World Is Yours ! 1

密かな特訓 「おっ沖田君、沖田君!!」 登校してすぐ、紅涙が凄まじい形相で俺の元へ駆けて来た。 …チッ。もう気付いちまったのか。野郎、朝から考えっぱなしってことですかィ?発情期ですかコノヤロー。 「何ですかィ?騒々しィっ …つづく

それほど大切じゃない 8

決まっていたことだから 私は車から降り、車が動き出すのを待つ。 ……が。 「……?」 車がなかなか動かない。 運転席の土方さんは何か思案している様子で、 ―――バンッ… 「えっ…」 なぜか車から降りてきた。 「どっ、どう …つづく

それほど大切じゃない 7

なぜなら全ては、 土方さんに胸倉を掴み上げられながら、山崎さんは声高らかに告白した。 「だって俺っ…副長が好きなんですもん!!」「「「「……。」」」」 空気が止まる。が、その直後。 ―――キュルンッ! 山崎さんの目がハー …つづく

それほど大切じゃない 6

大切じゃない 愛断香の煙が視界を覆う。 不意に、よからぬ考えが思い浮かんだ。 もしかしたら、この煙を吸わなければ効果は消えないかもしれない―― 全く吸わないことなんて無理だけど、焚き終わるまで極力、息を我慢していれば…み …つづく

それほど大切じゃない 5

それほど 土方さんは薄らと笑んだまま動かない。 「…いいんですか?本当に。」 私…ほんとにキスしちゃいますよ? 「気持ちを込めて祝ってくれるんだろ?」 「そのつもりです。」 「なら何でもしてくれ。お前にならどんなことされ …つづく

それほど大切じゃない 4

結果からすると 「ここに座れ。」 土方さんが座布団を敷いてくれる。傍の机には、大量の書類が積み上げられていた。 「すごい量ですね…。これ全部に目を通すんですか?」 「もちろんだ。まァ今回は明日中に提出するものだから、普段 …つづく

それほど大切じゃない 3

重要に見えるが、 『幻に浸かりすぎるな』 万事屋さんの言葉を、土方さんは呑み込んだ。 「お前もだぞ、えーっと…?」 「紅涙です。」 「あー、紅涙な。」 「呼び捨てにしてんじゃねェよ。」 睨みつける土方さんに、万事屋さんが …つづく

それほど大切じゃない 2

いつだって 大江戸マートの買い物袋を片手に、私と土方さんは人目もはばからず抱き締め合った。 唯一救いなのは、今が夜で、ここは西遊郭店で、女性客の少ない場所だということ。もし土方さんのファンがいたら私はきっと明日から太陽の …つづく

それほど大切じゃない 1

きっかけとは あなたは知っているだろうか。 一人の遊女が起こした、あの切ない事件のことを。 禁止薬物を盛大に焚きあげ、老若男女関係なく『香り』を吸引させた、あの薬のことを。 これはその禁止薬物『愛染香』にまつまる、五月四 …つづく

腰間の秋水 10

腰間の秋水 目を覚ますと、なぜか俺は布団の中にいて、 「…何だ、これ。」 刀を抱き締めていた。刀は間違いなく俺の刀、村麻紗。 「刀を抱いて眠ってたのか?…気持ち悪ィ。」 こんなことは初めてだ。相当疲れていたのか、はたまた …つづく

腰間の秋水 9

別れの時 「ひゃッ…ぁ…ッ」 服を脱ぐことに抵抗はなかった。 出会った時もそうだったけど、刀身の私は鞘がなければ人で言う所の裸。 ただ、その上を撫で回される経験はなくて。 「ァあッ…やっ」 柔らかい舌が胸の頂に触れる度、 …つづく

腰間の秋水 8

泡の時間 着実に、土方様の中から刀の私が消えている。少しずつ弾ける泡のように。 『あ、ああ……、…そうだな』 目に見えて分かる様が、あまりにも酷だった。 それでも、言えない。『土方様の刀として来ていたんですよ』とは…言え …つづく

