時間数字15

残せたモノ+気持ちと気持ち

あのミツバさんの一件から、一ヶ月。
一ヶ月が経った。
もうあの日のことを話す者はいない。今や関わった者達だけが、個々に思い出す程度となった。

それでも、
沖田君、土方さん、近藤さん、山崎さん。
私も含め、想いの形や程度は違えど、簡単に色褪せることはない。

「…、」

今でも私は、時折、探してしまう。
二の腕にあった、あの数字。

「10回もあったのに…。」

思い出す度、後悔する。
人のために使うと言いながら、最後まで自分勝手な使い方をしてしまったこと。

何も残せず、誰の役にも立てず。
病と闘うミツバさんも、悲しむ沖田君も、苦しむ土方さんも…誰一人として救えなかったことを。

『人が死ぬってのは……いつまで経っても慣れねェもんだな』

あんな想いを何度もさせるために時間を戻したわけじゃないのに。

「…。」

本当に……私は一体、何をしていたんだろう。

『…紅涙。』
「!?」

突然聞こえた土方さんの声に、心臓が飛び跳ねた。見れば、障子に影が映っている。

「はっ、はい!?」

平静を装い、ひとまずその場に正座した。

『ちょっといいか。』
「どっどどどうぞ!」

全く平静を装えてないな…。
土方さんが障子を開ける。着流し姿だった。

「あれ…?今日ってお休みでしたっけー。」
「いや、半休にした。」

半休と言えど、時は既に夕方。休みの取り方は土方さんらしい。

「お前もな。」

アゴで小さく差される。首を傾げた。

「私も、何ですか?」
「お前も半休。」
「…え?」

なんで?

「……アレだ、…ほら。前に…話してたヤツ。」
「前?」
「おう。そのために…、…休みにした。」

…どのため?
さらに首を傾げる私に、土方さんはわずらわしそうに溜め息を吐いて、「だからアレだよ」と続ける。

「その…、…。…っ、…ペドロだ!」
「ペドロ……、」
「今から……観に行かねェか。」
「!」

土方さんは少し恥ずかしそうに目をそらした。
単純に自分から映画を、しかも『ペドロ』を誘うことへの恥じらい……だろうけど、

「っ行きます!」

そんな思いをしてまで誘いに来るなんて、余程のペドロ好きなんだな。…良かった。

「覚えていてくれて嬉しいです。」

私との映画の約束、忘れられてなくて良かった。

「…忘れるわけねェだろ。」

顔をそむける。赤い耳をこちらに見せ、

「行くぞ。」

背を向けた。

「あっ、ちょっと待っててください。すぐ着替えますんで――」
「そのままでいい。」
「え!?でも私、隊服だし…」
「構やしねェよ。行くぞ。」
「え~!?」

こういうところ、もう少し女子目線を分かってほしいなぁ…。

「っあ、待ってください土方さん!」

足早に歩く土方さんを追いかけ、街に出る。
もうすぐ日が暮れるという街中に、着流し姿の喫煙者と隊服の女。…いつぞやの反対だ。

「…土方さん、」
「ん?」
「私達、恋人同士に見えてますかね。」

ニヤニヤしながら土方さんに問いかけてみる。土方さんは私を横目にチラりと見て、

「かもな。」

短くそう言った。

「……え?」

ここは…前と同じ『ねェな』でしょ?前と同じ質問なんだから。…っていうか、『かもな』って……

「ええ!?」
「…っせーな。」
「見えますか!?私達が恋人同士に!?」
「なんだよ、お前がそう言ったんだろ?」
「言いましたけどっ…私、隊服ですよ!?副長の土方さんが着流しで……どう考えても休日に偶然会った上司と部下でしょ!」
「そう言ってほしかったんなら始めからそう言え。」
「いやっ、そうじゃないですけど!」

…あれ?私がおかしいのか?
私達は恋人同士でもいい…のか?いや私はいいけど、今の言い方だと土方さんも大して気にしていないような……、あ。

「そっか。」
「今度は何だ?」
「いえ…なんでもないです。」

恋人がどうとか、そんな次元の話に気を留めなくなったんだ。
土方さんの心にはミツバさんがいる。
愛する人という枠で永久欠番になったミツバさんがいるから、もうその類の話に反応しなくなった。…なんか……、

