厳重警戒日6

第二次大戦

目の前に現れた、武装ギャル二人。
一人はバズーカーを担ぎ、もう一人は薙刀を手にしていた。

「ウチらが副長室を見張ってる隙に何さらしとんじゃワレェェ!」
「わ、われ…」
「ウチらより先に祝えると思ってんじゃねーよ!このブスが!」
「土方さんから離れろ、ブス!!」
「う、ぐっ…、」

憎しみがかった声音で私を睨みつけてくる。

「ブ、ブスブスって……。」
「土方さんを独り占めするヤツは全員ブスなんだよ!」
「じゃ、じゃあアナタ方も…」
「あ゛ァん!?」
「っす、すみません、何でもありません…。」

恐ろしい…!

「…おい、」
「あ、土方さぁ~ん♡そんなところにいたんですかぁ~?」
「捜しましたよ~♡」

この変わり様も恐ろしすぎる!……あれ?

「そう言えば…」
「どうした?」
「人数が……」

人数が減っている。玄関で遭遇した時は年配の女性がバズーカーを担いでいたのに。

「年配の方々がいなくなってますけど、一体どこに…」
「っせーな!テメェには関係ねェんだろうがブス!」
「……。」

なんだろ…、もはや『ブス』が単なる語尾に感じてきた。『そうだニャン』みたいな。『そうだブス』みたいな……、…うん、

「可愛くない…。」
「「あ゛ァ゛ん!?」」
「っあ、いえ!アナタ方に言ったわけではなく…」
「ブスだよ、コイツら。」
「「!?」」
「っ、ひ、土方さん!」

なんという煽りを…!

「こんなヤツらが可愛いわけねェだろ。」
「っ、…ひどい土方さぁ~ん。」
「超傷つくんですけど~。」
「うるせェ。人に向かって汚ェ言葉を放った挙句、好き勝手に破壊しやがって。そんなヤツらのどこがブスじゃねェっつーんだ、あァ?」
「「っ、」」

睨みつけられたギャル達が怯んだ。けれどそれはほんの一瞬で、すぐに身体をくねらせる。

「勘違いですよぉ~土方さん!私達は皆で土方さんとお話ししたいなぁ~って思ってるだけなんですぅ。」
「そうですよ~ぅ。なのにその女は、あざとく二人きりのタイミングを狙ってたんですよ~?ひどくないですかぁ?」

若干見透かされている…!

「ウチらは土方さんへの気持ちを包み隠さず伝える超ピュアな女の子なだけなのにぃ~!」
「その女の方がブス要素ありまくりなのに~!」
「…早雨、えらい言われようだぞ。」
「はい…慣れてきてます。」

遠い目をすると、土方さんが小さく笑った。

「そんなもんに慣れんなよ。お前は可愛いんだから。」
「「「!?」」」

その言葉に驚いたのは、私だけではなかった。しっかり聞いていたギャル達の顔が、どんどん鬼と化していく。

「この女……マヂで邪魔なんだけど。」
「もう消すしかないね。別部隊も呼び戻そっか。」
「大丈夫じゃない?女一人だし、ウチらでも消せるっしょ。」

な、なんてことをっ…!?
ギャル達が歩み寄ってきた。そこで初めて気付く。彼女達の着物が所々、赤黒く汚れている。まるで血しぶきでも浴びたような……

「っあ!」

血しぶきには見覚えがあった。この部屋へ来るまでに見た、あの白い障子に散る…鮮血。

「ッ土方さん!逃げましょう!」
「あァ?なんだよ急に。」
「あの人達、本気で攻撃してきますよ!服の血が証拠です!」
「…あれは、」

「副長ォォォォォ~!!!」
―――ドタドタドタッ

大きな足音と共に部屋へ駆けてきたのは、

「ぬァァァッ!俺の部屋がァァッ!!」

部屋の持ち主、山崎さんだった。

「副長ォォッ……っ、あ…」

ギャル達を見つけ、顔を引きつらせる。反対に、ギャル達は山崎さんにニタッと笑んだ。

「なんだ、山崎じゃーん。」
「ウチらと遊びたくて戻ってきたの~?」
「い、いやあの…い、今はタイムで!」

手でTの形を作る。

「はァ~?タイムとかないし。」
「ほんのちょっと副長に報告するだけですから!フェアプレー精神でお願いします!」
「そんなこと言いながら連れ出す気なんじゃないでしょうね~?」
「そんなことしたらマジ吊るすよ?山崎。」
「ヒィィッ!!」