腰間の秋水 7

数十分後 「ん…っ…、」 紅涙にキスをした。一度したら、なかなか解放してやれなくなった。 啄ばむだけのキスなんざ、あまりにもガキすぎて…ぬるい。 「はっ…ぁ…、」 足りない。 舌を潜り込ませると、紅涙が息苦しそうに声を漏 …つづく

腰間の秋水 6

翌十二時 紅涙と出逢ってから、おそらくまだそれほど日は経っていない。思い返しても数日程度だろう。記憶があやふやで、大して自信はないが。 ただ不思議なくらい、長く連れ添った相手のように感じる。もう何ヶ月も、いや何年もずっと …つづく

腰間の秋水 5

二十三時 「どうした、紅涙。」 「……いえ。」 私が人の姿を得てから、今日で五日ほど経った。 相変わらず屯所の中を歩き回るようなことはなく、ひっそりと副長室の隣にある空き部屋で住まわせてもらっている。 …と言っても、ほと …つづく

水泡に帰す

「見つけましたよ。…真選組副長 土方十四郎。」 場所は真選組屯所。 開け放たれた広間の中央で明かりも付けず、その人は土足であぐらをかいて座っていた。自身の前に、一本の刀を置いて。 「……へぇ、」 鼻先で笑い、こちらを見る …つづく

腰間の秋水 4

十五時 「ところで村麻紗、」 総悟さんが土方様の部屋で腰を下ろす。 「今の名前は何なんですかィ?」 「今の…名前?村麻紗…ですけど。」 「そりゃあ刀の名前でさァ。俺が聞きたいのは人としての名前。」 「人として…、」 考え …つづく

腰間の秋水 3

十四時 「すごい…。」 私は鏡に姿を映して呟いた。 まさかちゃんと土方様と会話できる日が来るなんて…思ってもいなかった。いつもは話し掛けてくれる土方様に、届かない返事をするだけだったから。 『俺が折れちまうまで、頑張って …つづく

腰間の秋水 2

三十分 「村麻紗…だと?」 「はい!!」 女は自分の名を『村麻紗』と言った。 だが待て。村麻紗は俺の刀の名だ。そんな名前が人名として存在するだろうか。…否、到底存在するとは思えねェ。もしいたとするなら、よっぽど刀バカな親 …つづく

腰間の秋水 1

午前四時+一時間 刀。 刀とは常に傍にあり、常に俺たちに必要なもの。 近藤さんは言う。 『刀は武士の魂だ』 俺はそうは思わない。俺にとって刀は刀でしかない。 ただ敵陣を走り抜けるための道具。目の前の敵をなぎ倒すためだけの …つづく

正しい犬の飼い方 10

Lesson 10 明日、土方さんと離れ離れになった後に控えている真選組の戦いは、私如きが考えても恐ろしく危険。 当の本人が心の底から『大丈夫』と言っているかは分からないし、もしかしたら私に言えないような不安を抱えている …つづく

正しい犬の飼い方 9

Lesson 9 屯所の退去期限まで、残すところあと一日。 早々に移動した女中は多く、今や屯所で寝泊まりしているのは私を含めた三人ほどしかいない。というのも、今は自炊隊と命名された複数の隊士が女中仕事を担当しており、私達 …つづく

正しい犬の飼い方 8

Lesson 8 「紅涙ちゃん大丈夫?」 「っえ…?」 作業中、声を掛けられてハッとする。 「何だかここ数日、元気ないでしょ~。」 「あ…いえ…そんなことありませんよ?」 「そう?何かあったら遠慮なく言いなさいねぇ。手首 …つづく

正しい犬の飼い方 7

Lesson 7 確かに…、 確かに私はここ最近、仕事に時間を費やした。その面からすれば、土方さんの言う『好き勝手に忙しくした』に当てはまるかもしれない。 でも、全ては『覚悟』のため。土方さんといるためだった。この先何が …つづく

