングだよ。私、連絡しないままドタキャンして…」
「「……。」」
二人が顔を見合わせる。小首を傾げたと思うと、「やだも~」と笑い出した。
「なに寝ぼけてんの~?」
「一緒に行ったでしょ、紅涙。」
「え!?」
い、行ってない!
「『チョコメニューを全部制覇するぞ!』って言い出したのは紅涙だよ~?」
私!?
「そうそう。でそれにみんな乗っかってさ。ひと通り食べたんだけど、最後は全員胸焼けして。」
「お腹まで痛くなってきて、帰りの電車が地獄だったっていうね。」
二人でケラケラと笑う。
「ま、待って。でも私、本当に……」
行ってないんだけど…。
「…なに、まさか本気で覚えてないの?」
「覚えてないというか……」
行ってないから……。
「まだ昨日の話だよ?」
「うん…、」
「あ、じゃあ写メ見たら思い出す?」
「あるの!?見せて!」
「い、いいけど……ちょっと心配になってきたわ、紅涙。」
セッチンが顔を引きつらせながらスマホを取り出し、写メを見せてくれた。
「ほら、いるでしょ?紅涙。」
「!」
…いる。チョコレートを前に幸せそうな私が写っている。
「なん、で…?」
「うそ…。アンタ、これを見ても思い出せないわけ?」
「……うん。」
写ってるのは…本当に私?
記憶はない。それでもここに私がいる。まるで私がもう一人いるみたいに……
「!…まさか……、」
まさかここに写ってる私って……天人?
「『まさか』、なに?」
「っううん、なんでもない。」
もう一度写メをよく見てみる。
ケモ耳はなく、着物でもない。確証が得られるような何かは写っていない。……けど、天人だとすれば納得できる。
「……。」
一時的に天人の行動が私の穴埋めに使われていて、欠けたパズルのピースを埋めるみたいに歯抜けになった箇所にだけ天人の行動が宛てがわれていたとしたら…?現実世界に違和感を出さないために。
……でも、
「ありえない…よね。」
そんなことはありえない。だってここは現実。天人なんて存在しない。それに人の人生が誰かに干渉されてるようなこと、あるわけがない。仮にそんなことがあったとするなら、この世界は虚像の…そう、まるで『銀魂』のような架空の世界という話になって……
「ねぇ、紅涙。昨日から今日にかけて何かあったの?」
「えっ…?」
「他に余程のことがあったから忘れちゃったんじゃないかなと思ってさ。」
……うん、
「…あった。」
「何が?」
「……、」
どう話せばいいんだろう…。『ここではない世界に行ってて…』なんて話したら、余計心配されそうな気がする。
「聞かない方がいい感じ?」
「…ううん、そんなことない。けど、その…なんて言うか…うまく言えなくて。」
言葉を選ぶ。
「好きな人が出来たけど…、…もう二度と会えない、みたいな感じ……かな。」
「な、何よそれ…。昨日の今日で、そんな状況!?」
「うん…。」
「なるほど……、一夜限りか。」
「っそ、そういう感じじゃないよ!?」
「妻子持ちか!」
「やめときな!」
「ちっ違うってば!そんな人じゃないんだけどっ…、……。」
「「けど?」」
「会いたくても…会う方法が分からないの。」
どうすればまた会えるのかが…分からない。
「連絡先を知らないってことかー。どこで会ったの?」
「うちの近くのコンビニ…。」
「ナンパ?」
「ナンパではない…かな。」
「うーん……」
歯切れの悪い言い回しに、二人が首を傾げる。
「…ごめんね、こんな話し方で。」
「いいよいいよ、進展してから話してくれれば。」
だ、だから……
「進展しないってば。」
進展のしようがない。もう…会う方法はないんだから。
「でも家の近くのコンビニでしょ?また会えるって。」
「…会えないよ。」
「出会った時と同じ時間に毎日コンビニ通いするとかは?」
「それでも会えないと思う。」
「なんで?」
「この……」
『この世界の人じゃないから』
「この…辺りにいるような人じゃ…なかったから。」
「謎すぎる!」
セッチンが頭を抱えた。
「何なんだその男は!」
「相当カッコ良かったの?」
「…うん。」
「紅涙はまた会いたいんだよね?」
