結婚できない男 5

~同化編~

あの後の土方さんは、私が渡したBASARAのDVDを持って居間へ向かった。
ケースを開け、デッキに入れる。本当に見るらしい。

「あ、あの土方さん、」

黙々と行動するものだから、つい私も付いて来てしまった。

「それ7巻ですから、見るならせめて1巻からの方が…」
「いい。」
「すっすぐに持ってくるんで!まだ食堂に置いてあるし!」
「いいって。」

私の話をそこそこに、土方さんは再生ボタンを押す。メーカーロゴが表示された。

「……、」

楽しみに取っておいた、まだ見ていない唯一のDVD…。まさかこんな形で7巻を目にすることになるとは思いもしなかった。
早く見たかったけど、まだ見たくなかったような…。いや、いいんだけどね。別にいいんだけど…なんか土方さんがいたら頭に入ってこない気がしなくも……

「…お前も見んのか?」

テレビに著作権うんぬんの説明が流れている時、土方さんが振り返った。
…え。そ、そりゃあ…

「見ますよ?」
「なんで。」
「なんでって…まだ見たことのない内容なので。」
「そうだったのか。」
「はい。」
「……。」
「……、」

い…居心地悪ゥゥ!!

「土方さんは一人で見たい…ですか?」
「……いや、別にいいけど。」

え、何これ。何この感じ。

「見てねェんなら見て行けよ。」

土方さんのDVDでしたっけ?土方さんが戦国ブーム中でしたっけ?

「……じゃ、じゃあ…お隣失礼します。」
「おう。」

何かと気になるなぁ…。
と思っていたが、始まってしまえば全く気にならなかった!
やっぱり政宗さまはカッコイイ!!

「あ、これが政宗さまですよ!素敵すぎる~ッ。ちなみに隣の人が小十郎さんで、竜の右目って呼ばれてるんです。見た目は恐そうな人だけど良い人なんですよ~。」

冒頭5分は次々と登場するキャラの説明をした。ちなみに土方さんには頼まれていない。
中盤から後半にかけては展開にテンションもダダ上がり、終始興奮したDVD鑑賞となった。

「はぁ~…ずっと続けばいいのになー。」
「終わったのか?」
「はい、この巻で完結です。もう新しい政宗さまには会えないなんて…」

って、こんな私の感想よりも。

「土方さんは…どうでした?」

正直、政宗さまと幸村くんのファンのために作られたような内容だから、胸に響く戦いというのはなかったように思う。

「……、」
「やっぱり1巻から持って来ましょうか。」

知ってくれようとしているのなら、私だってちゃんと知ってもらいたい。如何にBASARAが面白いか!

「待っててくださいね!」

食堂へ向かおうとした時、

「…あれが、」

土方さんはテレビ画面を見つめたまま呟いた。

「あれが…伊達政宗か……。」
「え、あ…はい、そうですよ。」

DVDは既に取り出している。なのでテレビに画面には何も映っていない。にも関わらず、土方さんはテレビ画面を見たまま呟いた。ぼんやりと。

「あれが……お前の好きな男か。」
「っ…そう言われると恥ずかしいですけど、……そうですね。」

きゃっ☆と頬に手を当てる。
いつもなら、『お前の頭が恥ずかしいわ!』などと言って殴られそうなものだけど、

「…わかった。」

土方さんは何かに理解を示し、立ち上がった。

「えっ、何が分かったんですか!?」
「……。」
「ちょっ、土方さん!?もっと具体的に――」

「早雨~、巡回の時間だぞー。置いてくぞー。」

部屋の外から、私の声にかぶさるようにして原田さんの声がする。…そうだった、今日は当番の日だ。

「はーい!」

返事をして、廊下に顔を出す。『すぐ行きます』と返事しようとすれば、部屋の前から立ち去ろうとする原田さんと目が合った。

「先に車出してくるからなー。」
「あ、はい。ありがとうございます。…それにしても原田さん、よく居間に私がいるって分かりましたね。」
「お前のギャーギャー言う声が聞こえてきてたからな。」
「それは失礼しました。」
「つーかさっき俺にハゲと言ったことを謝れ。」
「なっ、まだその話してるんですか!?というか、あれは原田さんも悪かったんですからね。」
「俺は正しいことをしたまでだ。謝れ。全国のスキンヘッドに謝れ。」
「もうっ、しつこい!この話は終わり!」
「勝手に終わらせるな!ったく付き合ってらんねェよ。」

小言を言いながら原田さんは立ち去った。

「それじゃ土方さん、見回り行ってきますね。DVDは帰ってからお届けしますので。」

土方さんの振り返り見た。土方さんは未だテレビの方を見たまま座っている。
ちょっと…様子がおかしい?
10分と禁煙できない人が、DVDを再生した直後から煙草を吸っていないし、DVDが終わったにも関わらずテレビ画面を見たままフリーズ…。

「…土方さん?」

大丈夫ですかと顔を覗き込もうとしたら、

「紅涙…。」

ひしっと抱き締められた。

「へ!?ちょっ、ちょっと土方さん!?何して――」
「俺も…」
「?」
「俺も一緒に……あ、いや、」
「??」

土方さんは難しい顔をして一人悩む。
そして何か思い出したようにハッとすると、どことなく恥ずかしそうにして私を見た。

「俺が巡回を、とぅ…togetherしようと思う。」

……え?

「はい?」
「あ…そうか。あー…今日は俺が、お前とtogetherに巡回しようと思う。」
「いやいやいや!余計にややこしくなってますよ!」

というか!

「そういう文法の問題じゃなくて!」
「うっさい。だま…、じゃねェ。び、Be quiet!」

なぜ突然ルー語に目覚めたんだ…。
日常会話に英語を組み込むなんて、普段の土方さんなら絶対にしないことなのに……あ。

「もしかして土方さん、」
「何だ。」
「政宗さまを意識、してますか?」
「……。」

首を傾げる私を土方さんが睨みつける。

「そんなことよりもmoveしろ!」

その耳は、赤かった。

「言われている意味が今ひとつ分からないんですけど…」
「うるさ…っ、Shut up!」

にいどめ