「……、」

…ちょっとショック。
しかも自ら蒔いた種で傷ついた。これではわざわざ自分から怪我をしに行ったようなもの。せっかく今から映画だというのに。

「はぁぁぁぁ~…。」
「なんだよ、その長ェ溜め息。」
「体内の毒気を吐き出しておきました。」
「あァ?」
「これで大丈夫です!」
「何が。」
「ペドロ、楽しみましょう!」
「……言われなくてもそのつもりだ。」

怪しむような目つきで私を見た後、

「お前、俺がどれだけ楽しみにしてたか知らねェだろ。」

前を見る。目を細め、

「やっとなんだ。」

そう話す先には、映画館があった。
まさかそこまで心待ちしていたとは…失礼しました。

「じゃあ私、チケット買ってきますね!土方さんはポップコーンでも――」
「ある。」
「?」

袂(たもと)からスッと何かを取り出す。

「っ、チケット!?」

しかもちゃんと2枚持っている。

「いつ買ったんですか!?」
「買ってない。昨日貰った。」
「貰った!?誰に!?」
「総悟。」
「っ…!?」

意外すぎる…!
目を丸くする私を、土方さんが鼻先で笑った。

「やっぱありえねェよな。だから俺はこれが偽造チケットなんじゃねーかと疑ってる。」
「ま…まさかそこまでするような人では……」
「…。」
「……。」

いや…やり兼ねない。
私達は互いの顔を見合わせ、意を決してたように前を向いた。妙な緊張感が二人を包む。

「準備はいいか。」
「はい…!」
「俺が2枚まとめてゲートのスタッフに手渡す。紅涙は自然に歩け。」
「わかりました。…ところで土方さん。」
「なんだ。」
「先にポップコーン買ってきてもいいですか。」
「…。」
「…。」
「……わかった、塩のみ許可する。」
「了解!」

私はすぐさまポップコーンを買いに行き、土方さんの元へ戻った。ほんの僅かな時間だったのに、喫煙所を探すような素振りをしている後ろ姿を掴まえ、二人で再び問題のゲートへ向かう。

「チケットを拝見します。」
「あ、ああ。」

スタッフにチケットを差し出した。
2枚のチケットをジッと見た後、スタッフは顔を上げる。

「ペドロⅡですね。5番スクリーンへどうぞ。」
「「…、」」

二人して安堵したのは言うまでもない。
スタッフから半券を受け取り、5番スクリーンを目指す。

「沖田君にお礼言わなきゃですね!」
「そうだな。」

怪しんでゴメンよ、沖田君!

「あ、でも土方さんが貰った物だから…私がお礼を言うとややこしくなるのかな。」
「いや、これは俺と紅涙にって貰った。」
「え?」
「『二人で観に行け』ってよ。」
「えっ、なっ…なんで…また……」

…沖田君。まさかとは思うけど、あなた…
余計な気を回した!?いらないから!こういう展開を作ってくれなくていいから!!

「詫びのつもりだろ。」
「へ……、」

…詫び?

「お詫びされるようなことなんて……」

『……ありがと』
「…私、何もしてないよ?』
『うん。でもありがと』
『…、…意味わかんないこと…しないでよ』
『ん』

ああ…あの時の…。

「…べつにいいのに……こんなことしなくても。」
「気が済まねェんだろうさ。」
「…。」

沖田君…。
そういうことなら…ありがたく観させてもらうよ。…ありがと。

「紅涙、こっちだ。」

土方さんが半券を頼りに座席を見つける。
公開日から少し経っていたこともあり、お客さんは片手で足りる程度しかいなかった。

「ああ、あと総悟からの伝言。」
「伝言…?」

なんだろ、わざわざ。
べつにこの一ヶ月、沖田君と口を利いてこなかったわけじゃない。普段通りに会話してきた。今日だってそう。
…まぁさすがに、お昼寝して追いかけられるような賑やかさは、まだ取り戻せていないけど…。