「…会いたい。」
「じゃあネガティブに考えないようにしようよ。」
リッチが私の肩にポンと手を置いた。
「生きてる限り『絶対』なことなんてないんだから。どんなことでも可能性は0じゃないよ。」
『世の中、全てが綺麗に説明できるわけじゃない。逆を言えば、ありえないことなんてそうねェんだよ』
「……、」
「『もう会えない』なんて否定しないで、『いつかまた会ってやる!』って思っておくだけでも違うんじゃないかな。」
「リッチ、いいこと言う~。」
セッチンが拍手した。
「紅涙、諦めたらそれまでだよ。会えなくて元々。出来ることがあるうちは、なんでもやってみなきゃ。」
「!」
会えなくて…元々。
「…そう、だね、」
これ以下の状況になることはない。何か反応があった時は、全てが土方さんに近付いた一歩になる。
「…ありがとう。リッチ、セッチン。」
私が動かなければ…始まらない。諦めることは、いつでも出来る。
「前向きになった?」
「うん。」
「よし!行ってこい、紅涙!」
ドンッとセッチンに背中を叩かれた。
「ぅっえ!?」
「やるなら少しでも早く行動すべき!」
「今から!?」
「私達とランチしてる場合じゃないでしょ!」
「で、でも…」
「紅涙、今から出来ることはある?」
リッチが問う。
「その人と出会った日のことを再現しろとまでは言わないけど、何かこう…きっかけになるようなことは出来る?」
きっかけに…なるようなこと……
「干渉…、」
「「『かんしょう』?」」
私達を繋いだ『干渉』。
時計を見る。既に12時を回っていて、同じ時間に干渉を起こすことは出来そうにない。……けど、
「うん…出来ることはある。」
私達を繋いだ『干渉』は、いつでも起こせる。
「だったらセッチンの言う通り、早く動いた方がいいよ。一度でも多く行動すれば、その分確率も上がるわけだし、…その人のことを鮮明に覚えてるうちにさ。」
「数打ちゃ当たるだよ、紅涙!」
「……うん、そうだね。やってくる!」
私は二人に礼を言い、すぐさま来た道を戻った。
…あとから聞いた話、私の背中を見送る二人はこんな話をしていたらしい。
「若いっていいね。」
「いやいやリッチ、私達も同い歳ですよ~?」
「ふふ、そうでした。…なんかさ、私も前に紅涙みたいな経験、した気がするんだよね。」
「『気がする』?」
「よく覚えてなくて。相手のこととか…何もかも。ただすごく好きだったっていう余韻だけが残ってる、みたいな。」
「夢ってこと?」
「そうじゃないと思うんだけどね…。でもこのあやふやな感じ、ちょっと紅涙に似てるなと思ってさ。」
「じゃあいつかリッチも再会を果たす日が…!?」
「どうかな。うろ覚えの私には、紅涙みたいな努力も出来ないから。せめて…紅涙には、再会を果たしてほしいな。」
「果たすよ、きっと。…あと、りくも。」
「ふふ、私はもういいってば。……神様が見てるといいね。」
「だね。嗚呼っ神様、紅涙を好きな人と再会させてあげてください!そして私の前にも運命の人を!」
「もう、リッチってば。…紅涙、がんばれ。」
家の最寄り駅まで戻った私は、
「…ここからスタートしよう。」
まず水溜まりの有無から確認することにした。あの世界の始まりは、駅までの道のりにあった水溜まり。
「確かこの場所……だったよね。」
しかし例の電柱の下に、あの水溜まりはない。水溜まりを作ってあの日を再現すれば入口が開く…のかな?
「…持ってこよう!」
一旦、家へ帰った。水を入れたペットボトルと微量のサラダ油を持って、また電柱の前に戻る。そして人目を気にしながら小さな水溜まりを作った。
「少しだけ…ごめんなさい。」
道を汚してしまう罪悪感にひとり謝罪し、サラダ油を一滴垂らす。
「……、」
けれど、どれだけ見つめても水溜まりは単に油が浮いた水溜まりのまま。波立つこともないし、目に刺さるような鋭い光も出ない。
「ダメか…。」
やっぱりガソリンじゃなきゃダメなのかな。それとも土方さんの世界に同じ干渉が存在してないから?
…いや、土方さんが私と同じ干渉を見ないと始まらないんじゃなかったっけ…?