正しい犬の飼い方 6

Lesson 6 「それじゃぁこれも頼もうかねぇ。」 「わかりました!」 休憩時間も惜しいほど、私の仕事内容は増え、日々充実していた。立ち止まる暇もない。まさに文字通り、あちこち動い回っていた。 おかげで毎日、過ぎていく …つづく

正しい犬の飼い方 5

Lesson 5 紅涙は俺のことをどう見ているのだろうか。 人の視線とか誰がどんな風に考えてるとか、そんなこと…これまで気にしたことなんてなかったけど。 「…仕事、頑張ってくださいね。」 あんなに長い間、ろくに顔も合わせ …つづく

正しい犬の飼い方 4

Lesson 4 翌朝。 目を覚ますと、私は土方さんにくっつくように眠っていた。 「あ……。」 そうだった…、あのまま土方さんの部屋で眠っちゃったんだ。思い出すのは、昨夜の悪夢と現実の優しさ。 『お前は何も心配しなくてい …つづく

正しい犬の飼い方 3

Lesson 3 『お前はほんとに口だけだな』 あの時、土方さんは私に言った。 私は虚勢を張り、その言葉から目をそらした。目をそらして…忘れるつもりだった。なのに、寝ても覚めても頭にフワッと湧いてくる。自分が思っている以 …つづく

正しい犬の飼い方 2

Lesson 2 「土方さん、お茶をお持ちしました。」 「そこに置いておいてくれ。」 「……。」 彼と私は付き合っている。一度キスもした……はずなのに。 「土方さん、」 「んー?」 「次のお休みはいつですか?」 「ねェ。 …つづく

正しい犬の飼い方 1

Lesson 1 「あっあの…、つ、付き合ってください!」 恐れ多くも、女中の私が真選組の副長に告白した。 「どこに付き合うんだ?」 「い、いや、そうじゃなくてですね…。」 そ、そうだよね…、いきなり過ぎたよね。 的外れ …つづく

『正しい犬の飼い方』を読む前に…

いつもお越しいただき、ありがとうございます!にいどめせつなです。 このお話を読み進めるにあたって、少しだけ説明したいと思います。 このお話は、【犬の十戒】を軸に展開しております。ご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、 …つづく

結婚できない男 11

~相関編~ 「私、去年も真選組にいましたよ。」 「違う。お前がいるってのは、俺の彼女としているってことだ。」 「つまり…今年の誕生日は私という名の彼女が出来たから、祝え祝えとうるさい、と…。」 「……言うな。…恥ずかしい …つづく

結婚できない男 10

~合理編~ おもむろに、沖田君はポケットの中から小さな何かを取り出した。それを私達の方へ見せつける。 「控えおろーう。これが目に入らんのかー。」 細く、手の平サイズの黒い物体だ。…まさか、録音機?沖田君はその黒い物体を少 …つづく

結婚できない男 9

~流言編~ 土方さんに政宗さまが憑依して、政宗さまといい感じになっていたのに…煙草の香りが私を現実に引き戻した。 「ん?どうしたんだ、紅涙。」 「い、いえ…。」 目の前にいるのは土方さんなんだ。たとえ政宗さまみたいでも… …つづく

結婚できない男 8

~実存編~ 今のさり気ない私へのキス…。まるで欧米か!とツッコミたくなるような、こ慣れた額へのキスは一体……? 「あ、あの…、」 「What’s wrong?どうした、紅涙。」 それにこのルー語じゃない英語… …つづく

結婚できない男 7

~認知編~ 言い争いみたいになって、立ち去ってしまった土方さん。私としては、なんとか屯所へ帰ってしまう前に関係を修復したかった。おそらくその他大勢がいる環境では、今よりもっと聞く耳を持たなくなるから。 「そのためにも…っ …つづく

結婚できない男 6

~意識編~ 巡回へ行くため、裏で車と共に私を待っていた原田さんに土方さんが言う。 「原田、お前は屯所で待機。今日は俺と紅涙で行く。」 なぜか土方さんは急遽、自分が巡回へ行くと言い出した。 原田さんにはちょっとしたサプライ …つづく

