至上最大の恋でした5

違うこと、同じこと

「なら、お前自身で確かめてみろ。」

えっ…

「気になるんだろ?テメェで確かめろよ。」
「ど、どうやって…」
「好きにすりゃいい。」

すっ好きに…!?
土方さんは変わらず私に手を広げて「ほら」と待つ。
とりあえずあの胸に飛び込んでいいの?いやでも待ち構えられてると……飛び込みづらいような。

「遠慮すんなよ、昨日もしたんだから。」
「うっ…。」

そうですけど……あ、そうだ。抱きしめなくても、触れば分かるじゃん。

「じゃあ…失礼しますね?」
「おう。」

そろりと手を伸ばす。着物の上から触れても分かりづらいと思い、土方さんが伸ばしている手に触れた。

「…何やってんだ?」
「体温を測ろうと思いまして――」
「バカ、」

土方さんが小さく笑って、

「そんなんじゃ分かんねェだろ。」
「っわ!」

私の手を掴み、引き寄せた。

「…どうだ?」
「っ…、」

結局抱きしめられる。改めて腕の中を感じた。

「冷たい、かな…。」

やっぱり昨日と同じく少し冷たい気がする。

「着物越しなので分かりにくいですけど…。」
「ちゃんと確認しろ。」

抱きしめていた腕を解き、

―――パサッ…
「!!」

土方さんが胸元の着物を大きく寛げた。

「なっ…!」

露になる肌と、程良く鍛えられた胸元。

「触れ。」

黒く長い髪が、首から鎖骨へ流れていて……

「っっ!!」

ッブふ!!鼻血がっ、私、鼻血が出てませんか!?まっ眩しっ!それにこのフェロモン量!息が出来ないくらい溢れ出てるんですけど!?

「紅涙?」
「ぅっ、っ…はい、…。」
「早く触れよ。」
「さささ触れって…あっ、」

手首を掴まれ、土方さんの胸へ導かれた。肌にピタりと手がつく。
私の手、きっと興奮し過ぎて汗ばんでるはず…、……って、あれ?

「冷たくない…。でも、温かくも…ない?」

自分で言いつつも違和感を覚える。
けれど実際そうなのだ。冷たくもないし、温かくもない。強いて言うなら、

「私と……同じ?」

そう、私と全く同じ体温。だから温度差を感じ取れず、温かさも冷たさも感じない。

「正解。今は紅涙の体温だ。俺の身体は必要に応じて触れた者の体温をコピーできる。」
「じゃあ今は私の体温をコピーして…」
「そうだ。オリジナルの体温をリアルタイムに計測できないから、こうして臨機応変に変更している。」
「そう…だったんですか。」
「あと、ここ。」

土方さんが私の手を胸の中央へ導く。

「集中してみろ。」
「集中?」
「ここにあるはずのモノが、俺にはない。」
「!」

ここにあるはずのものって……

「…心、臓…?」

私の質問に、土方さんがニヤリと笑った。

「それ、二つ目の質問だよな。」

あっ!

「ずっ、ずるいですよ!今のは誘導尋問です!」
「勝手に聞いてきたんじゃねーか。つーことで、紅涙のことを一つ教えろ。」
「そ、そんな…私のことって言われても……」

何を教えれば!?

「心配すんな。俺がする。」
「『俺がする』?」

土方さんが私に手を伸ばした。その手の行き先を見ていると、

―――グイッ
「!?」

唐突に、私の胸元の着物を掴んで開く。

「ひぃぃッ!何してるんですか!?」

ポロッとしてしまいそうなくらい開かれた着物を、慌てて手繰り寄せた。けれど土方さんも手を放さない。

「ちょっ、土方さん!手!!」
「お前の心臓の音が聞きたい。」
「えぇぇ!?」
「聞かせろ。」
「やっ、ちょ、待っ…」

強引に耳を胸へ付けた。

「んっ…」

やばいやばい!土方さんの髪が当たってくすぐったい!

「くく…すげェ早ェ音だな。あんまり興奮すんなよ、紅涙。心臓が壊れちまいそうだ。」
「っっ、そこで喋らないでください!」
「なんで?」
「くすぐったいから!」
「へェ…、」
―――ふぅっ

着物と胸の隙間に息を吹きかける。

「ッあ!」
「やらしい声。」
「っもう!交代!」
「交代?」
「次は私が土方さんの心音を聞きます!」
「…ったく、仕方ねェな。」

身体を起こし、胸元から離れた。
よ、よかった…。

「とっとと確かめろ。」

雑に私の頭を土方さんの胸へ押し付ける。

「っブふ!」

おかげで顔面から突撃した。

「おい、胸にキスするってお前…」
「今のはっ」
「どこまでも積極的なヤツだな。常に欲求不満な――」
「ちち違いますよ!!土方さんが強引に引っ張るからでしょ!?」

ほんとにもうっ!
クククと喉の奥で笑う土方さんを横目に、私は目の前の胸へ耳を当てた。

「…、」

目を閉じ、耳を澄ます。そうしていると、ここがどこか忘れそうになった。

「……。」
「…。」
「……音、しますね。」
「だがお前達のとは違う。」

…うん。心臓の音じゃない。からくりの動く音がする。

「私とは違っても……ちゃんと生きてる音です。」

少しだけ切なくなるのは、やっぱりこの人が土方さんだからだろう。

「紅涙…、」
「聞いていて安心する音ですね、あなたが生きてる音。」

にこりと笑えば、土方さんが優しく目を細めた。

「そんな紅涙の考えに、いつも救われてる。」

私の髪を撫で、耳に掛けた。
やさしい、やさしい土方さん…。どこもかしこも整理整頓できてる土方さんの世界に、私は邪魔になってないかな。

「…私、土方さんの支えになれてますか?」
「ああ。俺はもう随分前から、お前がいないと立てねェ足になっちまってる。」
「ふふ…それは大変ですね。自立してもらわなきゃ。」
「諦めろ。しつけ直すには遅過ぎだ。」

土方さんは笑って、ギュッと私を抱きしめた。

「あたたかい…、」

耳元で呟く。

「紅涙は、あったけェな…。」

その声は嬉しそうな…幸せそうな声だったけど、

「あなたも…温かいですよ。」

どこか、私の耳には切なさを残した。

にいどめ