「そうなると私にはどうしようも……」
向こうの世界をどうこうすることなんて出来ないし、
『その水溜まり、もしかしたら俺の世界の水溜まりが滲んで出来たんじゃねーか?』
私があちらの世界に滲むほど多くの水と油を流し出せるわけもない。
「…どうしよう。」
多忙な土方さんが偶然、私と同じ場所で同じ干渉を見る可能性ってどれくらいあるの?元の世界へ戻った瞬間に私のことを忘れちゃってる可能性だってあるのに……
「……はぁぁ……、」
ダメだな、すぐネガティブな思考に切り替わってしまう。とにかく、今は考え込む前に行動しないと。
「コンビニへ行ってみよう。」
もし土方さんも会いたいと思ってくれているなら、コンビニへ向かう気がする。私達の出逢いはコンビニ前だから。
「…って、来てみたのはいいけど。」
さすがにコンビニ前で水溜まりを作るのは気が引ける。
「どうすれば…」
干渉がなければ土方さんに会えない。こっそり水溜まりを作るにしては、人通りが多い。
出直そうか。夜中なら店の端でこっそり作っても……
「…え?」
そんなことを考えていると、どこからかフワフワと泡が飛んできた。風に乗って目の前に流れてくるそれは、
「しゃぼん玉…。」
そう、しゃぼん玉だ。光りを受けるしゃぼん玉は、まだらにモワモワと輝き、次から次へと飛んでくる。
一体どこから?いやそんなことより、
「これって…干渉?」
虹色の輝き、干渉だ。水溜まりの現象と同じ。
「そっか、水溜まりだけじゃなくても起きるんだ…。」
これならまだ人目を気にせず、昼間でも出来る。けど土方さんが向こうでどんな干渉を目にするかは分からない。一応は水溜まりの方もしておいた方が手堅いのだろう。
「土方さん……、」
また、逢えますよね…?いつか…必ず。
簡単にはいかないだろうけど、いつか逢えると信じて願い続けるから……
「土方さんも…願ってくれてたらいいな。」
流れていくしゃぼん玉を見つめ、土方さんを想った。途端、
―――ギラッ
「ッッ、」
しゃぼん玉の一つから、射抜くような光が放たれる。覚えがあった。
この感じ、まさか……っ、
「…紅涙?」
「!?」
呼ばれた声に、心臓が大きく脈打った。
「……紅涙、…なのか?」
聞き覚えのある声音。頭の中で何度も再生された声音。まだ記憶に新しい…あの声。
「土方…さん……っ。」
振り返った。そこにいる人が視界に入った途端、瞬きをためらう。瞼を閉じると、また消えてしまいそうな気がした。
「…っ、」
「…マジか。」
着流し姿の土方さんは煙草を片手に、……違う。手にあるのは、煙草じゃない。
「何……してたんですか?」
「……しゃぼん玉。」
しゃぼん…玉……?
「土方さんが…しゃぼん玉?」
「これならお前も見る機会が多いかと思ってな。」
「!…それは、私に…会いたいから?」
「他に何がある?」
「っ…」
胸の甘い痛みに息を呑む。
「…そうか。俺の読みは正解だったっつーわけか。」
「…え?」
「こっちの世界で大量に吹いたら、また紅涙の世界に漏れ出るんじゃねーかと思ってよ。万事屋のとこのガキにも手伝せて、大量のしゃぼん玉を飛ばしたんだ。な?……って、なんだよ、アイツらいなくなってやがる。」
「世界が…変わったからじゃないですか?」
「あーそうだったな。じゃあ、」
着流しの襟元を触る。グレーのフードが出てきた。
「準備しねェと。」
「それは…」
「もちろん、またここでお前と二人で生きるための服だ。この妙な世界の必需品だろ?」
「っ、……土方さんっ、」
嬉しい…っ、嬉しい!
本当に夢じゃない?幻じゃない?
「こっち来い、紅涙。」
土方さんが手を差し出す。
「っ…、」
飛びつきたい気持ちを堪え、私は慎重に足を踏み出した。もしこれが夢でも覚めることのないように…そっと、確かめながら。…けど、
「遅い。」
辿り着く前に土方さんが迎えに来た。大股で距離を詰め、ギュッと私を抱き締める。包む込まれた温もりに、
「っっ、」
思わず泣きそうになった。
「信じられねェな…。さすがに昨日の今日で会えるとは思ってなかったんだが。」
「私も…いつか逢いたいって願いながら……水溜まりを。」
「作ったのか?」
「はい。電信柱の下に。でも…何も起こらなくて。」
土方さんの胸に顔を埋める。
「しゃぼん玉を、飛ばしてくれて良かった…!」
飛ばしてくれなかったら、会えなかったかもしれない。しゃぼん玉という手段は私の頭になかった。
「…俺も、あれから会える方法を探してたんだ。まさかこんな早く見つけられるとは…、……。」
「?」
途切れた言葉に顔を上げる。土方さんは難しい顔をして、私を見ていた。
「…いいんだよな?こんなに早く会えて。」
「え…?」
「ろくでもねェ条件が増えてたり、また別の何かを見つけないと死ぬとかあるんじゃないかと思ってよ。」
「どう…でしょうね。でも、」
そうだとしても、
「…いいですよ。また、会えたんですから。」