「どうして…わざわざ土方さんに伝言を…」
「面と向かっては言えねェんだろ。ったく、妙なプライドばっか成長させやがって。こじらせてんだよ、アイツは。」

館内の照明がゆっくりと落ち始める。土方さんの顔も見えづらくなった。

「それで…沖田君は何と?」
「…『素直に生きろ』って。」
「!」

…私には、

「『テメェをごまかすな』ってよ。」
「…、」

私には、
それがいつもの意地悪な、皮肉めいた沖田君の言葉には聞こえなかった。
大切な人を亡くし、想いを告げなかったミツバさんを見てきたからこそ……かけてくれた言葉だと。

「沖田君…っ、」

そう感じた。
きっとこの映画への招待も、冷やかしなんて気持ちは1ミリもなく。

『俺にしなせェ』
『野郎なんて、すぐに忘れさせてやる』

純粋に、背中を押してくれた。私を……想うが故。

「っ…、」
「なに泣いてんだよ。」
「…すみません、…なんか…、色々感じちゃって…。」

へへっと笑い、涙を拭う。

……ありがとう、沖田君。
私のことだからすぐには変われないだろうけど…沖田君が言ってくれたように、素直に生きられるよう頑張るよ。

「…なァ。」
―――ポン…
「?」

不意に、頭の上に優しい重みがのる。その重みは、ポンポンと私の頭に触れた。

「覚えてるか?屋上のこと。」

土方さんはそのまま私の頭の上に手を置く。

「屋上…、病院の?」
「ああ。あの時、お前の話をあとで聞くって言っただろ?」
「……よく覚えてますよ。あの時聞いてほしかったのに、『今聞かない。後日でいい』って後回しにされましたからね。」
「拗ねんな。」

クスッと笑い、

「あれな、」

土方さんの手が、私の頭の上から下へとゆっくり滑り落ちた。まるで髪を撫でるようにして触れるその手の感覚に、思わず背筋が伸びる。

「っ…ひ、土方さん!?」
「ん。」

『ん』!?『ん』って何!?

「あの時紅涙の話を聞かなかったのは、俺の計画のためだった。」
「…計画?」
「そう。」

スクリーンに映し出された映像が、光となって私達を弱く照らす。その明かりの中で見えた土方さんは、

「紅涙、」

これまでで一番、穏やかな微笑みを浮かべていた。

「お前のことが好きだ。」
「っ!?」

えっ、

「っええ~ッ!?」
「声がデカい。」
「っっ、だって…!」
「これをお前より先に言うためにやり直したんだ。」
「…………え?」

引っ掛かる言葉に、吹き飛んだ冷静さが戻ってくる。
『やり直した』?いや違う、その前に……

「ちょっと順を追って……いいですか。」
「何を?」
「気になることが…いくつかありまして。」
「どうぞ。」
「…土方さんには…、……いますよね。……、…好きな人が。」

『ミツバさん』、と口に出来なかったのは、私の心が弱いせい。その名を口にすると、その人に挑まなければいけないような気がして…怖かった。

「いる。」
「っ、だったら」
「紅涙だ。」
「っっ…、……そう…じゃなくて…、…、」

土方さんの言葉に、いちいち心臓が高鳴る。
けれど頭の中では真逆だった。そんなはずがない、ぬか喜びになるぞと何度も言い聞かせている。

…そうだ。
おそらく土方さんは、私のことが好きだと自身に言い聞かせようとしている。そうすることで傷ついた心を癒し、前を向こうと……

「違う。」
「!?」
「…お前、今俺を最低な男に仕立てあげようとしただろ。」
「なっ!?ちっ、違いますよ!ただっ…絶対私のことなんて好きじゃないのにって……思って…。」
「なんでそう言えんだよ。」
「…好きそうな素振りとか…ありませんでしたし。」
「はぁァ~!?」
「っ土方さん、声!」