結婚できない男 5

~同化編~ あの後の土方さんは、私が渡したBASARAのDVDを持って居間へ向かった。ケースを開け、デッキに入れる。本当に見るらしい。 「あ、あの土方さん、」 黙々と行動するものだから、つい私も付いて来てしまった。 「そ …つづく

結婚できない男 4

~執着編~ 「おい総悟、紅涙にそんなもん突きつけんな。」 政宗様が私に向けられた刀を手で押し、遠ざける。 「紅涙もやめろ。コイツが食えねェのは今に始まったことじゃない。」 「しかし!」 「ジッとしてることも出来ねェなら、 …つづく

結婚できない男 3

~依存編+欲望編~ 唇を離せば、政宗様は何とも言えない顔をしていた。いつもなら…… 『Mischievous girl!やってくれるな』 『あぁっ、政宗様っ…、』 すぐに抱き締め返してくださるのに…。 「政宗様…?」 「 …つづく

結婚できない男 2

~解放編~ 「返してください、土方さん!」 副長室の戸を勢いよく開ける。 部屋では珍しく机に向かっていない土方さんが、こちらに背を向けて座っていた。 「…来たか。」 煙草を片手に振り返る。待ち構えていたラスボスの雰囲気に …つづく

結婚できない男 1

~深層編~ よく晴れた日の昼下がり。 真選組屯所内にある食堂の大型テレビには、アニメが映し出されていた。 『久しぶりだな、真田幸村!』 『この時を待ちわびていた、独眼竜伊達政宗…。いざ尋常に!』 『『勝負!』』 食堂では …つづく

結婚できない女 4

~覚醒編~ 嗚呼…、政宗様の指が私に触れている。 「べつに、気にしてなかったんだ。」 まぶたに触れた指が頬へと滑る。 「俺の名前がお前の口から呼ばれようが、呼ばれまいが。どうでもよかった。」 政宗様の声が私の耳の奥で響く …つづく

結婚できない女 3

~接触編~ 「あの夜って…あんなことやこんなことって何だよ!」 「あの夜はあの夜!あんなことやこんなことでございます!!」 「答えになってねェし!」 政宗様が激しく動揺する。私はさらに一歩詰め寄った。その時、 「聞ーちゃ …つづく

結婚できない女 2

~憑依編~ 「えっ…?ひ、土方さん…今何て……?」 「だーかーらー、お前は取り憑かれてるんだってよ。」 何に!? というか、いきなり過ぎない!?取り憑くって、もっとこう『そう言えば轢かれた動物に涙してしまいました~』とか …つづく

結婚できない女 1

~切欠編~ よく晴れた日の昼下がり。 真選組屯所内にある食堂の大型テレビには、アニメが映し出されていた。 『Are Your Ready Guys?』 『YEAHHHHHH!!』 食堂では女中が忙しく動いている。 そんな …つづく

さよなら、の日 2

卒業生退場 最後のホームルーム。教壇に立つ銀八先生は「昨日、」と話し始めた。 「寝る前に、色々とこれまでの日々を思い返してみた。」 銀八先生もそんなことするんだ…。 「いや~、どれも吐き気がするような思い出ばっかだったわ …つづく

さよなら、の日 1

卒業生入場 3年Z組の教室前で、 「…よォ。」 「土方君…、おはよ。」 「お前、暗くねェ?」 土方君が後ろから声を掛けてきた。私は振り向いて、「ん」と曖昧な笑みだけを返す。 「ンだよ、女々しいヤツだな。」 「だって…もう …つづく

夏の思い出 6

花火と花火+思い出の始まり 「あっ、私あの花火好きです!」 「わかる。あの枝垂れるやつな。」 小高い丘の上で、たった二人きりの花火鑑賞。 後にも先にも、ここへ来たのは山崎さんだけだ。…というか、山崎さんはまだあの茂みの中 …つづく