会えてよかった。会えるなら、どんなことでもする。どんな壁でも乗り越えてみせる。
「フッ…。…そうだな、愚問だった。」
土方さんは私の額に、自分の額をくっつけ、
「お前といるためなら、何だってやってやろうじゃねーか。」
挑発的に笑った。
「っ…土方さんっ、」
その背に手を回し、強く抱き締める。
「会いたかった…っ!」
また名前を呼べる幸せ。好きな人の体温が伝わる幸せ。
「俺も…会いたかった。」
ただそこにいるという幸せ。
「…昔、」
「…?」
「昔、俺の義兄が言ってたんだ。『しゃぼん玉は奇跡の塊だ』って。」
「奇跡の…かたまり。」
「あの頃はバカにして笑ってたんだが……謝らねェとな。」
土方さんは懐かしむように目を細めて、
「お前は俺のしゃぼん玉だ、紅涙。」
そう言った。
「私が…しゃぼん玉?」
私の存在が奇跡、…ってこと?……やだ、なんか照れる。
「それなら土方さんも…私の『しゃぼん玉』ですよ。」
「……バカ、やめろ。」
耳を赤くして顔を背ける。
「イタイ奴らみたいじゃねーか。」
…いやいや、
「コンビニ前で抱き合ってる時点で、結構イタい目で見られてると思いますよ。」
「!……。」
ハッとした様子で辺りを見る。横目に見る通行人と目が合ったのか、土方さんは気恥しそうにして腕を解いた。
「俺としたことが…。…目立つ行為は厳禁だっつーのに。」
「ふふっ、ですね。だけど見つかりそうなった時は、一旦戻ればいいだけですから。」
「『戻る』って…自分の世界にか?」
「はい。」
「……、」
土方さんが信じられないといった顔をする。
「また会えなくなるんだぞ?」
「そうですけど……」
私の穴埋めを、ドッペルゲンガーに任せ続けるわけにもいかない。
「土方さんは帰らないつもりだったんですか?」
「べつに…そうは言ってねェけど。…だが、」
言葉を迷わせ、弱く眉を寄せる。
「偶然は、二度も起こるもんじゃねェだろ。」
土方さん…。
「でも…私は天人の自分を殺せませんし…。」
「…わかってる。その摂理が変わってないかどうか確認する術もねェしな。…分かっちゃいるんだ、そう都合よくは進まないって。それでも…」
眉間の皺を深くして、
「それでも俺は…紅涙を諦めたくない。」
「土方さん……、」
固く拳を握り締めた。
「どうにか一緒にお前と生きる方法を見つけてェんだ。」
…ありがとう、土方さん。
「…大丈夫ですよ。」
私は土方さんの手を両手で掬い取る。
「元の世界に戻っても、私達は必ずまた会えます。次も…その次も。」
「何を根拠に…。」
「二度目があったんです。もう偶然じゃない。今の私達なら、三度目を必然にすることだって出来るんですから。」
「!」
干渉の条件さえ決めて別れれば、必ず会うことは出来る。事細かに約束すれば、私達は何度だってこの世界で会うことが出来る。
「…お前ってやつは。」
フッと土方さんが笑う。
「ならこれからの俺達は生きる世界が二つってことだな。」
「ですね。」
まだ生きる世界が違うままの私達には、おとぎ話のような結末は用意されていない。
「いつか二人で一緒にいられる方法を見つけましょう。その時までは…二つの世界で。」
「ちゃんとテメェの世界でも独身でいろよ?」
「え?」
「俺がいるんだから。向こうで他の野郎なんかになびいたら、」
「…『なびいたら』?」
「消しに行く。」
「!」
な、なんだかちょっと嬉しい…!いや、『消す』なんて喜ぶ事態じゃないけど、こう…愛されてるっていうか……なんて言うか。
「は、…はい…。」
…照れる。
「……、」
「……照れんな。言った俺の方が恥ずかしい。」
私達の歩む道は、未だ重なり合っていない。
でもこれからいくらでも、道を作ることが出来る。変えることが出来る、そう思ってる。
「…土方さん、」
私達の手で、おとぎ話より奇跡みたいな未来を作ることが出来ると…私は信じてるから。
「なんだ?」
「……、…、」
私の気持ち、…ちゃんと言おう。
「私、…土方さんのこと、……す…、…」
「…す?」
好きです。
「す…、…すー…、」
「あァ?」
「っ、……やっぱりなんでもないです!」
「なんなんだよ、さっきから…。」
生きる限り未来がある。生きている限り、次がある。きっと特異な私達にだって、輝く未来は待っている。
「また今度…ちゃんと言いますから。」
いずれはちゃんと、私の気持ちも伝えよう。言わなくても分かっているだろうけど、これからの私達には大事なことだから。
「今言えよ。」
「い、いえ…また次の機会で。」
「……。」
いつか共に暮らす未来のために……、
私達が逢えなくなるその時まで、この奇跡を守り続けていくと誓う。
「…そう言えば紅涙、あの時も何か言おうとしてたよな。」
「あの時…?」
「俺達が自分の世界へ戻る時。別れ際に言ってただろ?『言っておけば良かったな』って。」
「!?だ、だからそれを……、…次の機会に。」
「あァ!?」
「すみません!」
本編END
2020.01.14加筆修正 にいどめせつな