今度は私が土方さんの声量に慌てる。
近辺に座っている人はいないけど、十分に響き渡ったはずだ。

「上映中はお静かにですよ!」
「お前本気で言ってんのか!?」
「これは映画館のマナーですので…」
「そうじゃなくて!」

土方さんは「あー…」と呻き、眉間を指でキュッと握った。

「まァそう思わせてたんなら、周りのヤツらも気付いてなかったってことだよな。総悟を除いては。…いや、単に紅涙が鈍いだけか?」
「…土方さん?」
「……とにかくだ。」

再び私と目を合わせ、

「俺は前から好きだったぞ。」

しれっと告げる。

「ま、前から…?」
「それがいつかなんて聞くなよ。わかんねェから。」
「ほ…本当に?」
「ああ。隊士の模範であるべき俺が部下に手を出すのは頂けねェし、悪い虫が付かねェよう補佐に就けるしかねェかって算段するくらいには好きだった。」
「っうっ、うそ……」
「しつこい。」

うっ…ど、どうしよう…、顔……熱くなってきた!

「総悟にも見抜かれてただろ。」

『副長補佐ねェ…。土方さんはあくまで飼い猫を外に出す気はないと』

「まァ大した事件がなけりゃァあのまま補佐にして、今も上司と部下をやってただろうが……色々あったからな。」
「じゃあ…」

つまり…

「あの事件がなかったら……今はなかったと。」

良くも悪くも、ミツバさんがいなければ……

「…そりゃどういう意味で言ってる?」
「えっ…いや……」
「わざわざ暗ェ方に考えるな。」
「っ、そうは言っても……。」

ミツバさんの存在が…あまりにも大きくて…。

「あのなァ、」

目を伏せると、土方さんは盛大な溜め息を吐いた。

「いい加減、俺を何十年も前の話を引きづる男から解放してくれねェか?」
「だっ、だって…言ってたじゃないですか。『惚れた女には幸せになってほしい』って。」
「あれのどこが引きづってんだよ!」
「引きづってますよ!『幸せになってほしい。俺は今でも想ってる』って言ってるじゃないですか!」
「言ってねェ!!」
「言いました!」
「俺は『これまで一度でも惚れた女は』って意味で言ってんだ!」
「なんですかそれ!何様発言ですか!ゼウス!?ゼウス神!?」
「っせーな!!」

「あー、ちょっといい?」

「「!」」

割り込む男性の声に二人でハッとする。さすがに今のは声を張りすぎた!

「っすみま――」
「悪ィッ――」

ほぼ同時に謝罪を口にした時、その人を見て驚く。

「ゼウスでもゴッドでもいいんだけどさァ、映画館で映画見ないんなら出て行ってもらえる?」
「万事屋…!」
「坂田さん!」
「だからそれがうるせェって言ってんの。」

ポップコーンを片手に、坂田さんはわずらわしそうに私達を見た。うんざりした顔つきで真ん前の席に座る。

「ったくよォ、」

横目でこちらを見て、ポップコーンを頬張った。

「警察のくせに、…もごっ。モラルも何も、もごっ、あったもんじゃねェのな。」
「すっ…すみません。」
「つか、制服で映画来るとかアリなわけ?もご。」
「こ、これはその…」
「アリだ。」
―――ガッ

土方さんが前の座席を蹴った。

「ぅおい!」

坂田さんが立ち上がる。

「ポップコーンが1つ落ちちまっただろうが!」
「モゴモゴうるせェんだよ。」
「はァ~!?映画館公認の食べ物だろうが!」
「だからって口に物入れて喋ってんじゃねェ。つーか、」

土方さんも立ち上がった。

「こんな空いてるのに、わざわざ俺達の前に座ってんじゃねェよ!」
「ここが一番見やすい席なんだよ!そうじゃなきゃ誰が好き好んでお前らみてェな出来損ないの前に座るか!」
「んだとコラァ!」
「やんのかコラァ!」
「ちょっ、ちょっと二人とも!!」