夏の思い出 5

あと3cm+念願の

合コンを抜けて、土方さんと夜の街を二人で歩く。
ネオン街を出た辺りから、妙に浴衣を着た人たちが目立ち始めた。

「今日は何かあるんですかね。」
「知らねェのか?」
「え?」
「今日は……いや、なんでもない。」

いや、何でもなくないでしょ。

「何があるんです?お祭り?」
「まァそんなもんだ。」

なぜ隠す!?
…でも土方さんはそれがあることを知ってたってことだよね。
つまり知ってた前提で私を連れ出したと。
つまりつまり、そこに私と行きたかった、…ってこと?キャー!!うれしー!!

「今から行くところは、そのお祭り関係ですか?」
「行きゃ分かる。それまでは内緒だ。」

内緒バンザイ!
私は興奮冷めやらず、土方さんに手を引かれるままウキウキで歩いた。……が。

「ちょ…あの、土方さん?」
「あァ?」
「どこに…っ行く気ですかね。」

予期せぬ事態。
ステキな夜の想像とは裏腹に、今なぜか私達は険しいあぜ道を歩いている。
葉っぱが足にガシガシ当たって痛い。
たまに背の高い植物が顔を叩いてきて痛い。なんか色々痛い…。

「もうちょっとだ。」

何が!?
『もう歩きたくない!』なんて言えるわけもなく、「はーい」と返事をして大人しく歩いた。
唯一の救いは、ずっと土方さんが手を繋いでくれていたこと。
それだけが私のモチベーションを保っていた。

「…ついた。」

ようやく足を止める。
そこは今まで歩いてきた道が嘘のように、だだっ広い場所だった。芝生のような綺麗な草が生え揃っている。その上、

「うわ……すごい!」

海まで見えた。
目の前の視界は森の茂みが半分と、暗くて水平線が消えている黒い海。

「高いだろ?だいぶ登ってきたからな。」
「こんな場所、知りませんでした…!」

近くには民家もなければ、人の気配もない。
とても静かで不気味に感じそうなくらいなのに、そう思わないのはたくさん星が出ているからだと思う。

「ここにはよく来るんですか?」
「いや、総悟が…、…部下がサボりに使っててな。それで知ったんだ。」

土方さんは大きな木に寄り掛かるようにして腰を下ろす。

「こっち来いよ。」

…嗚呼、神様。私、今かなりヤバイです。
ほんと…ドキドキし過ぎで息とか上がってませんかね。鼻の穴とか広がってませんよね?

「し…失礼します。」

土方さんの左隣に座ってみる。
ぴったり引っ付くのはさすがにどうかと思って、少しだけ隙間を開けた。
もちろん埋めたい距離ではある!だけど大胆すぎる行動はダメだ。

「花火大会。」
「え?」
「今からあんだよ。」

煙草を取り出し、火の点いていない煙草を口に咥えたまま土方さんがフッと笑う。

「さっき浴衣着てるヤツらが多かっただろ?アレだ。」
「ああ!そうだったんですか!」

江戸の花火大会、今日だったんだ!すっかり頭から飛んでたなぁ~。

「俺は花火なんて興味ねェんだけどよ、」
「そうなんですか?」
「ああ。いつもなら忘れて、音がして思い出す程度だ。」

私は「そうなんですか」と相槌を打ちながら、土方さんが煙草に火をつける様子を目に焼き付けていた。
この人の火をつける姿…何度見ても絵になる。これなら絶対に禁煙なんてさせられない!!

「けど今日はなんか思い出したんだ。」

煙草に火をつけ、一息吸った土方さんが空に息を吐き出す。

「なんでか、紅涙と花火を見たいと思った。」

やだ私…死んじゃうわ。この人に心臓掴まれて死んじゃうよ!

「会ってまだ短ェ時間だけどよ、そんなの」
「そんなの関係ないです!!」
「…お、おう。そうだよな。」

出会ってからの時間なんて関係ない!
少なくとも私は一目惚れみたいなもんですよ!!