吊るす…?
震え上がる山崎さんは、「わかってますってば!」と両手を上げた。

「俺はここで報告するだけだと誓います!」
「…じゃあ三分ね。三分で終わらせて。」
「はい!」
「ねぇ、今のうちに化粧直ししておかない?あとで直す時間ないかもだし。」
「だね~!ドロドロの顔で土方さんの隣に並べないも~ん!」

キャッキャする姿は、どこにでもいそうな可愛らしい女性。武装なんてしていなかったら、あんな本性が隠れていることに全くもって気が付かないだろう。
女って怖いな……。

「山崎、報告。」

土方さんの声に、山崎さんがハッとした様子で敬礼した。

「副長!屯所が制圧されてしまいました!」
「…見りゃ分かる。」
「や、山崎さん…。まさかそれがタイムを取ってまで報告したかった話?」
「っち、違うよ!本当に報告したかったことはこれから!」

…強がってるようにしか見えないけど。

「ならさっさと話せ。」
「はっはい。屯所に残っていた隊士は例年通り『吊るし刑』を受け、庭にて晒し者にされています!」

吊るし刑…?え、なに怖っ。初めて聞いた刑なんですけど…。

「あの、『吊るし刑』ってどんな…」
「近藤さんは?近藤さんはどこにいる?」

土方さんが切羽詰まった様子で山崎さんを問い詰めた。山崎さんは口をギュッと閉じ、首を振る。

「……すみません。俺だけじゃ護りきれなくて…」
「!?」
「ッ、何やってんだよ!」
「っ…すみません。」
「くそっ、」
―――ドンッ

拳を畳に打ち付けた。

「あの人は…っ今年、捕まるわけにはいかなかったんだ!山崎、お前も分かってたはずだろ!?」
「そ、そうですけど…局長は『俺よりトシを護ってくれ』と。」
「当たり前だ!あの人は…っ、自分の身より俺の身を案じる男なんだよ…!そんなこと、誰でも知ってることだろうが!」
「…すみませんでした。」

な、なんか深刻…?こんなにまで真選組を追い詰める彼女達って一体…。

「…副長。俺が行ってきます。」

山崎さんは覚悟した様子で頷いた。けれど土方さんが溜め息混じりに告げる。

「今さら行ったところで意味なんてねェよ。」
「でも局長に――」

「はいそこまでぇ~。」
「タイムリミットだよ、山崎。」

「えっ…あ…も、もう三分…?」
「そ♡三分。」

ばっちり化粧直しを終えたギャル達に、山崎さんが顔を引きつらせる。

「約束したよね?山崎。」
「三分経ったら、近藤さん達の所へ連れてってあげるって。」
「ぅえ!?俺そんな約束した記憶ないけど!?」
「ひどーい。真選組が嘘つくんだぁ~。許せなーい。」
―――ガシッ

…確かにそんな音が聞こえた。ギャルの一人が山崎さんの肩に手を、いや肩を掴む。そして、

「お前も今から吊るし刑だかんなっ☆」

可愛らしくウィンクした。

「っお、俺にそんなことしてもいいんですか!?」
「「?」」
「俺はっ、沖田隊長と繋がってるんですよ!?」

それって…どういう意味?
土方さんも同じ疑問を抱いたようで、

「何言ってんだ?アイツ…。」

怪訝な顔をする。
だがギャル達は違った。山崎さんの言葉に舌打ちする。

「だったら…見逃すしかないじゃん。」

……そうか、沖田さんは彼女達側へのバズーカー提供者。だけでなく、

「あのバカ、内通者だったのか…!」

完全な敵だったということだ。その上で先程の山崎さんの発言を考える。するとどうだろう、山崎さんはそれら全てを知っていて行動していたということにならないだろうか…。

「…土方さん、山崎さんって…」
「……ああ。」

土方さんも結論に至ったらしい。

「コイツは総悟の目、つまり総悟の密偵だったっつーことか。」
「っち、違いますよ!?俺はどちら側とかなく両方に」
「両方に良い顔してたってか。」
「え!?そ、そういう言い方すると…アレですけど……」

目をそらす。

「…おいお前ら、」

土方さんがギャル達に声をかける。

「お前らが山崎をやらないなら、俺がシメるぞ。」
「え!?」

うわ~…。

「どうする?どっちがやる。」
「え~どうしよっかなぁ~☆土方さんのカッコいい姿も見たいけど、沖田さんを裏切るのはちょっとぉ~…」
「ていうかさぁ、沖田さんに仲間なんていなくない?『隊士は全員やっていい』って言ってたしぃ。」

おいおい沖田さん…。

「あ~!そうだよねー、じゃあ土方さん♡山崎は私達が吊るしますぅ~!」
「わかった。」
「ふっふふふ副長!?」
「裏切り者を守る義理はない。」
「そんなァ~っ!!」