さすがに周りの視線が痛い。
いくら片手で足りる程の客数と言えど、観ている人がいる以上、この声量はかなりの迷惑だ。

「思えばテメェはペドロ1の時も俺の邪魔しやがったよなァ!」
「ちょっと土方さん!そこまでに…」
「テメェが変なとこで泣いて邪魔したんだろーが!!」
「坂田さんも落ち着いて…」
「変なとこじゃねェェッ!あれは相手を思いやる気持ちが痛ェくらい分かって」
「監督はそんなとこで泣くヤツがいるとは思ってねェよ!」
「脚本家は分かってくれる人間がいて喜んでるだろォな!」
「あァん!?」
「いい加減にしてください!!」
「「!」」

…たぶん今の私が一番うるさい。

「もう出ましょう、土方さん。」
「あァ!?まだ映画が終わってねェ!」
「冒頭も見逃しましたし、また始めから観に来ましょう?」
「…チッ。」
「おー出てけ出てけ。これで静かに見られるわ。」
「ッ万事――」
「土方さん。」

腕を引っ張る。

「行きますよ。」
「……覚えてろ、万事屋。」
「上映作品はお静かに~。」
「くっ…。」

話には聞いてたけど、これは正真正銘の犬猿っぷりだな…。
私は左手に土方さんの腕を、右手にポップコーンを抱き締め、小さく謝罪を口にしながら映画館を出た。

「あ~…大変だった。」

外に出て脱力する私に、土方さんが「悪かった」と謝る。

「アイツを見ると、どうも…。」
「そのようですね…。」

意気投合する時もあるみたいだけど、刀を持った極限状態じゃないと無理な程度には犬猿らしい。

「ろくにポップコーンも食べられませんでしたねー…。」
「今食えばいいだろ?」

そう言いながら、土方さんがポップコーンに手を伸ばす。

「…うん、久しぶりに食うと悪くねェな。」
「塩味、効いてます?」
「効いてる。」
「じゃあ私も。」

1つ取って、口に入れた。香ばしさと程よい塩味が広がる。

「おいし~!」
「…紅涙、さっきの話だけど。」
「はい?」

返事をしながらもう1つ食べる。土方さんは2つ食べた。

「お前の気持ちを聞いてない。」
「え」
「俺は上司でしかないか?」
「!」
「…。」

あまりに真っ直ぐな視線に、思わず恥ずかしくなって目をそらした。

「い…言わなくても……わかってるかと。」
「分かんねェな。そもそも、」

ガッとアゴを掴まれた。無理矢理に目線を合わされる。

「っっ!」
「総悟に言われたこと、忘れたか?」

『素直に生きろ』
『テメェをごまかすな』

「うっ…」
「言え。お前があの時言いたかったことを。」
「…っあれは、あの時言いたかったものなので……今は…。」
「今は違うってのか?」
「そ、そうじゃ…ないですけど。…アゴ、痛いです。」
「言ったら放してやる。」
「…、」
「…。」
「……、……き。」
「聞こえない。」
「…………好き…です。」
「……聞こえない。」
「今のは聞こえましたよね!?」

頬が熱い。もはや熱いのを通り越してヒリヒリする。…なぜか土方さんの頬も赤い。

「うるせェな。聞こえなかったんだよ。」
「絶対聞こえてました!」
「聞こえてねェ。俺が聞こえねェって言ってんだから聞こえてねェんだよ。」
「暴君!」
「…ああそうかよ。わかった、もういい。」
「え、」

なに?怒らせた?本気で聞こえなかった系!?
そのわりにアゴからは手が離れないけど…

―――チュッ
「!」

ふわっと私の唇に土方さんの唇が触れる。代わりのようにアゴを掴んでいた手が離れた。

「…嫌なら突き飛ばせ。そうじゃないなら、」

土方さんが言い終えないうちに、私は、

―――チュッ
「!」

キスをした。

「……伝わりました?」

はぁぁ…熱い。
顔から火が出そう。いや、もはや轟々と燃え上がっている。

「…ああ、伝わった。」

土方さんが小さく笑う。

「やっぱりやり直して正解だった。」

……、

「土方さん。」
「ん?」
「そう言えば、それ……どういう意味ですか?」