「お前と話してると、何か楽なんだ。いや楽になれるっつーか…癒されるっつーか。」

土方さんはふうと煙を吐き出し、それを右手に持ち直した。

「紅涙…、」

空いた左手を、私と土方さんの間にある微妙な距離につける。
身体を支えるようについたその手は、私の方へと土方さんの唇を近づけた。

ああ…最高だ。私、土方さんとチューしちゃう。
合コンやって良かった…!友よ、お妙さんよ、ありがとう!!
ゆっくりと目を閉じる。唇まで、あと3cm…。

「……、」

息を止めて、目を閉じて。
すぐそこに土方さんの熱を感じる。皮膚がザワザワしてくる。
ああ…っ、いよいよ土方さんの唇が…ふ…触れ……

「副長ォォォォッ!!」
「「っ!?」」

どこからともなく叫び声が聞こえてきた。
けれどそれは必死に捜しているような感じではなく、

「天誅じゃァァァァ!!!」

憎しみを含んだ、地鳴りのように突き上げる叫び声。
未だ姿は見えないけど、随分とお怒りであることは充分に伝わってきた。

「…山崎の野郎。」

土方さんの眉間に皺が寄る。
山崎さんよ…、
もしアナタのせい二度と土方さんとキス出来なかった時は……滅殺しますよ。

――ガサッ
「ん見つけたァァァァ!!」

茂みの揺れと同時に、刀を振り上げた山崎さんが顔を出した。
傍にお妙さん達の姿はなく、どうやら山崎さん一人で来たようだ。

「…テメェ、」
「抜ゥ~けェ~駆ァ~けェ~!!」

クワッと開いた山崎さんの目は恐ろしいほどに恨みがかっている。私は彼を見ながら顔を引きつらせて笑った。

「おお落ち着いてください山崎さん!」
「落ち着いてられるかァァ!!」
「ヒッ…」
「紅涙、すまねェな。アイツ、ほんと空気を読めねェヤツでよ。」

そういう問題じゃなくない!?
土方さんは山崎さんの方を向きながら煙草に火を点ける。

「待ってろ、すぐに終わらせてやる。」

口に煙草を咥えたまま、ニヤッと笑う。
こんな時でもいちいちカッコイイ…!

「天誅じゃァァァァァ!!!」

山崎さんが何度目かの雄叫びを挙げる。
丘に響いた声が反響する前に、土方さんの姿が私の視界から消えた。

――ガキィィンッ

茂みの中から聞こえる甲高い金属音。
その後、「ギヤァァァァァ!!」と濁った悲鳴が続いた。ま、まさか…

「馬鹿が。」

土方さんが刀を振り払って歩いてくる。
ということは、あの悲鳴は山崎さんで…
刀を振り払ってるということは、何かが付いたというわけで……。

「ひじ…、土方さん…?」
「終わったぞ。」

『終わった』!?

「まままさか山崎さんを斬ったんですか!?」
「ああ。斬らねェと収まりつかねェからな。」
「どえぇェェ!?」
「んな驚くことねェだろーが。逆刃だ、逆刃。」

あ、さかば?刃が…逆ってこと?

「なんだ~、驚いたじゃないですかぁ…。」
「まァ強めには打ち込んできたから、しばらく起きられねェよ。」

土方さんは咥えていた煙草を指に挟み持ち、煙を吐いた。

「邪魔が入ったな。」

木の根元に座り直す。
あぐらをかいた土方さんが、自分の太ももの辺りを叩いて私を見た。

「こっち。来いよ。」
「っぐ」

グハッ…!

「『ぐ』?」
「っな、なんでもないです…。」

土方さんの隣に腰を下ろす。
うつむいていると、土方さんの手が私の耳に触れた。促されるように顔を上げる。

「……、」

何か言葉を交わす前に、

「っん…」

唇が重なった。
はぁ……幸せ。幸せで身体の芯が震えそう…、……って、

「んんッ!は、っ…ぁっ…」

ええぇぇ!?いいいいきなりでディープ!?