叫ぶ山崎さんの首元に、ギャルの薙刀が突きつけられた。

「副長ォォ~!!」
「ジッとしてよ山崎。」
「動くとスパッといけないよ~?」
「だずげでェェ~ッッ!!」

山崎さんの声が騒がしい空気の中、

「早雨、」

隣にいる土方さんはコソッと私を呼ぶ。

「気付かれないように、前見て聞け。」
「は、はい。」
「この後、俺がアイツらを引きつける。お前はその隙に部屋から出ろ。」

えっ…

「それだと土方さんは…」
「すぐ行く。」
「……、…わかりました。」

返事をすると、土方さんはすぐさま彼女達に声をかけた。

「おいお前ら、」
「きゃっ☆何ですか土方さぁ~ん。」
「土方さんに話しかけられるとかマヂ天国ぅ~!」
「「きゃ~っ♡♡」」
「……。」

一言発しただけで、この威力…。凄まじい。今の今まで薙刀を突きつけられていた山崎さんすらアウトオブ眼中になっている。…懐かしいな、この言葉。

「お前ら今日が何の日か分かってんのか?」
「え?んもうっ♡そんなの当たり前じゃないですかぁ~。今日は我らが土方さんの誕生日!」
「だからここに来てるんだも~ん♡」
「だよなァ?」

土方さんは頷きながら山崎さんのいる場所、つまりは廊下とは反対の方へと足を進めた。壁に背を預け、少し気怠そうにして彼女達を見る。

「なら何でお前らは俺を捕まえようとしてんだ?」
「やだ~捕まえようとなんてしてないし~♡」
「そうそう~♡ウチらはプレゼント渡したいだけですよぉ♡なのに土方さんが逃げちゃうからこうなっちゃうだけで♡」

…嘘だ。くねくね話してるわりに、彼女達の目は血走っている。あの目は獲物を狙う目。隙あらば土方さんを拘束、そしてボディタッチを試み、その他諸々の機会を狙っている目だ!

「だから受け取ってくださいよぉ♡」
「…受け取りたくても、こうなっちまったら無理だろ。」
「え?」
「屯所を破壊して、隊士までシメ上げて。…俺に何枚、始末書を書かせる気だ?」
「そ、それは…」
「このザマじゃ当面は始末書に追われて市中見廻りにも行けやしねェ。」
「っそんなぁぁぁ~!」
「ウチらが唯一土方さんと会える機会なのにぃぃ~!」
「よく言う。自業自得じゃねーか。」

土方さんは懐から煙草を取り出し、火を点けた。ふぅ、と煙を吐き出し、

「普通はよ、」

ギャル達を見る。

「誕生日っつったら、そいつを想って行動する日じゃねーのか?それをお前らは押し付けがましく…。」
「っち、違いますぅ!ウチらはっ」
「分ァってる。押し付けてない、歪んでるだけ。だよな?」
「!?歪んでるなんてっ…!」
「なら俺がこの現状を喜んでると思ってんのか?」
「「!」」
「やっぱり歪んでるじゃねーか、お前らの価値観。」

ちょ、ちょっと土方さん…責めすぎじゃない?彼女達に言いたくなるのは分かるけど、

「……ウチらは、」

もし今この人達に逆ギレされたら……

「ウチらは悪くないっ!」

ほら~、ヒートアップしちゃう~。

「ただ土方さんのことを好きなだけで…っ、そんな言い方されたら傷つくし!」
「なんで分かってくれないの!?」

私も逃げるタイミングが分かりません……。

「分かってほしいなら誠意の一つでも見せろよ。」
「…誠意?」
「挽回のチャンスをやる。」
「えっ」

土方さんは彼女達に挑発的な視線を向けた。

「俺を喜ばせてみろ。」
「「!!」」
「どんな方法でもいい。俺が喜ぶと思うことを今やれ。」

ギャル達の頬がポッと赤くなった。含みのある言い方に何を…いや、ナニを想像したのだろうか。

「しねェか?」
「シます!でも…どっちが先にする?」
「いい、二人で同時に来い。」
「「!!!」」

え、ちょっ…なにこのピンクな展開!

「ご……」

ご?

「「ご奉仕させていただきますぅぅ~!!」」

ギャル達は目を輝かせ、鼻息荒く土方さんの方へ駆け出した。

「ちょっ、土方さん!?」

大丈夫なの!?
しかし土方さんは駆け寄る二人を見据え、腕を広げた。

「…来い。」
「っえ、本気!?」

…そして、

「「きゃあァァァ~ん♡♡」」

土方さんの姿は、ギャル達の欲望の中へ堕ちていった。

にいどめ