緊急会議+興味の種
夜、副長室で書類に判を押していると、珍しく近藤さんが声を掛けに来た。
「どうした?」
「これから緊急会議を開く。」
緊急会議?
「…こんな時間にか?」
「ああ…ちょっとな。」
公には出来ない内容か…、…相当だな。
「わかった。」
部屋には既に総悟と山崎が座っている。…山崎?
「なんで山崎までいるんだ?」
こういう時は大抵、俺と近藤さん、そして隊の代表として総悟の三人で話を詰める。そこから指示を下ろしていくのが通例だ。なのに、
「お疲れ様です、副長!」
なぜ山崎が?
「ちゃっかり参加してんじゃねェよ。オラ、」
足で蹴る。
「ギャッ!ふ、副長!?」
「出て行け。」
「え!?いやっ、俺はっ…」
「トシ、お前に山崎の報告を聞いてもらいてェんだ。」
「山崎の?…何だよ。」
「攘夷志士についてです。」
「!」
一瞬、肝が冷えた。
攘夷志士は、幕府に喧嘩を吹っ掛けた命知らずな連中。大層な被害を出しつつも、主要メンバーが未だ捕まらない厄介者だ。
俺たち真選組は幕府の命を受け、江戸を護る名目で結成されている。だが実際は攘夷の取り締まりが目的。ついこの間も、その手の活動する者をしょっぴいたら随分と褒められた。
もし。
もし仮に俺達が攘夷志士を捕縛すれば表彰ものだろう。
…が、それは奴らが江戸へ入った瞬間に捕縛できた時の話。もしこれまで何年も江戸に潜伏していたということになれば、捕縛なんてもんは当たり前で、見つけ出せずにいたことを罰せられる。…下手すりゃ俺達の首が飛ぶくらいに。
「…続けろ、山崎。」
願わくば、近々江戸に入るとか、既に死んでいたとか、その程度の情報であってほしい。…なんて、我ながら平和ボケした考え方をするようになったもんだ。
「先日に捕らえた攘夷浪士を覚えてますか?『まだ自分は賛同して日が浅いから』って釈放を求めてきたヤツ。」
「ああ。」
「そいつに司法取引を持ち掛けたんです。そしたら…」
「待て。」
司法取引…?
「なに勝手なことしてんだよ、山崎。」
「えっ…と、一応…沖田隊長には許可してもらいましたけど…」
「総悟だァ…?」
見れば、総悟が軽く右手を上げる。
「許可しやしたが。」
「なんでお前が許可してんだよ!」
「よく喋る上に玉の小さい野郎だったんで、拷問するより効果的かと思いましてね。」
「だとしてもお前にそんな権限ねェから!つーかなんで二人して俺に許可取りにこねェんだ!?」
「すっ、すみません…。」
「何事にもタイミングってもんがありますぜ、土方さん。あの瞬間に許可してほしかったのにアンタはいなかった。だから俺が許可して、事を進めた。それだけでさァ。」
「そんな易々と使えるもんじゃねーんだよ、司法取引は!」
「まぁまぁトシ、そのくらいにしておけ。今回は総悟の判断で掘り出し物があったんだ。」
「…掘り出し物?」
近藤さんが頷く。山崎が口を開いた。
「活動して日が浅いと言うだけあって、信ぴょう性の薄い噂話がほとんどだったんですけど、中には気になる情報もありまして。」
「なんだ。」
「それが……、」
キョロキョロと辺りを見回す。口元に手をやり、小声で言った。
「雲隠れしている主要メンバーは、常に連絡を取り合ってるそうなんです。」
……、
「……おい山崎。」
「はい?」
「お前、なんで小声でそれ言った?」
「え、だってかなりの極秘情報ですし…」
「どこが極秘情報だ!」
「ヒィィィッ!!」
「俺が攘夷志士でも連絡くれェ取り合うわ!!」
「トっ、トシ、声が大きい!この情報が外部に漏れたら大変なことに…」
「アンタまで何言ってんだ、近藤さん!この程度の情報、全く問題ねェよ!」
「ちと落ち着きなせェ、土方コノヤロー。」
妙に冷静な総悟が山崎を見る。
「先に要点を話さねェから面倒な話になるんでさァ。土方さんが短気で腐ったニコチンってことは分かってることだろ?」
「す、すみません…、」
「…いや今ニコチンは関係ねェから。というか総悟は内容を知ってんのか?」
「まァ許可した者として、先に掻い摘んだ程度には聞いてますぜ。」
…生意気な。
「で?何なんだよ、山崎。」
「は、はい、あの…攘夷浪士の情報を元に調査してみたところ…、……えっと…、…。」
「…なんだ。」
「あ、あの………」
山崎が妙な汗を掻き始めた。
「…?早く言え。」
「あの……、…は、…、……うです。」
「あァ?聞こえねェよ。」
「実は…あの…、……、」
まだゴニョゴニョと口ごもる。
…一発殴ってやろうか?と考えていたら、
「攘夷志士が…江戸に集まっているようなんです…。」
とんでもないことを口にした。
「……、」
江戸に攘夷志士…だと?
…マズい。事態は嫌な方向へ進んでいる。
「…見たのか?」
「全員ではありませんが、高杉を目撃しました。」
「っ、いつだ。」
「二日前です。」
「くっ…、」
「…近藤さん、攘夷って他に誰がいやしたっけ。」
「主要メンバーとして名前が挙がっているのは、桂小太郎と坂本辰馬、そして通称、白夜叉だ。」
「通称?そいつだけで通り名ですかィ。」
「白夜叉に関しては顔や名前が定かでないそうだ。ただ、相当な手練と聞く。」
「ふーん…、じゃあ俺ァ白夜叉担当っつーことで。」
「なに呑気なこと言ってんだよ!」
コイツは真選組がどういう状況に立たされているか分かってない。
「誰でもいいからとっ捕まえて来い!今すぐだ!」
「大丈夫ですよ、副長。目撃しましたけど、何かしそうな雰囲気はありませんでしたし…」
「動きがあってからじゃ遅ェよバカ!…くそっ、」