「ふっ…ぁ…っは…ッ」

あ、あれ…?気のせい、かな。
なんか…身体が……倒れて、きてるような気がするんですけど…。

「ッ、」

倒れてる!倒れてるよ!?
無理だから!さすがに外では無理だから!!

「ん…土方さっ…、待ッ」
「っ、あァ?」
「ッ外…っ…ゃン…」
「……。」

唇が離れる。土方さんが私を黙り見た。

「『やん』ってお前…」
「…ぅえ!?わっ私、そんなこと言いました…?」
「煽ってんのか。」

なっ…!!
グイッと顎を掴まれる。「違います!」と懸命に首を振ると、土方さんは笑って「バーカ」と言った。

「こんなとこでするわけねェだろうが。」

…あ、そうなの?
する気がないと言われると…ちょっとガッカリ?
そんなことを考えていると、

―――ヒュルルル…ドーンッ

「始まったな。」

大輪の花が、夜空に咲いた。

にいどめ




夏の思い出 4

モテ期到来?+興奮三昧 「真選組に慰安旅行とかあるんですか?」 私は隣で煙草を吹かす土方さんにうっとりしながら話しかけた。 出来るだけ、たくさん話していたい。だって今回の合コンは、私と山崎さんを引き合せるために組まれたも …つづく

夏の思い出 3

定番の席替え 「さて。何か食べ物を頼みましょうか。」 お妙さんが手をパチンと叩き、提案する。 「食べ物っつっても、ここは呑みメインの店だろ。あんのか?」 「やぁね土方さん。ここは私の『すまいる』よ?ない物なんてないわ。」 …つづく

夏の思い出 2

始まりの乾杯 賑わう店内に、ぶつかり合うグラスの音。 「それじゃぁ早速自己紹介ね!」 来てしまいました、警察合コン。 そう。本当にお妙さんは人を呼び、予定通りに開催されたのです! 「あらやだ、なぁに?真選組の方、人数が足 …つづく

夏の思い出 1

スタートダッシュ 「恋したぁぁい。」 それは私の何気ない一言が始まりだった。 「じゃあ合コンする?」 提案したのは久しぶりに会った友人。 彼女から『恋ってステキ!』なんて思わせるような恋の末に結婚したという話を聞いて、つ …つづく

旅立ち 5

手紙 揺れる薩摩行きの電車の中。 「…っ、…はぁ…、」 まだしゃくりあげる呼吸を抑えながら、私は深く息を吸う。 …予定外だった。見送られると泣きそうだったから、出発時間は誰にも言わなかったのに。 「まさか土方さんが見送っ …つづく

旅立ち 4

桜の花 そして夜は明け、四月十八日の静かな朝。 屯所の入り口で煙草を吸いながら、俺は紅涙を待った。しばらくして大きなカバンを手に出て来た紅涙が驚く。 「土方さん…どうして…」 「見送るために決まってんだろ。」 俺は紅涙の …つづく

旅立ち 3

やりたいコト 俺は、どちらかと言えば変化を望まない方だ。 平凡な日が続くなら、それが一生続けばいいと思う。あえて何か新しい風を吹かせることはなく、たまにやわらかな風が吹くだけで十分。だが紅涙は…違ったらしい。 ある日のこ …つづく

旅立ち 2

出逢い 始まりは去年の春だった。 ―――ドンッ 「きゃっ!」 「ぅおっ!!」 人の出入りが多い街、江戸。ターミナルはもちろんだが、駅も人の数が半端じゃない。 その時の俺は出張帰りで、電車での眠りを引きづっていたせいか、気 …つづく

旅立ち 1

午前0時 静かな俺の部屋。 俺しかいない、俺の部屋。 『土方さんっ!』 お前の声がしない、俺の部屋。 「やりたい事…か…。」 灰皿に煙草の灰が落ちる。 目の前にある大量の書類が頭に入らなくて、俺は静かに廊下へ出た。 中庭 …つづく